世界30以上の国と地域で金融サービスを展開する野村グループ。日本の証券業界のリーディングカンパニーは今、グローバル金融サービスグループへの歩みを加速している。今、野村でどのような変化が起きているのか。グループを率いる奥田健太郎グループCEOに、落語家の三遊亭楽麻呂氏が話を聞いた。

グローバル展開を加速する野村グループ

三遊亭楽麻呂氏(以下、楽麻呂) 私は野村グループに20年くらい前からお世話になっています。私にとってまさに証券会社の代表的な存在です。

奥田健太郎氏(以下、奥田) 楽麻呂さんはじめ多くの方々が、「野村=日本の証券会社」というイメージを持たれていると思います。しかし実際、皆さんがお持ちのイメージと今の私たちの姿は大きく異なります。

 野村グループ(以下、当社)は今、世界30ヵ国・地域を超えるグローバル・ネットワークの下、精力的にビジネスを展開しています。グループ全体で約26,000人の社員が在籍していますが、その内の約4割の社員が海外で勤務しています。まさに、世界にフランチャイズを有するグローバル企業と言えるのではないでしょうか。

 ビジネス領域や事業内容も以前に比べ大きく変化しています。お客様のニーズやお悩みが多様化する昨今、金融機関には高い専門性や総合力が求められています。当社は中核である野村證券以外にも、主に資産運用ビジネスを担う野村アセットマネジメント、信託ビジネス全般を展開する野村信託銀行、航空機リースの専門会社である野村バブコックアンドブラウンなど数多くの企業があり、グループ内の企業がその専門性を生かし、相互に連携しながら、お客様に様々な金融商品やソリューションを提供しています。

 私たちの経営ビジョンは「社会課題の解決を通じた持続的成長の実現」です。具体的には、金融資本市場において、投資家と資金調達を必要としている企業などをつなぎ、リスクマネーの循環をサポートすることで、人々の暮らしや社会・経済の発展に貢献していくことです。


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楽麻呂 今や野村はグローバルにビジネスを展開する金融グループなのですね。

奥田 海外への展開という意味では、野村證券の創業は1925年ですが、創業から2年後の1927年にいち早くニューヨークに支店を開設しています。創業者は当時から、世界に勇躍しグローバル企業になることを目指していたのです。

 その後長い時間をかけ、着実に海外でのビジネス基盤を広げてきましたが、特に、2008年にリーマン・ブラザーズの欧州・アジア事業を承継してから、海外における規模や存在感が飛躍的に高まりました。今ではグループ全体の収益の約半分は海外ビジネスによるものですし、法人向けに金融商品やソリューションを提供するホールセール部門は、収益の7割以上を海外で獲得しています。

 欧米の投資銀行などグローバル金融機関との競争はもちろん厳しいものですが、米国の政府機関債の引受シェアの業界ランキングで1位*、欧州国債売買高シェアで2位*、スタートアップが急成長しているインドでのIPOのランキングで1位*となるなど、海外でも当社が優位性をもつ分野が増えてきています。最近は海外の株式にご興味をお持ちの個人投資家のお客様や、海外企業の買収をご検討されるご法人も多く、お客様のニーズにしっかりお応えするためには海外での基盤構築は大変重要だと考えています。今や、海外抜きに野村のビジネスを語ることはできません。
*(出所)Bloomberg、期間:2020年1月~12月


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楽麻呂 海外でも金メダルをとっている分野があるということですね。

奥田 はい。グローバルに展開するビジネスの状況をふまえ、経営陣のグローバル化も進んでいます。持ち株会社である野村ホールディングスの取締役12名のうち8名が社外取締役で、その内の4名は海外の方で構成されています。日本からご参加いただいている社外取締役の皆さんの豊富な知見を経営に生かすとともに、海外の方とグローバル基準で様々な意見や交わすことで、グループのガバナンスの強化を図っています。

多様性の推進とサステナビリティへの取り組み

楽麻呂 一昔前、「野村=体育会系」というイメージがありましたが、今はどうなのでしょうか。

野村ホールディングス株式会社 代表執行役社長 グループCEO 奥田 健太郎氏

奥田 確かに私も学生時代はサッカー一筋でした(笑)。

 この10数年、人材活用において当社は、グループワイドの視点に加え、性別・年齢・キャリア等の多様性(ダイバーシティ)を重視する取り組みを進めてきました。今ではグループの社員の国籍数は約90カ国にのぼります。また採用の面でも、新卒採用とキャリア採用の人数はほぼ同人数で、多様なバックグラウンドをもった社員がお互いに刺激しあいながら働いています。

 女性活躍の観点で言うと、女性管理職の数は飛躍的に増えています。先日の役員人事で新たな執行役員を発表しましたが、4月には最年少の執行役員として女性が就任する予定です。体育会系の金太郎飴集団と言われた頃から脱皮して、今の野村はかなり人材の多様性が進んでいるグループと言えるのではないでしょうか。

楽麻呂 多様な人材活用を進められているようですが、キャリア形成の観点はいかがでしょうか。

奥田 当社は伝統的に、若手社員の育成や研修に力を入れている企業です。最近は、在職年数の長い社員にもリカレント教育の機会を提供したり、中途入社社員向けの研修も充実させています。社員の能力開発や研修に力を入れる理由はすなわち、当社の最大の財産は「人」であるからに他なりません。社員全員がもてる能力をいかんなく発揮できるよう「人」への投資を惜しみませんし、それこそが持続的成長の要だと考えています。

楽麻呂 社会の持続的成長という観点からSDGsやサステナビリティへの関心が高まっています。野村はどのような取り組みをされているのでしょうか。

奥田 SDGsやサステナビリティの取り組みは当社の経営戦略の軸であり、当社の企業価値の向上と社会の持続的成長は同じ道の上にあると考えています。

 具体的な取り組みとしては、2030年までにグループの温室効果ガス排出のネットゼロ実現に加え、2050年までに投融資先と運用資産についても(温室効果ガス排出の)ネットゼロ化を目標に掲げています。

 金融機関である当社はビジネスにおいてそれほどCO2を排出するわけではありません。私達が真に注力して取り組むべきことは、サステナブルな社会の実現に向けたお手伝いであり、お客様が脱炭素化をはじめとするSDGsに取り組まれる際のサポートをさせていただくことが重要だと考えています。世界の脱炭素化には膨大な投資が必要になりますが、その約半分がアジアでの(資金調達の)需要だと言われています。まさに、アジアに本拠地を置く金融機関として当社が最も力を発揮できる分野です。具体的には、今後5年間で約14兆円(1250億ドル)のサステナブル・ファイナンスの実行をサポートすることを目標に掲げています。


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