メディアやEコマース、家電などのプロダクトに至るまで、AI(人工知能)は私たちの身近に存在するようになっている。一方、ビジネス現場でのAI活用は企業によって差があるようだ。では、その要因はどこにあるのか。「文系AI人材になる―統計・プログラム知識は不要」の著者で、日本ディープラーニング協会に所属する野口竜司氏と、ビジネス現場向けAI予測分析ツール「Prediction One」を累計2万社以上に提供するソニーネットワークコミュニケーションズ社の高松慎吾氏に話を聞いた。

AI活用が進む一方、業務活用できる企業が少ない

―― 野口さんが「文系AI人材になる―統計・プログラム知識は不要」を出版されてから約2年が経過します。昨今のAI普及状況は想定通りなのか、想定以上なのか、見解をお聞かせください。

野口氏 想定以上のスピードで進んでいます。GAFA(グーグル、アップル、メタ・プラットフォームズ、アマゾン・ドット・コム)に代表される大手プラットフォーマーは、AIを活用した数多くのサービスを提供するようになりました。今やAIがビジネスの根幹になっている企業も少なくありません。

 国内でも、さまざまな企業でAIの活用が進んでいます。製造業の現場では、品質管理などに画像認識系のAIを導入しています。自動運転でも歩行者や信号、車線などの認識が欠かせません。一方、消費者やユーザーとしてAIの恩恵を受ける人が増えていながらも、それを提供・活用する企業とそうでない企業との差が急速に開いています。

日本ディープラーニング協会 人材育成委員メンバー 野口 竜司 氏

―― 社会的にAIの普及が進む一方で、まだAIを十分に活用しきれていない企業も存在するということですね。その要因はどこにあるのでしょうか。

野口氏 いくつかの理由があります。まずは「人」の問題です。AIを導入できる知見のある人材がいないのはもちろんのこと、そもそも自社のどこにAIを活用するといいのか考えられる人材もいません。また、せっかくAIを導入しても「組織」の問題で頓挫してしまう企業もあります。よく耳にするのは「うちもAIで何かやれ」という経営者の号令で若手社員を集めてトライしてみたものの、PoC(実現性を確かめる概念実証)で終わってしまい、成果を発揮するまでに至らないというケースです。

―― AI導入が進まない企業はどのようにきっかけをつかめばよいでしょうか。

野口氏 たとえ伝統的な業界の企業であっても、AI導入のチャンスはあると考えています。AIを使って新たなサービスを創出することが難しくても、脈々と人がやってきた業務をAIに置き換える、といったことは可能です。

 例えば、人海戦術でやっている非効率的な業務をAIによって効率化することで、人間は付加価値の高いコア業務にシフトできるでしょう。加えて、自然言語系AIなど、発展著しい分野も新たに出てきているため、AI導入を進めることで新たなチャンスを掴む企業も出てくるはずです。

「AIプログラムに関する理解」以上に大切なこと

―― 大手企業でも、AI導入に向けて人材を採用したり、新たに組織を設置したりする企業も出てきました。AIを成果につなげるためのポイントはどのような点でしょうか。

野口氏 AI導入というと、データ・サイエンティストやAIエンジニアといった「理系AI人材」を採用しなければならない、と考える人が多いようです。実際にこれらの人材を採用したり、専門の部署を作ったりしているところもありますが、「ちょっと調べてほしい」「これを予測してくれ」といった社内の依頼をこなすのが役割になっているところもあります。それでいて業務部門にとっては順番待ちでなかなかやってくれない、結果が出てくるのが遅い、といった現象が起きています。

 私が著書の中で書いたように、大切なことは「AIを使ってどのような価値を生み出すかを定め、その実現に向けて迅速に動けること」です。小さく作って、すぐに試して、間違っていれば直してまた試すといったやり方が適しています。その点ではAI人材においても、AIのプログラムへの理解以上に、自社のビジネスそのものの理解が重要になります。

―― 高松さんにお尋ねします。ソニーネットワークコミュニケーションズでは、累計2万社以上にAIの予測分析ツール「Prediction One」を提供されています。ビジネスの現場において、AI普及をどのように感じていますか。

高松氏 大手企業から中小企業まで、普及が進んでいると感じます。「Prediction One」を採用される企業も増えています。さらなる普及の鍵は、いかにテクノロジーを意識せずに現場で使えるようになるか、だと思います。

  AIを導入する企業は増える一方で、課題を抱える企業も存在します。例えば、スクラッチ(ゼロからシステムを開発する手法)でシステムを構築した場合には、品質の担保に苦労するケースが見受けられます。近年はAIの自動化ツールも登場しており、AIの専門知識を持つ方も製品化されたツールを使用するようになってきました。その理由は、スクラッチ開発と比べると、製品化されたツールは品質が安定しており、利用部門の作業効率を高めやすいからです。

 その点で「Prediction One」は、機械学習やプログラミングなどの専門知識がなくても操作できるユーザーインターフェースが大きな特長で、数クリックの操作で高精度な予測分析を実行できます。現場の社員の方が「こんなことに使えないか」と考えたことを、簡単に予測分析できます。

Prediction Oneは機械学習やプログラミングなどの専門知識がなくても操作できる
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―― 経済産業省の調査によると、2030年にはAI人材が12.4万人不足すると言われており、人材育成が急務となっています。AI人材の育成に関して、野口様が携わられている取り組みについて教えてください。

野口氏 ヤフーやLINE、ZOZOなどを傘下に置くZホールディングス(HD)は2021年7月、グループ横断でAI人材を育成するプログラム「Z AIアカデミア」を発足させました。ZHDは2025年までにグループでAI人材を5000人増やす計画です。私も「Z AIアカデミア」のボードメンバーを務めています。

 AI人材に限らず、人材育成において大切なのは、「集い、共に学ぶ場」を作ることです。まずは一歩踏み出すと、霧が晴れるように見えてくるものがあるのです。さらにそこで成功体験を積むことで、学びの意欲につながります。最初は小さな成功体験から、そして社会を変えるような成功体験へとつなげてほしいと願っています。

現場社員が日常的にAIを利用できる環境づくりを

―― ソニーネットワークコミュニケーションズはビジネス現場だけでなく、教育機関や企業の人材育成の現場にも「Prediction One」を提供されています。企業がAI人材の育成を図る上では、どのように進めるべきでしょうか。

高松氏 座学の研修を受けるだけでは、なかなか定着が難しいものです。そこで、研修で実際にAIツールを使ってもらうことで、AIの具体的なイメージを掴んでもらうことができます。また、現場で同様のAIツールを使うことができれば、現場のデータを使いながらAI活用の検討を具体的に進められるはずです。

ソニーネットワークコミュニケーションズ 法人サービス事業部AI事業推進部
Prediction One プロジェクトリーダー 高松 慎吾 氏

野口氏 「Z AIアカデミア」の教材にも「Prediction One」を使っています。これまでAIに触れたことのない初学者でも簡単に扱える点が大きな特長だと思います。

―― 野口さんは日本ディープラーニング協会の人材育成委員も務めていらっしゃいます。最後に、日本企業におけるAI人材育成への期待をお聞かせください。

野口氏 ディープラーニング協会ではG検定というAIの検定試験を実施していますが、このGは「ジェネラリスト」のGなのです。まさに、ジェネラリストがAIを活用する本格的な時代になってきたと実感しています。

 AIなどのディープラーニングを事業に生かすことができるかどうかが企業の成長を大きく左右することになると思いますし、少子高齢化にともなう労働人口の減少などが進む中でも、企業の優位性を生むことができると思います。

―― そのためにも、ツールの活用が大切になってきそうです。

高松氏 エクセルやパワーポイントのように、誰もが当たり前にAIツールに触れることができ、実践的に活用できる環境整備が理想的です。

 そのためにも、AIの専門家向けではなく一般の利用者向けに品化されたAIツールが重要な役割を担うはずです。当社では、AI予測分析ツール「Prediction One」に加えて、導入段階における利用方法の習得から、課題設定やデータ準備など、AI導入時の課題解決に貢献するサービスをご用意しています。新たにAI活用をお考えの企業様はもちろんのこと、今以上にAIを活用したいとお考えの企業様にもお役に立てると自信を持っています。

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