楽天野球団 元代表取締役社長 立花陽三氏(撮影:内藤洋司)
楽天野球団 元代表取締役社長 立花陽三氏(撮影:内藤洋司)

 2013年に球団創設以来初となるリーグ優勝、日本シリーズ制覇を果たした「東北楽天ゴールデンイーグルス」。その前年に「優勝」と「黒字化」の使命を受けて球団社長に就任し、大きな成果を残したのが楽天野球団 元代表取締役社長の立花陽三氏だ。2024年2月、著書『リーダーは偉くない。』(ダイヤモンド社)を出版した同氏に、目標達成のためにリーダーが果たすべき役割や、社員を巻き込むためのアプローチについて聞いた。(前編/全2回)

■【前編】ビールが売れ行き好調で大行列、それでも楽天球団社長が「喜ぶ社員を一喝」した理由(今回)
■【後編】中堅社員の心に火をつけた、楽天球団・若手社員の「斬新な集客アイデア」とは?

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リーダーの職に就いても「自分の本質」は変わらない

――著書『リーダーは偉くない。』では、楽天野球団社長としての経験を中心に、リーダーの在り方について語っています。著書のタイトルには、どのような思いが込められているのでしょうか。

立花 陽三/楽天野球団 元代表取締役社長、塩釜港 代表取締役社長、PROSPER 代表取締役社長

1971年東京都生まれ。小学生時代からラグビーをはじめ、成蹊高校在学中に高等学校日本代表候補選手に選ばれる。慶應義塾大学入学後、慶應ラグビー部で“猛練習”の洗礼を浴びる。大学卒業後、約18年間にわたりアメリカの投資銀行業界に身を置く。新卒でソロモン・ブラザーズ証券(現シティグループ証券)に入社。1999年に転職したゴールドマン・サックス証券で実績を上げ、マネージング・ディレクターになる。金融業界のみならず実業界にも人脈を広げる。特に、元ラグビー日本代表監督の故・宿澤広朗氏との親交を深める。その後、メリルリンチ日本証券(現BofA証券)に引き抜かれ、数十人の営業マンを統括するも、リーダーシップの難しさを痛感する。2012年、東北楽天ゴールデンイーグルス社長に就任。2013年に球団初のリーグ優勝、日本シリーズ制覇を達成。2017年には楽天ヴィッセル神戸社長も兼務することとなり、2020年に天皇杯JFA第99回全日本サッカー選手権大会で優勝した。2021年に楽天グループの全役職を退任したのち、宮城県塩釜市の廻鮮寿司「塩釜港」の創業者・鎌田秀也氏から相談を受け、同社社長に就任。すでに、仙台店、東京銀座店などをオープンし、今後さらに、世界に挑戦すべく準備を進めている。また、Plan・Do・Seeの野田豊加代表取締役と日本企業成長支援ファンド「PROSPER」を創設して、地方から日本を熱くすることにチャレンジしている。

立花陽三氏(以下敬称略) 自分自身の五十数年間のキャリアを振り返ると、新たに役職を与えられたり、好待遇を受けたりすると「自分は偉い」と誤解して、舞い上がる傾向にありました。その性格を反省し「リーダーは偉くないんだ」ということを肝に銘じる意味でタイトルにしました。

 これは私だけに当てはまることではないはずです。私はこれまで、リーダーになった途端に失敗する人をたくさん見てきました。

 役職に就いてお祝いの花やメッセージを受け取ったり、周囲から褒められたりすること自体は喜ばしいことです。しかし、リーダーになっても、自分の本質は変わりません。周囲の目が変わっても、自分自身を変える必要はないのです。自分が偉くなったと勘違いすると、後々痛い目に遭ってしまいます。

 本書を読まれた方がリーダーの立場になったときには、その役職にあぐらをかくのではなく、自分の長所と短所をしっかりと理解した上で責務をこなしてほしいと思います。

――「リーダーは偉くない」という考えを持って社員とコミュニケーションする上では、どのような姿勢が必要でしょうか。

立花 まずは「相手を理解する姿勢」が必要だと思います。上司が部下を理解し、「ちょうどいい距離感」を身に付けることで、本気で意見をぶつけ合える関係性を築けるのではないでしょうか。

 そのためには、相手にも自分のことを理解してもらう努力も必要でしょう。組織で仕事をする以上、意思伝達の方向性を合わせるためのコミュニケーションが欠かせません。その第一歩が「相手を知ること」だと考えています。