写真:Japan Innovation Review編集部

 2021年に飲食料品業界を驚かせた、グミ市場とガム市場の大逆転劇。人口減少が深刻化する国内情勢にもかかわらず、新商品が次々と生まれ、コンビニでの売り場面積を拡大し続ける「グミ」は、なぜこれほどのヒット商品となったのか? 本連載では『グミがわかればヒットの法則がわかる』(白鳥和生著/プレジデント社)から、内容の一部を抜粋・再編集。マーケティングの観点から、「奇跡の大ブレイク商品」グミの謎をひもといていく。

 第4回では、近年盛り上がりを見せる「推し活」の視点から、グミ市場の拡大に大きな効果が期待されているファンマーケティングの考え方について紹介する。

<連載ラインアップ>
第1回 急拡大するグミ市場の陰で、明治はなぜガム市場からの撤退を決めたのか?
第2回 明治「果汁グミ」「コーラアップ」はなぜ多くのロイヤルユーザーを獲得できるのか?
第3回 SNS発の大ヒット商品「地球グミ」は、なぜZ世代の心に刺さったのか
■第4回 カンロが「ピュレグミ」「カンデミーナ」「マロッシュ」で使い分ける“情緒的価値”とは?(本稿)
■第5回 ガムの主力ブランドがグミに“転生”、明治「キシリッシュグミ」が狙うユーザー層とは?(9月26日公開)
■第6回 ファンが市場拡大をけん引、SNS時代のグミ市場を取り巻く「マーケティング4.0」(10月3日公開)

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情緒的価値が大切なベネフィット

グミがわかればヒットの法則がわかる』(プレジデント社)

 ハーバード・ビジネススクール名誉教授だったセオドア・レビットが指摘した有名な話として「ドリルの例」がある。

 本質的に顧客が求めているのはドリルというモノではなく「穴」という価値だ。ドリルは「穴を開けるための手段」でしかなく、売り手は、買い手がどんな穴が開けられれば満足できるのかを考える必要がある。ところが、メーカーはドリルの特徴を説明することばかりに必死になりがちだ。

 マーケティングやブランディングにおいては「ブランドが顧客へ提供する価値は何か」「顧客が得るベネフィットは何か」の明確化が不可欠になる。

■ 提供価値を明確化して競合と差異化する

 この提供価値を明確にすることで、競合との差異化が可能になる。ブランドが提供する価値には「機能的価値」「情緒的価値」という大きく2つがある。

 機能的価値とは耐久性など、製品が持つ、具体的な機能的特徴やスペックを指す。数値化が可能で製品の優劣がわかりやすいため、多くの企業が機能性の高さを追求し、ブランディングでも強調しようとする。しかし顧客は、決してこの機能的価値だけで商品を選んでいるわけではない。数値の優劣ではなく、情緒的な理由で選ぶことがいくらでもある。

 スターバックスが提供する「第三の場所(サードプレイス)」は、情緒的価値の代表例だ。おいしいコーヒーを提供するチェーン店という機能的価値に加え、家庭でもなく、職場でもない、くつろげる居心地のいい第三の場所という情緒的価値を提供する。これこそが提供価値で、他社との強い差異化要因となっている。

■ コモディティ化の罠

 マーケティングの世界では「コモディティ化の罠(わな)」という言葉がある。そもそもコモディティ化とは、消費者にとって当面は価格以外に選択要因がなくなる状況を指す。その結果、競争激化により価格が急低下し、企業の収益性も悪くなる。

 コモディティ化が進むと、メーカーはさらに機能性を追求し、微細な差異を売りにするようになる。しかし、消費者にとっては過剰な機能だったり、差異がわかりにくくなったりすることがある。これがコモディティ化の罠で、製品やサービスの完成度は高くなるのに、消費者の満足度は低下してしまう。