2012年に、東北楽天ゴールデンイーグルス(以下、イーグルス)を運営する楽天野球団の社長に就任した立花陽三氏。翌年、イーグルスは創設以来初のリーグ優勝と日本シリーズ制覇を果たし、収益拡大も達成した。立花氏が球団社長として成果を上げ、強い組織を築いた背景には、どのような哲学があったのか――。前編に続き、2024年2月に著書『リーダーは偉くない。』(ダイヤモンド社)を出版した同氏に、強い組織を作るために求められるリーダーの在り方について聞いた。(後編/全2回)
■【前編】ビールが売れ行き好調で大行列、それでも楽天球団社長が「喜ぶ社員を一喝」した理由
■【後編】中堅社員の心に火をつけた、楽天球団・若手社員の「斬新な集客アイデア」とは?(今回)
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リーダーの権力は「使いどころの見極め」が重要
――前編では、目標達成を目指す上でのリーダーの役割について聞きました。著書では、楽天野球団における組織再編の様子にも触れていますが、リーダーが組織を変える上ではどのような考え方が必要でしょうか。
立花陽三氏(以下敬称略) 球団経営で成果を上げるためには、会社全体が一丸となってファンやスポンサーに喜んでもらうための体制を築くことが不可欠です。そのために、時には強引な施策も必要だと思います。
社長の持つ権力は「組織にとっての切り札」になります。そして、経営を持続的なものにするためには「そのカードをどこで切るか」を見極めることが鍵になります。楽天野球団の場合には、所属する部署を過剰に意識する傾向があり、その壁を取り払う際に社長としての権力を行使しました。
プロ野球チームには「野球というスポーツを通じて地域に元気を与える」使命があります。しかし、各部署のメンバーが「これは私の領分だ」「私の部隊がこれを達成した」と壁を作り始め、自分たちのことしか考えなくなってしまうケースがあるのです。
特に、野球というスポーツの特殊な点は「選手が中心」と考えられていることです。もちろん、その考え方は間違いではありません。しかし、選手を管理する部署やチームをマネジメントする部門のメンバーは「自分たちは偉い」と勘違いしてしまいがちなのです。
例えば、「スーツ組」と呼ばれる営業部門がスポンサーに依頼され、選手のサインをもらおうとする場合、選手を管理している「ユニホーム組」の部門に頭を下げなければなりません。「ユニホーム組」の管理部長が承諾しない限り、選手にファンサービスの依頼はできませんでした。
もちろん、ユニホーム組には「選手を守るため」という大義名分があります。だからと言って部門間に上下関係が生じるのは理不尽ですし、そこに正当性があるとは思えませんでした。
そこで私は、スーツ組とユニホーム組の間にある壁を取り払う必要性を訴え、「選手の管理」と「ファンサービス」のバランスを取るために「ファンリレーション室」を新設しました。これを社長の直属機関として、ファンやスポンサーから要請があればチーム側と調整する権限を一元化したのです。
こうした組織再編を社長権限で行った結果、「ユニホーム組」の管理部長が持っていた権限を剥奪する形になりました。
強引なやり方ではありましたが、「黒字化」の達成に向けてのんびりしている時間はありませんでした。部門間の壁を壊して全社一丸となるためには、「権限の行使」といった大胆さも必要だと思うのです。