訴訟・責任リスクは、物理的リスクと移行リスクとも関係する。とくに、低炭素経済への移行過程において法規制が強化される中で、それに違反する場合に発生することが多い。また、排出の多い企業は、温暖化によって打撃を受ける市民や企業から起こされる訴訟の対象になる事例も増えている。適切な対応をしなかった政府が訴訟の対象になることもある。

 また、企業が脱炭素・低炭素化を進めていると宣伝しつつも、実態が大きく異なっている場合も、虚偽の情報開示として訴訟の対象になることも起きている。こうした誇大広告や虚偽の情報開示等をする行為は、「グリーン・ウォッシング」と呼ばれている。

 このような行為に歯止めをかけないと、努力している企業が報われないため、排出削減を進めていくことはできない。根拠のない宣伝に規制をかける動きが、欧州や豪州を中心に世界で始まっている。訴訟対象になれば、企業は評判・名声を落とし、訴訟により罰金を払うことになる可能性が高まる。

「グリーン・ウォッシング」の行為を減らしていくには、企業の情報開示を任意ではなく、法律で義務づけ、かつ第三者保証を義務づけることが望ましいとされている。

ビジネスの環境持続性を高めるために何から始めたらよいのか

 気候変動に対して企業がなすべきことは、明確である。まずは前述した3つの気候変動リスクそれぞれが自社のビジネスにどのような具体的な損失や資産価値の減少をもたらしうるのか検討することである。そして、想定しうる大きなリスクを洗い出した後、それへの対応力をどう高めていくかを考えることである。

 セクターによって企業が直面する3つのリスクの相対的な大きさは異なるであろう。例えば、食品・飲料業界では新興国・途上国からの原材料の調達が多く、これらは気候変動の影響を受けやすいので大きな物理的リスクに直面している。

 電力、自動車、鉄鋼・セメント・肥料といった業界では、温室効果ガス排出量が多いので気候政策の強化にともない大幅に排出削減できる生産方法や商品・サービスの提供へと転換していく必要があるため、移行リスクが大きいとみられている。

 また、CO2等を大量に排出しているセクターや森林破壊につながる原材料を使って商品を生産している企業は、訴訟の対象になって評判・名声等が低下するリスクも考えられる。