Stuart Dunbar Baillie Gifford Partner
ベイリー・ギフォード パートナー スチュアート・ダンバー氏
2003年にベイリー・ギフォード入社。パートナーとして金融機関を 担当。コンサルタント、欧州・アジアでのクライアントサービスおよび マーケティング業務にも貢献。1993年ストラスクライド大学卒業 (BA、金融および企業法務)。

ベイリー・ギフォード社は100年以上の歴史を有する英国の資産運用会社。
揺るぎない信念として「長期投資」を掲げ、日本においては、三菱UFJフィナンシャル・グループを通じて、日本の年金及び個人資産を運用している。
パートナー(共同経営者)のスチュアート・ダンバー氏に同社の投資哲学、Actual Investor(真の資産運用会社)としての矜持を聞いた。

なぜ長期投資にこだわり実践し続けるのか

⸺ベイリー・ギフォード社(以下、BG)では、四半期先ではなく、10年先を見据えて投資を行うそうですが、なぜ長期投資が重要なのでしょうか。

スチュアート・ダンバー氏(以下略) 投資とは本来、長期的なものです。短期で資金を投じて「上がった、下がった」というのは投資ではなく、「投機」だとわれわれは考えます。市場参加者の多くは、株式市場がどうなるのか、金利がどうなるのかといったことを気にしながら投機を行っています。一方、われわれはあくまでも企業に焦点を当てて投資しています。企業の新しい魅力的なプロジェクトに対してリスク資本を供給し、彼らのビジョンの実現を支援しているのです。

 短期では市場の影響により投資がうまくいかないこともあるかもしれません。ただ長期で見ると、投資先企業がしっかりと利益を出して成功すれば、株価も自ずとついてくると考えています。短期の投機家は四半期先を考えて資金を投じ、インデックスに勝つことばかりを考えていますが、結果的に彼らのポートフォリオは、インデックスとあまり変わらないものになっているケースも見られます。

 われわれは10年先を見据えて確信度の高い銘柄のみに厳選投資を行い、辛抱強く保有し続けることで、長期的にリターンをあげていきます。それが最終的にお客さまのリターンにつながると考えています。

⸺投資先企業に対しては、長期的な信頼関係の構築を重視されています。その理由と具体的な事例を併せて教えてください。

“真の投資家”として新しい魅力的なプロジェクトや新規事業に投資をしていくためには、その意思決定を担う経営陣と良好な関係を築き、彼らが将来どういうビジョンで、どういうふうにキャッシュフローを使っていくのか、どういった製品を拡充していくのかといった点を確認する必要があるからです。

 このときに重視するのは、経営陣の目線とわれわれの目線が合っているかどうかです。四半期の業績について話をする経営者よりも、5年後、10年後のビジョンについてエキサイティングに話をしてくれる経営者をわれわれは好みます。対話を通じてそれを確認するだけでなく、経営者に対して短期的な利益の追求ではなく、長期的な成功を目指して経営することを促したりもします。

 具体例の1つに2004年から投資しているアマゾン・ドット・コムがあります。米国で2005年にスタートした会員制プログラム「Amazonプライム」は、利益を圧迫するという理由から株主から不人気のアイデアでした。しかし、われわれは長期的に多くの顧客を獲得し、顧客のロイヤルティーも高める施策であると判断し、そのアイデアと戦略を支援しました。ご覧の通り、Amazonプライムは現在世界中に広がり、多くの顧客を獲得しています。

 アマゾンは創業から最初の15年は利益がほとんど出ていない状態で、株式市場からは嫌われていましたが、われわれは創設者であるジェフ・ベゾス氏との関係があり、長期的にビジネスをどう考えているのか直接話を聞いていたので、評価することができました。


図1:アマゾンへの投資を始めたタイミングと株価の推移

 もう1つはモデルナです。われわれはコロナワクチンが出る前からリサーチをして、経営陣と関係を築いてきました。当時はまだ未上場の会社で、mRNAも技術的に確立されていない状態でしたが、彼らが考えている技術の革新性やビジョンはわれわれにとって非常に魅力的に映り、2018年のIPO(新規株式公開)で投資しました。


図2:モデルナへの投資を始めたタイミングと株価の推移

 株式市場では引き続きコロナワクチンの会社として見られていますが、モデルナの本格的な成長はむしろこれからです。mRNA技術を活用した新薬開発のパイプラインは48もあり、それらが市場に流通するようになれば彼らの評価も大きく変わるでしょう。

株式市場ではなく企業に目を向けて成長性を見極める

⸺長期投資を実践し続けることは簡単ではありません。市場の熱狂に惑わされることなく、自らの信念を貫くことができるBGの仕組みとはどういったものですか。

 最も重要なのは企業文化です。われわれは運用担当者を新卒で採用し、一から育てることを重視しています。まっさらな状態からBG流の投資を学んでもらうことで、長期投資の文化を深く浸透させているのです。

 金融市場にあふれるノイズ(余計で無意味な情報)を避けるために、われわれは経済学部出身者だけでなく、医学や歴史、哲学など、異なる分野で学んできた人たちを採用する傾向があります。また、大学や研究機関など学術界との関係を重視する点も大きな特徴です。専門領域の最前線にいる人たちからインサイトを得ることで、ユニークな投資アイデアの創出が可能になっています。

 もう1つ重要なのは、パートナーシップ制です。BGには外部の株主がおらず、株式も公開していないので、短期的な利益の追求を迫られることがありません。従って、われわれの経営自体が長期志向を徹底できる仕組みになっているのです。

⸺最後に、日本の投資家に向けてメッセージをお願いします。

 やはり長期投資を貫くことが非常に重要だと訴えていきたいです。四半期や単年度ベースでリターンを獲得し続けることは非常に難しいのですが、多くの人々がそのことを忘れて投機に夢中になっています。情報端末のスクリーンを見て、24時間株価をチェックしたりしています。

 われわれは株式市場を見るのではなく、実際の企業に目を向けて、実社会の中でしっかりと成長していけるようなプロジェクトを手がけている企業に資本を投資していきたい。それこそが投資が持つ本来の意味合いであり、継続的に皆さまにお伝えしていくことがわれわれの使命だと考えています。

 ご存じの通り、非常に不透明な世の中になっています。金利は上がっていますし、市場のボラティリティも高くなっています。戦争はいまだ収束の気配がありません。そうした中でも忘れてほしくないのは、真の勝者となる企業というのは、今のような難しい局面をも乗り越えて、人々に求められる商品・サービスをつくり、世の中に付加価値を提供して繫栄していくということです。そうした企業を見極めて資金を投じるのがわれわれの目指す投資です。

※投資信託の元本や収益は保証されたものではありません。
 

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