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 パブリッククラウドへのシフトが進み、マルチクラウドやハイブリッドクラウドといったシステム環境が広がる中で、クラウドネイティブ技術として注目されているのがコンテナであり、オーケストレーションツールのK8s(Kubernetes)だ。その背景として、コンテナを利用するメリットはどこにあり、どんな課題があるのか。コンテナプラットフォームを提供する主要ベンダー5社と、SIerである伊藤忠テクノソリューションズ株式会社が、コンテナの本質や可能性などについて意見を交わした。

DXの高まりを背景に国内企業の4割がコンテナを導入

谷川 調査会社によれば、すでに4割の企業がコンテナ技術を導入していると言われています。クラウドネイティブ技術を有効活用するために注目されている、今のコンテナの市場の状況をどう捉えていますか。

F5ネットワークスジャパン合同会社 アジア太平洋地域、中国、日本担当、上級エバンジェリスト 野崎 馨一郎 氏

野崎(F5ネットワークスジャパン) 大事なのは、企業の間にコンテナを使おうという具体的な志向が先にあって、コンテナ利用が広がっているわけではないという点です。大きな流れで見れば、まずモダナイゼーションやDXのような大きな枠組みで取り組みが進み、その結果としてコンテナが使われているのです。
 また世界的に見ると、DXがアプリケーションのモダナイゼーションにも大きな影響を与えていて、2021年あたりから日本もマイクロサービス化を含めたモダナイゼーションが進み、アジャイル開発の採用なども世界のレベルに追い付いてきています。そうした動きに合わせてインフラ基盤の見直しが進められ、その中でコンテナの利用が広がっていると捉えるべきです。

ヴイエムウェア株式会社 マーケティング本部 チーフストラテジスト 渡辺 隆 氏

渡辺(ヴイエムウェア) 1~2年前くらいまでは、コンテナを使っているのはネット系の企業が多い印象でしたが、最近ではエンタープライズ企業がコンテナに軸足を向ける兆候が見られるようになっています。

 もっとも企業の部門によって温度差が極端なケースもありますが、市場全体ではやはり伸びていますし、4割という数字にも妥当性があると思います。

ヴイエムウェア株式会社 ソリューション技術本部 デベロッパーアドボケイト 柳原 伸弥 氏

柳原(ヴイエムウェア) その4割の内訳をセグメントや企業レベルで見ると、やはりデジタルネイティブと呼ばれている企業で非常に伸びていると感じています。そういう企業は、しがらみとなる既存資産がなく、新しいものを世の中に送り出そうというモチベーションを強く持っています。その点で、よりコンテナとの相性が良いといえますね。

本格的なクラウド活用で浮上してきた課題と解決策とは

シスコシステムズ合同会社
テクニカルソリューションズアーキテクト 吉原 大補 氏

吉原(シスコシステムズ) シスコシステムズには、数千本のビジネスアプリケーションがありますが、2015年にはアジャイルでつくられるアプリケーションが全体の5割を超え、今は、ほぼ100%アジャイルで開発されています。

 この実践を通して分かってきたのは、クラウドネイティブなアプリケーションには、さまざまな問題があることです。特に問題になるのが、システムの状況を観測するオブザーバビリティの領域です。当社ではその問題の解決をビジネスにするために、2017年にはアプリケーションパフォーマンス管理ソリューションを提供するAppDynamicsという企業を買収しました。

 当社自身がクラウドネイティブな企業でありながら、エンタープライズな企業でもあるという両面性を持って取り組んできた立場から考えると、2020年を超えた時点で企業の4割がコンテナを利用しているというのは、十分にリアリティーがある数字だと感じます。

日本ヒューレット・パッカード合同会社 コンピュート技術部 IT スペシャリスト 木村 拓 氏

木村(日本ヒューレット・パッカード) 4割という調査結果そのものより、どのプラットフォームで利用されているのかが気になります。コンテナはパブリッククラウドでの利用が先行していましたが、最近ではオンプレミスでも採用が進んでいます。この理由の1つとして、外部に出せないようなデータをコンテナ上で上手く利活用したいというニーズが増えてきたからと感じています。残り6割の企業の中には、データが足かせになってコンテナ技術に手が出せていない企業も多いと考えます。

 日本ヒューレット・パッカードでは、コンテナに対するデータ領域に特にフォーカスしています。

レッドハット株式会社 テクニカルセールス本部 クラウドソリューションアーキテクト部 Kubernetes / OpenShift Architect 石川 純平 氏

石川(レッドハット) 2~3年前までは、ウェブ系のような先進的な企業がコンテナを採用するケースが多かったのですが、最近はエンタープライズ系の企業での採用が増えてきています。先進事例を通して、コンテナがシステムの開発や運用にもたらすメリットが市場に認知され、それらが企業の課題解決に役立つという理解が広がったことが要因です。

 また、サービスとしてのコンテナも大きく進化しています。多くのベンダーがマネージドサービスという形でK8sを提供していて、運用の負荷を軽減しながらコンテナのメリットを享受できる時代になっています。企業にとって利用しやすいサービスが市場を広げつつあり、ポテンシャル的にはまだまだ伸びしろがあると思います。

コンテナならではの俊敏性や高可搬性がビジネスに貢献

谷川 技術的に見て、コンテナやK8sにはどんな優位性があるのでしょうか。また従来の仮想化技術とはどう違うのでしょうか。

渡辺(ヴイエムウェア) サーバー仮想化もコンテナも広い意味では仮想化技術ですが、サーバー仮想化が主に管理の効率やコスト削減を目的としているのに対して、コンテナはビジネスの俊敏性を高める点を最も重視しています。コンテナであれば、開発したアプリケーションを迅速にマーケットに届けられるし、ビジネスの変化に応じたスケールも容易です。万が一システムがダウンした際にも、迅速に復旧できます。

柳原(ヴイエムウェア) 仮想化技術もコンテナも、本質的に目指すところは基盤レイヤーの仮想化です。その意味ではコンテナの方が、抽象化のレイヤーが一段上になります。このためパブリッククラウドやオンプレミスか環境を選ばずに仮想化できますし、さらにマルチクラウド環境を仮想化していくことも可能です。今後は、次世代のLinuxのような位置付けで使われていくことになるのではないでしょうか。

石川(レッドハット) まず挙げられるのが、可搬性がコンテナの大きな特徴だということ。従来の仮想化技術では、一度立ち上げたサーバーを別の環境に移すには、開発環境とは別に商用環境用のサーバーを構築して、そこに本番用のアプリケーションをデプロイするなどの手間がかかりました。

 しかし、コンテナならば非常に簡単です。コンテナでは開発環境でつくったものを、そのまま商用環境に移行できます。仮想マシンと違ってゲストOSを含まないため、非常に軽量で容易に移動させられるのです。

 さらにコンテナ自体はK8sなどのオーケストレーションツールで管理されているので、停止しても自動的に修復したり、トラフィックに応じてスケールしたりできるので、運用面が自動化されるのも見逃せないメリットです。

マルチ/ハイブリッドクラウド利用の課題解決が急務

谷川 最近は、パブリッククラウドでコンテナが使える「マネージドサービス」が次々に提供されてきていますがどう見ていますか。

野崎(F5ネットワークスジャパン) 2021年にF5が全世界で実施した調査では、日本のパブリッククラウドの利用率が世界平均を上回ったという結果が出ているように、パブリッククラウドの利用は確実に増えています。特に大規模な企業サイトでは、マルチクラウド化が避けられない状況です。

 マルチクラウド環境では、複数の環境での管理性、セキュリティの一貫性の実現といった問題に直面します。このためクラウドにシフトしたとしても、一部のワークロードは従来通りデータセンターで稼働せざるを得ないといった、混在環境で運用している企業が少なくありません。

吉原(シスコシステムズ) K8sの普及について大きく3つの問題点があります。1つ目は、パブリッククラウドでの普及が進んでいない点です。パブリッククラウド各社が汎用的に使える技術よりも自社のクラウドにロックインできる技術を優先的に提案するのは自然です。積極的にK8sを販売するモチベーションが無いので、国内ではまだまだK8sユーザーは少数派の印象です。

 2つ目は、オンプレミスでのK8sの利用実績が少ないことです。利用するにはOSSが有力な選択肢ですが、各種ソフトウェアのバージョン管理が非常に面倒であるなど、実際に導入して利用し続けるにはハードルが高いのが現実です。

 最後が、一般のユーザーが抱いている「印象」の問題です。K8sなどのクラウドネイティブ技術は、パブリッククラウドでしか利用できないと思っている人が少なくない。しかし、実際にはオンプレミスのプライベートクラウドでも、ハイブリッドクラウドでも、パブリッククラウドと同じように手軽な使い勝手で利用できるのです。これは、もっと知られるべきです。

木村(日本ヒューレット・パッカード) 過去数年、多くの企業がパブリッククラウドへシフトしていましたが、どうしてもクラウドに出せないシステムや、オンプレミスにもある程度置いておきたいというニーズもあり、ハイブリッドクラウドでの運用を目指す企業が日本でも増えています。

 そういったハイブリッドクラウド環境を実現するためのツールとして、デファクトスタンダードになっているのがK8sです。しかし、K8sは車のシャーシのようなものに過ぎません。その上にエンジンやいろいろな部品を乗せていかなくては自動車にならないのと同じで、K8sも多種多様なコンポーネントを検証し、組み合わせて構築しなければならないため、オンプレミスに実装するのは実に大変です。

 大手企業や一部の先進的なユーザーを除くと、K8sの各種コンポーネントに精通しており、K8s環境を一からつくれるようなスーパーエンジニアを自社で抱えている企業は少ないのではないでしょうか。こうした背景から、エンタープライズレベルのマネージドサービスが付いたK8sのディストリビューションに期待が高まっています。

谷川 現在のコンテナ市場の状況を、SIerとしてのCTCの立場からはどう見ていますか。

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(CTC) TSC部 部長 池永 直紀 氏

池永(CTC) 競争環境が急速に変化していく中で、いかにタイムリーかつ迅速にシステムをビジネスに実装するかが、市場優位を築く上で非常に重要なポイントになります。そうした市場競争力を強化するために、アプリケーションを素早く投入してビジネスを加速したいと考えた時に、実装するIT環境として最適なのがコンテナです。

 ただし、OSSとしてフリーのコンテナを使ってビジネスに実装することは、ユーザー企業にとって非常に高いハードルになります。また、ベンダー企業の保証された、コンテナプラットフォームを利用するとしても、ユーザー企業のビジネスモデルや規模などによってコンテナプラットフォームの選択の基準は異なりますし、選択肢の幅も変わってきます。SIerであるCTCとしては、ここに集まっていただいたベンダー企業5社と緊密な協力体制を築きながら、いかにお客様に寄り添っていけるかが問われていると考えています。

本記事は2回、3回と続きます。くわしくはこちら

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