写真提供:共同通信社

 2021年に飲食料品業界を驚かせた、グミ市場とガム市場の大逆転劇。人口減少が深刻化する国内情勢にもかかわらず、新商品が次々と生まれ、コンビニでの売り場面積を拡大し続ける「グミ」は、なぜこれほどのヒット商品となったのか? 本連載では『グミがわかればヒットの法則がわかる』(白鳥和生著/プレジデント社)から、内容の一部を抜粋・再編集。マーケティングの観点から、「奇跡の大ブレイク商品」グミの謎をひもといていく。

 第1回は、快進撃を続けるグミ市場の伸びを分析。一方で右肩下がりとなっているガム市場をはじめ、競合するさまざまな商品がグミ市場から受けている影響について探る。

<連載ラインアップ>
■第1回 急拡大するグミ市場の陰で、明治はなぜガム市場からの撤退を決めたのか?(本稿)
第2回 明治「果汁グミ」「コーラアップ」はなぜ多くのロイヤルユーザーを獲得できるのか?
第3回 SNS発の大ヒット商品「地球グミ」は、なぜZ世代の心に刺さったのか
第4回 カンロが「ピュレグミ」「カンデミーナ」「マロッシュ」で使い分ける“情緒的価値”とは?
第5回 ガムの主力ブランドがグミに“転生”、明治「キシリッシュグミ」が狙うユーザー層とは?
第6回 ファンが市場拡大をけん引、SNS時代のグミ市場を取り巻く「マーケティング4.0」

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2021年にグミ市場がガム市場を逆転!

グミがわかればヒットの法則がわかる』(プレジデント社)

 2023年は、菓子業界にとってエポックメイクな年になった。明治が2023年3月にガム市場からの撤退を表明したからだ。口寂しいときに食べたくなるお菓子の代表格、ガムとグミ。コロナ禍前の市場規模は、ガムがグミを大きく上回っていたが、2021年に逆転した。ガムが先細りする中、グミ市場は快進撃を続けている。

■ 消費者ニーズとギャップが広がった? ガム 

 明治がガムの主力ブランド「キシリッシュ(XYLISH)」シリーズと「プチガム」の販売を2023年3月末で終了した。「社会環境の変化により、ガムの価値と消費者のニーズとのギャップが大きくなった」(明治)というのが理由。同社はキシリトール配合商品の老舗(しにせ)格だったが、ロッテの主力商品「キシリトールガム」が強い市場で埋没。また、ガム市場が長期低落傾向にあることがこの決断につながった。

 キシリッシュは、虫歯予防に効果があるとされる「キシリトール」を日本で初めて配合した商品として話題と人気を集めた。発売20周年を迎えた2017年には、「イキがいいのだ」キャンペーンと題してロックバンド「キュウソネコカミ」にコラボレーション楽曲を依頼し、動画コミュニティ「Mix Channel(現ミクチャ)」で募集した動画を基にしたミュージックビデオを配信して盛り上げた。 

 ただ、25周年を迎えた2022年は特段のキャンペーンをすることはなく、翌2023年3月で販売を終了した。売り上げのピークは2007年だった。一方で、明治はキシリッシュのブランド名をグミに転用し、「キシリッシュグミ」を2023年4月に発売した。

■ グミ市場、2022年は前年比23%増

 東京都内のとあるコンビニエンスストア。棚で最も目立つ目線の位置にはグミ、その下にはタブレット(錠菓)がずらり。ガムは最下段にある。POSデータを駆使するコンビニの棚は、商品の浮き沈みをシビアに反映する(人気のグミでも一部の韓国製グミなどは売れ行きが悪く、店の隅っこで割引シールが貼られ、見切りの対象になっているのもご存じの通りだ)

 調査会社インテージ提供の市場規模データによると、2017年のチューインガム市場は823億円、グミ市場は555億円と約270億円の差があったが、ガム市場は2018年767億円、2019年741億円、2020年612億円と縮小の一途。一方のグミは2018年606億円、2019年619億円と拡大し、新型コロナウイルス感染拡大初年の2020年こそ569億円と前年割れしたものの、2021年は635億円と拡大し、同年593億円に縮小したガムを逆転した。 

 2022年のグミは前年比23%増の781億円と躍進し、548億円のガムに約230億円超の差をつけてリードした。わずか5年で、市場規模が逆転して立ち位置が入れ替わった格好だ。何か口寂しいときのお供だったガムは、そのポジションをグミに取って代わられた。 実際、ジェイ・エム・アール生活総合研究所(JMR生活総合研究所)の消費者調査(2023年5月、20~69歳の男女971人)によると、ガムとグミについて、1年前と比較して食べる頻度の増えた割合はグミが高く、ガムを4%ほど上回った。