普段とは違う場所で仕事と休暇の両方を充実させる「ワーケーション」。その受け入れが、各自治体で進んでいる。その中で、ひと味違うワーケーションを行える場所がある。東京の離島、式根島だ。日常と同じように効率よく働けることに加え、“プラスα”のアウトプットが見込めるとのことで、「式根島アイランドワーケーション」の名も持つ。同島でのワーケーションは、何が特別なのか。現地で取材した。

古くから「湯治」を目的に人が訪れた場所

 古くは『男はつらいよ 第36作 柴又より愛をこめて』のロケ地にもなった、風光明媚な離島、式根島。東京都の11の有人離島の一つで、調布飛行場からなら飛行機と船で計45分ほど、竹芝桟橋からは高速フェリーで3時間ほどの距離にある。※調布飛行場から新島まで飛行機で約30分+新島から船で約15分。東京・竹芝桟橋からは、ジェット船以外にも大型船があり、その場合、約10時間で到着。

 そんな式根島が、ワーケーションの地として注目され始めている。特に同島でのワーケーションは個人利用だけでなく、中小規模のグループにもうってつけである。すでに同島では、個人や企業にワーケーションを体験してもらうモニターツアーを複数回開催しており、同島へのワーケーションの問い合わせも増えているという。

 式根島がワーケーションで注目される理由の一つは、離島にも関わらず日常と遜色ないレベルで仕事ができるほど、環境面が整っている点にある。

 同島は東京の島しょ地域のブランディングを行う東京都の後押しのもと、ワーケーションを通じて島の関係人口を増やすプロジェクトを2019年よりスタートしている。その一環として同島では、Wi-Fi完備の環境下で通常のデスクワークや個室でのオンラインミーティングが行えるコワーキング施設を、島内に設置。加えて複数の宿泊施設で、Wi-Fi環境や、宿内のコワーキングスペース、さらには長期滞在者向けの宿泊割引の整備を進めた。  

 しかし、普段と変わらない形で仕事ができるだけであれば、わざわざ来島する必要もない。そこに式根島ならではの価値が組み合わさるからこそ、「式根島アイランドワーケーション」となる。では、その価値とは何なのか? 一般社団法人 式根島観光協会 事務局長・田村修一さんはこう話す。

「式根島アイランドワーケーションの最大の特徴は、未開発の自然環境をベースとした非日常性を味わえる点です」

 田村さんは東京の内地にて、大手アパレル会社で13年働いた後、12年ほど前に妻の実家がある式根島に移住した。現在は観光協会で同島の魅力の発信し、島外者と島民をつなぐ役割を担う。

「式根島の“非日常性”の筆頭が、温泉です。島は古くから湯治湯の地として知られ、他島からも多くの人が湯治に訪れました。中でも島の南側にある地鉈(じなた)温泉は、『全国秘湯ランキング』で東日本2位に選出された名湯。海岸の岩場を鉈で割ったようなワイルドな絶景のもと、温泉を堪能できます。神経痛や冷え症に効果のある泉質で、『内科の湯』の別名もあります。

 また地鉈温泉の近くにある『松が下雅湯』は、夕方になると島のおじさま・おばさまたちが集う場所で、足湯も併設されています。言うなれば、島の南側はどこを掘っても温泉が出てくるような状態で、地図に載っていない温泉もあるんです」

地元民が愛する「松が下雅湯」

絶景を目の前にしての仕事作業も可能

 そして式根島の非日常性でいえば、もう一つ、代名詞と言える存在がある。

「リアス式海岸の複雑な地形によってできた、エメラルドグリーンの美しい入り江が、島には複数あります。中でも『泊海水浴場』が有名です。夏場は海水浴客で賑わうものの、オフシーズンは人がほとんどおらず、半ばプライベートビーチのようになります。ここで海をゆったり眺めるだけで、相当に癒やされるでしょう」

島内随一の観光スポット「泊海水浴場」

 他にも木々が生い茂る島道や遊歩道での森林浴、海岸を一望できる複数の展望台など、都会では味わえない神秘的スポットにはこと欠かない。島は自転車で1時間ほどあれば周遊できる広さで、朝日や夕日に合わせてのサイクリングやランニングもお勧めだ。また、ダイビングや磯釣りのスポットとしても名高い。

「都会だと朝日や夕日をぼーっと眺めることはあまりないと思いますが、島に来ると自然とそうしたくなるはずです」

 ちなみに式根島でユニークなのが、海岸や温泉場などの主要屋外スポットにも、Wi-Fiポイントを設置している点だ。それにより、息を呑む美しさの海を見ながら、またほっこり温かな足湯に浸かりながら仕事作業も可能となっている。気候が良ければ、その日ごとに好きなスポットに行って作業する、なんてこともできてしまう。

 さらに田村さんは、式根島アイランドワーケーションの価値として、人の魅力を挙げる。

「当観光協会の統計では、式根島は一度来た人がまた来島する“リピート率”が非常に高く、10回以上来ている方もザラです。その大きな要因が、『人』にあるのかなと。島民はちょっとシャイな人も多いのですが、その分一度心を開くととても人懐っこかったりします。そんな島民とふれあうことで、また島に来たくなる方が多いのでしょう。“名物島民”もいろいろいます」

 その一人が、式根島唯一の寺である東要寺の、横山智公住職だ。地元では、“サーファー和尚”としてよく知られている。横山さんは中学卒業後、島を出て、宗門の総本山の高校を卒業された。その後修行を経て、僧侶の資格を獲得し  、そのまま島外で仕事に就いた。その後30歳ごろに島に戻り、同じく島出身の祖父と父の後を継いで東要寺の住職となった。サーフィンは50歳になってから再復活し  、還暦を控える今なお、現役バリバリだ。

東要寺 横山智公住職

「正直、若いころはお坊さんの仕事に魅力を感じていませんでしたが、だんだんと意義や使命感を感じるようになりました」

 東要寺では、横山住職による毎朝6時半からのお勤めに誰でも参加でき、祈願帳に記入した願いを、祈願してもらえる。そして寺の一番の名物が、住職による説法だ。

ワーケーションが“ターニングポイント”に

「怒りや恨みなどネガティブな感情をいつまでも抱えたままでは、人生もったいありません。食事も美味しくなくなってしまいますよね。説法では、そうした感情を鎮めるための知恵や瞑想のお話を、よくしています。ご存知の通り、お釈迦さまが悟りを開いた時に行った瞑想は、科学的にも身体を若返らせ、心を落ち着かせることが分かっています」

 離島の環境も相まって、住職の言葉は心に響くものがある。

「ここは悟りを開く場所。何事にも動じない心を、努力次第で持てることを教えるのが、お寺の仕事です。活動を通して人に喜んでもらえることが、やっぱり嬉しいですね。サーフィン? 身体を動かすことも大切なので、75歳までは続けます(笑)」

 では、式根島アイランドワーケーションは、島自体には何をもたらすのか。田村さんはこう語る。

「島では高齢化と担い手不足が進み、このままでは将来、経済が成り立ちません。だからこそワーケーションをきっかけにして、共に島のことを考え、担ってくれる人材を増やしていきたい。そのためにぜひ、『ただいま』とまた戻りたくなるような地にできればと考えています」

 島では、宿泊施設での交流会などを通し、ワーケーターと島民のコラボレーションも促進している。そうした交流を通し、来島者が島の課題を発見し、当地での新たなビジネスにつなげることも十分可能だろう。

 ちなみに同島では前述のWi-Fiポイントだけでなく、キャッシュレス決済の導入も進んでいて、島の多くの宿・商店・飲食店で現金なしで決済できる。また、国のEV補助金を後押しに、電気自動車の普及も進んでいる。アナログなイメージの離島にして、こうした先進性を併せ持つところにも、式根島の価値や面白さが表れている。

 日常と同じように作業できる環境と、離島ならではの非日常性を組み合わせた「式根島アイランドワーケーション」。そこでなら、普段と一段違う集中力で作業に臨め、得がたいアイデアやアウトプットを生めるかもしれない。また、共に非日常空間に身を投じることで、チームの結束やエンゲージメントも高まるだろう。 

 そして仕事や人生の節目、あるいは何かの行き詰まりを迎えている人の背中を押し、現状を打破してくれる。この地であれば、ワーケーションが“ターニングポイント”となることも、十分あり得るだろう。

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