実際、グミの例で言うと、カンロは主要ブランドで、ターゲットに応じてスペック(機能的価値)、提供価値(情緒的価値)をきちんと分けている。

「ピュレグミ」のターゲットは大人の女性、スペックは、果肉食感・フルーツの味わい、提供価値は、トキメキの瞬間を増やすこと。「カンデミーナ」のターゲットは男性、スペックは、ハード食感・特許製法の形、提供価値は、楽しさを届けること。「マロッシュ」のターゲットはZ世代、スペックは、もちもち弾力食感・スッキリした味、提供価値は、心躍る驚き――といった具合だ。

 また、なぜたくさん買ってくれるのか。なぜ、買わなくなったのか。これらの疑問を解き明かし、手を打つことがビジネスだ。ここでもカギになるのが情緒的価値だ。疑問を解明するには、人間心理への理解が必要になる。

 人は商品特徴や価格優位性などの機能的な価値だけを見て商品を買ったり、ライブに行ったりするわけではない。ときめいたり喜んだりと、「感情」をもとに行動する。例えば、今日ある商品を機能的な価値で買ってくれたとしても、感情的に「好き」でなければ、ほかに機能的に優れた商品が出たら、明日にはそちらに移ってしまう。

■ 企業やブランドを大切にしてくれる「ファン」

 したがって、商品を好きになり、ファンになってもらう工夫が必要になる。企業やブランドが大切にしている価値を支持してくれる人が「ファン」だ。たとえ、たくさん買ってくれなくても、しょっちゅうライブに来てくれなくても、「感情的に好き」でいてくれるのがファンだ。企業のやりたいことや理念をきちんと理解し、共感してくれる。ずっと心から愛してくれる。こういうファンは、企業が困難に陥っても、信じて支えて応援してくれる存在だ。

 最近の「推し活」の盛り上がりは、こうした感情を持った人々が、「好き!」をオープンにして謳歌し始めたためとも言える。その「感情の吐露」「感情の爆発」は、スポーツチームやアイドルだけでなく、グミなどの食品にも広がっている。カンロの村山浩昌さん(研究・技術本部研究開発部長)は、「食感もそうだが、形が自由に表現できたり、調整できたりするのがグミの大きな強み。

 そこで、ターゲットに対してフィットする材料はなにか、といった選択肢がある。ゲル化剤などの組み合わせで、表情も変わる。そこに色だったり、味だったりが乗せられる。無限の組み合わせがグミの世界を広げている。狭い選択肢の中で『推し』を選んでしまったら誰かと絶対被るが、選択肢が多いので、人と被らずに、自分の『好き!』を表現できる利点もある」と分析する。

 Z世代にとっては、推しが「心のよりどころ」になっている面がある。推しがあるから勉強や仕事をがんばることができたり、新しいことにチャレンジできたりと、日々の生活の「糧」に推しがなっているのかもしれない。

<連載ラインアップ>
第1回 急拡大するグミ市場の陰で、明治はなぜガム市場からの撤退を決めたのか?
第2回 明治「果汁グミ」「コーラアップ」はなぜ多くのロイヤルユーザーを獲得できるのか?
第3回 SNS発の大ヒット商品「地球グミ」は、なぜZ世代の心に刺さったのか
■第4回 カンロが「ピュレグミ」「カンデミーナ」「マロッシュ」で使い分ける“情緒的価値”とは?(本稿)
■第5回 ガムの主力ブランドがグミに“転生”、明治「キシリッシュグミ」が狙うユーザー層とは?(9月26日公開)
■第6回 ファンが市場拡大をけん引、SNS時代のグミ市場を取り巻く「マーケティング4.0」(10月3日公開)

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