東京海上ホールディングスは11月18日、イーデザイン損害保険を新たにグループのデジタルR&D拠点として位置付け、「インシュアテック保険会社」へ変革すると発表した。フルクラウド型かつ先進的保険システムを皮切りに、これまでの損害保険とは異なる、顧客ニーズに即した商品・サービスを提供する予定だ。大手損害保険グループにおけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の先例としても注目に値する。
自動車保険が抱える課題を解決する大きな変革
自動車保険を選ぶ際にストレスを感じる人が多いようだ。「契約時のパソコンやスマートフォン(スマホ)への入力が面倒」、「割引や特約がいろいろありすぎて、保険内容が分かりにくい」といった印象を持つ人も多い。さらに契約後も、自動車保険が自分の暮らしに役に立っているという実感を持ちにくいようだ。「事故にあったときに、どの保険会社と契約していたのか思い出した」という人もいる。
ただし、その事故対応についても、不満に感じている人が少なくないようだ。「事故を起こしてパニックになっているときに、保険会社のオペレーターに細々と説明しなければならなかった」、「修理工場の予約なども面倒だった」といった声もある。これまでの自動車保険が、ここに挙がったような契約者の不満の声に応えることができていないのも事実だろう。
市場環境は変化している。例えばダイレクト自動車保険市場の拡大だ。ネット保険会社、あるいは通販型自動車保険などとも呼ばれる直販保険会社が、保険料の安さを売りにしのぎを削っている。だが、国内では依然として大手損保代理店のシェアが高い。自動車の販売店などを通じて自動車保険に加入できる利便性や事故を起こした際の手厚いサポートが顧客から評価されているようだ。
このような課題がある中、今回、東京海上グループが打ち出したのが、グループ内の通販型自動車保険会社であるイーデザイン損保を「インシュアテック保険会社」へ変革させるというものだ。
インシュアテックとは、保険(Insurance)とテクノロジー(Technology)を掛け合わせた造語だ。ビッグデータや人工知能(AI)などのテクノロジーを活用して、これまでの保険にない、効率性や利便性の高いサービスを提供していくという。
日本で「インシュアテック」というキーワードを聞くようになったのは2015年ごろだが、最近になって、通信(テレコミュニケーション)と情報工学(インフォマティクス)を保険に活用する「テレマティクス保険」が保険会社各社から販売され始めたことで、「インシュアテック」への注目も集まっている。
「インシュアテック」により、自動車保険も変化しそうだ。これまで自動車保険は事故の補償、すなわち事故に備えるものだった。だが、「インシュアテック」を活用することで、自動車保険は、事故の補償はもちろんのこと、事故の予防や見守りなど、事故にあわないことを目指す保険になる。社会インフラの改善につながる、大きな変革といえるだろう。
先進的なフルクラウド型システムを提供
まさに自動車保険のDXとも言える「インシュアテック」に期待が高まるところだが、イーデザイン損保は11月18日、インシュアテック保険会社としての成果を顧客に提供する第一弾の商品として、「“&e”(アンディー) 」 を同日発売開始した。
「&e」は、契約手続きや変更手続きだけではなく、事故の連絡や保険金の支払いまでの多くの手続きをスマホで完結することが可能だ。最高の操作性をお届けすることを開発の重要なコンセプトに据えており、最短60秒で保険料試算が完了できる。また、AI画像認識(保険証券自動読み取り)により見積もりや申し込みに必要な項目の入力が大幅に削減される。
IoTセンサーなどの最新テクノロジーを活用した新たな顧客体験を実現しているのも「&e」の特長だ。例えば、契約したすべての顧客に、無償でIoTセンサーが提供される。
万一事故が起きてしまった場合、IoTセンサーが自動で衝撃を検知し、1タップで事故を連絡することが可能だ。さらに、IoTセンサーが検知した情報は即時に事故サービスセンターに送られる。検知した衝撃やGPSデータをもとに、事故状況を動画で再現することで、事故前後の自車の速度・衝撃・損傷などのデータを把握することができる。事故の報告における顧客の負担を軽減することができるだろう。また、最寄りの修理工場の予約までスマートフォンで即座に行うことも可能だ。
特筆すべきは、先進的な保険システムをフルクラウドで提供するだけでなく、インシュアテック保険会社として、イーデザイン損保が日常でも顧客の安全運転を見守り、「事故のない世界」 の実現をサポートしようとしている点だ。IoTセンサーで収集した運転特性などのデータをスマートフォンと連携させることで、自身の運転の危険挙動や運転スコアを振り返れる「Tripレポート」や、頻出する事故のパターンから作成した安全運転のためのヒントが詰まった「運転テーマ」を提供している。
さらに、安全運転をすることでハートというポイントがもらえ、コーヒーなどの商品に交換することもできるという。顧客の安全運転への意識も高まるだろう。
このほか、「データで安全をつくる」という趣旨に賛同した顧客や地方自治体、企業とともに、交通安全に関するデータを活用した事故削減の取り組み「Safe Drive With」も開始している。
まさにインシュアテック保険会社として、データを活用したさまざまなサービスを創出し、顧客と共に自動車事故のない世界を目指そうとしているのである。
将来にわたり、市場のニーズに応える新たな価値を創造
東京海上グループでは、「イーデザイン損保をインシュアテック保険会社へ変革させる。」としている。これにより、海外のインシュアテック保険会社のように、既存の保険の概念にとらわれない、保険業界におけるディスラプター(創造的破壊者)として、新たな体験価値を創造へと向かっている。
プロジェクトに参加するパートナーの顔ぶれを見ても、その「本気度」がうかがえる。今回の「&e」の開発においても、AI画像認識(保険証券自動読み取り)機能では、機械学習やディープラーニングで定評のある株式会社シナモンと共同開発し、見積もりや申し込みに必要な項目の入力が大幅に削減された。また、IoTセンサーは、自動車メーカー向けテレマティクス・サービス世界最大手、イタリアのOctoTelematics社製のものだ。
今後も、新たなサービスの開発のために、先進的な企業と積極的に提携していくという。先進的な保険システムをリーズナブルな価格で提供できるのも、フルクラウド環境ならではのメリットだろう。
インシュアテック保険会社となる新生イーデザイン損保の誕生により、大げさでなく、保険会社、ドライバー(契約者)、ベンチャー企業、大手企業、自治体、大学、研究機関など、さまざまなステークホルダーが参加する、安全運転のためのエコシステムの構築が期待できる。
東京海上グループという大手損害保険のDXとしても興味深い。同グループの中はもとより、国内外の損害保険業界でもイーデザイン損保が存在感を発揮することになりそうだ。今後の成果に大いに期待したい。
※インシュアテックとは、保険(Insurance)とテクノロジー(Technology)を掛け合わせた造語です。保険会社の業務にテクノロジーを活用して、業務の品質・効率性・正確性を高め、お客さまの真のニーズや社会的課題に向き合い、これまでにないサービスをお客さまに提供することを意味しています。保険会社の業務の一部(保険金支払い、保険の引き受け、価格設定等)のみを対象としてサービスを提供するケースと、アメリカのMetromile社、Lemonade社のように、インシュアテック企業自体が保険会社となるケースに二分され、イーデザイン損保は後者を目指しています。
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