日本全国を震撼させた東日本大震災から10年。依然として日本全国で地震が発生し、30年以内にマグニチュード7クラスの首都直下型地震が発生する確率は70%といわれる。こうした中で、地震のリスクにどう対応していけばよいのだろうか。日本損害保険協会会長の舩曵真一郎氏は「確率ではなく、日本全国どこでも地震が起きる可能性があることを再認識して欲しい」と語る。
阪神・淡路大震災を引き起こしたのは六甲・淡路島断層帯だが、内閣府によると、当時の30年以内の地震発生確率は0.02%から8%に過ぎなかったという。その確率であの大震災が発生したのである。
南海トラフ地震についてはマグニチュード8からマグニチュード9クラスの地震が70%から80%の確率、首都直下型地震についても前述したような確率で発生することが想定されている。それだけの確率で地震が起きることを考えると、常に身近な危険として捉えることが必要だろう。
舩曵氏は「私が大学時代に下宿していた建物は阪神・淡路大震災の発災後も残っていました。しかし、その建物のある通りを境に反対側は壊れていました。地震ではそういうことが起こるのだと実感しました」と自身の経験を語る。
数度にわたる改定で被災後の生活再建に寄り添った保険に
地震という予測が難しい事態に備える有効な手段の一つが地震保険である。地震保険制度の創設は1966年。きっかけとなったのは1964年に発生した新潟地震だった。新潟県を中心に山形県、秋田県など9県が被災した。その2年後に地震保険に関する法律が制定され、政府と民間の損害保険会社との共同運営の形で地震保険が誕生している。
それから56年の間に地震保険は何度も改定が行われ、補償の拡充が図られてきた。「制度発足当初は、建物の補償限度額が90万円で家財は60万円、一回の地震などによる保険金の総支払限度額は3,000億円でした」と舩曵氏。金額から考えると見舞金という意味合いが強いものだったといえるだろう。
しかし、現在では保険契約者のニーズなどを踏まえて大きく補償が拡充され、建物の補償限度額は5,000万円、家財は1,000万円になっており、総支払限度額は12兆円だ。被災した人たちが生活を再建するための資金を、より手厚く備えることができるようになった。
補償の対象となるのは地震や噴火、そしてこれらによる津波を原因とする損害である。大きな特徴は、火災保険では補償対象とならない地震による火災を補償することだ。地震保険は単独で加入できず、火災保険にセットして加入することにより、地震による火災や類焼による火災に対応することができるようになる。
その使い道に制限がないのも、地震保険の特徴だ。地震保険は建物と家財それぞれについて加入できる。地震で壊れた建物の建て直しや修理はもちろん、家財の買い替え、仮住まいのための費用だけでなく、当面の生活費や住宅ローンの返済などに充てることができる。
「当座の資金に使っていただくために重要になるのが、速やかに保険金をお支払いすることです。損害保険会社では、大規模災害が起きたときでも滞りなく保険金をお届けできるように、人員を確保しデジタル化を進めるなど体制づくりに務めてきました」(舩曵氏)。
官民一体で運営して国民の安心安全を確保
地震保険は法律に基づいて政府と損害保険会社が共同で運営する公共性の高い保険であることも特筆すべき点だろう。舩曵氏も「地震災害の規模は大きく、どれだけの被害が出るかはわかりません。官民一体の制度とすることで安定的な運営を持続できるようになっています」と指摘する。
どれくらいの規模の地震がどれほどの頻度で発生するかは予想できない。その被害は想像を超えるようなケースも考えられる。東日本大震災では、累計で82万件超、約1.3兆円の保険金が支払われた。
「震災後3ヶ月で約1兆円の保険金をお支払いしています。被災後の生活を立て直すにはお金が必要です。住む場所だけでなく、生活を維持するために必要な家財があると思われます。現代社会では、地震への対策として、経済的な備えをどのように確保しておくかがとても重要です。それにお応えすることに、私たちは使命感を持っています」(舩曵氏)。
実際に地震保険金を受け取った加入者からは「地震で全ての資産を失ったが、このお金で生活再建ができそう」「建物の損害状況の判定が早く、復旧工事も早期に実現できた」「家財の片付けや買い替えの費用に充てられました」といった感謝の声が多い。
正しく理解することが自分を守ることになる
しかし、気になるデータもある。地震保険の付帯率には地域差があるということだ。全国平均は約68.3%と7割近くに上っているが、地域によってバラツキがある。九州地方でも、宮崎県や熊本県など過去に大きな震災を経験した地域では高いが、長崎県や佐賀県などでは付帯率が全国平均を下回る。
宮 城 | 87.5% | 東 京 | 61.7% |
高 知 | 87.2% | 佐 賀 | 60.9% |
熊 本 | 84.5% | 北海道 | 60.6% |
宮 崎 | 83.7% | 沖 縄 | 58.4% |
鹿児島 | 83.2% | 長 崎 | 53.6% |
舩曵氏は「日本は全国に2,000を超える活断層があってどこでも地震が起きる可能性があります。地震のリスクや地震保険の必要性をしっかりご理解いただけるよう、保険会社としても付帯率を向上させるための努力を続ける必要があります」と課題を挙げる。
日本損害保険協会では、阪神・淡路大震災の際に、地震保険の世帯加入率が低かったこともあり、1995年からマスメディアなどを利用した広報活動を開始し、地震のリスク啓発及び地震保険の認知度向上、理解促進を図っている。2021年度はサッカー元日本代表の内田篤人氏を広報キャラクターに採用し、“地震への備え”の重要性を訴えている。
「特に重要なのが、『自分が住んでいる地域や建物は大丈夫』、『自分は対象となる資産を持っていない』と思い込んでしまわないことです。家財道具などは持っていないと思っていても、テレビや冷蔵庫、洗濯機、オーディオなど結構あるものです」と舩曵氏は指摘する。
日本はどこでも地震が起きる。それを理解したうえで常に危機意識を持って普段から準備しておくことが肝要だ。ハザードマップなどで自分が住んでいる地域の地震リスクを確認して、災害時はどのように対応するかを想像しておくことと同時に震災後、迅速に生活を復旧させるためにも地震保険に加入する。転ばぬ先の杖として地震保険を捉えてみてはどうだろうか。
注:世帯加入率…全世帯のうち、地震保険を契約している世帯の割合
付帯率…地震保険を火災保険にセットして契約している割合
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