東京電力グループ全体の業務システムや制御システムといったミッションクリティカルなシステムの開発運用を担当してきたテプコシステムズが一般企業向けにクラウドサービスの提供を開始した。コミュニティ型クラウド「TEPcube(テプキューブ)」である。今後同社の事業の柱の一つとして拡販していくという。通常のクラウド事業者が提供するクラウドサービスと何が違うのか。その狙いはどこにあるのだろうか。
他社データと掛け合わせて新たなビジネスを創出する
テプコシステムズは東京電力ホールディングスの子会社として、東京電力の業務システム(IT)や制御システム(OT)の開発や保守を手がけてきた。現在ではグループ全体の情報技術戦略、人材育成、DX推進といった機能が加わり、東京電力グループ全体のシステムやインフラの企画、構築を担当している。
現在、東京電力グループのDX戦略として生産性向上とともに大きな柱のひとつに位置付けられているのが、データを最大限に活用した“稼ぐ力”の創造である。同社の執行役員 クラウド事業推進部長の中嶋好文氏は「東京電力グループにはスマートメーターなどの膨大な設備があり、膨大なデータが日々発生しています。しかし、これまではデータを活用し切れていませんでした」と語る。
電力事業から生み出される膨大なデータを活用していくために同社が考えたのは、交通や小売といった他業種のデータと掛け合わせて新たな価値を創造していくことだ。このユーザ企業との協働による共創を支えるプラットフォームとして誕生したのがコミュニティ型クラウド「TEPcube」である。
「コミュニティ型クラウドは利用するユーザ企業同士がナレッジや調達、データの利活用などを共に行い、協働することによって新しい価値を生み出していくためのものです。特定の製品に依存することなくベンダーフリーで便利な機能を提供し、クラウドサービスの良いところ取りを目指しています」(中嶋氏)。
TEPcubeは多くの側面を持つ。電力事業のITやOTなど基幹システムを稼働させることができるセキュアかつ安全なクラウドであり、変化への対応力や運用の効率性を実現したDXの推進役であり、さらにはデータを共用して新しいビジネスに活かしていくためのプラットフォームでもある。
クラウド事業推進部マネージャーの髙橋悠二氏は「ベースとして安全・安心があり、多様なシステム基盤に対応し、オンプレミスのような使い勝手を充実させました。さらに大手のパブリッククラウドと閉域網でセキュアに接続することで、データをTEPcubeに置いたままクラウドサービスの先進的で便利な機能を安心して活用できます」と語る。
具体的には、仮想サーバやベアメタルサーバ、ハウジングという多彩なメニューを用意し、主要なメガクラウドとセキュアな閉域網で接続するとともに、電力事業で培った安心・安全なサービスレベルを提供して高信頼、高セキュリティでオンプレミスのような使い心地を実現するクラウドサービスであることが大きな特徴だ。
次世代仮想化基盤のHCIでコストと運用負荷を低減
TEPcubeは2020年4月から社内とグループ企業向けのサービスの提供を開始した。しかし、構築に当たってはいくつかの課題があった。髙橋氏は「新規サービスの立ち上げだけに、多額のコストはかけられません。要員もできるだけ少なくするために、設計や構築、運用の負荷の低減が必要でした」と話す。
その解決策として同社が選択したのが、ハードウェア、ソフトウェアを一体化できる次世代仮想化基盤、HCI(ハイパーコンバージドインフラストラクチャー)の導入だった。「従来はそれぞれをバラバラに構築して統合してきましたが、社外の企業に提供していくことを考えると、メンテナンス性にも優れたHCIの導入メリットは大きいと判断しました」(髙橋氏)。
いくつかの製品を比較検討した結果、同社は富士通のHCI「FUJITSU Integrated System PRIMEFLEX for VMware vSAN(以下、PRIMEFLEX)」を選定した。髙橋氏は「サーバ、ストレージ、ネットワークが一体となっていて、VMware vSANが搭載されています。多くがソフトウェアベースになり、運用が楽になると思われました」と語る。PRIMEFLEXは、信頼性に定評がある富士通の国産サーバに、SDSソフトウェアとしては世界的な実績を持つVMwareのVMware vSANを搭載したもので、あらかじめ富士通の工場内で統合・最適化されたうえで納品され、導入時の負荷を大幅に低減できる。
さらに大きかったのは手厚いサポートが期待できたことだ。「国産で実績があり、製品のサポートだけでなく、SEを含めた手厚い一体型のサポートが受けられることは大きな魅力でした」と髙橋氏。しっかりとしたスキルトランスファーによって、導入後は自分たちだけで運用に対応できるというメリットもあった。
しかし、初めての導入だけに当初は不安もあった。特に重視したのがスペック通りの性能が得られるかどうかだった。マルチテナントで社外に提供していくだけに使われ方も様々だ。高いサービスレベルを実現するために、ディスクのI/O、CPUの稼働状況、障害発生時の切り替えなど、非機能要件を中心に時間をかけて確認した。
クラウド事業推進部主任の曽根原潔氏は「設計時から富士通のSEチームが一緒に構築にあたってくれました。VMwareとも連携し、VMware vSAN導入実績も豊富なSEの参加によるベストプラクティスを提供してくれたことで、ノウハウを“手の内化”できたことが大きかったです」と振り返る。
実際の構築に当たっては、まずプレ環境を作って動作確認を行い、その後、本格的に構築させるという二段階で本番稼働を迎えたが、すべての工程を数ヶ月で完了させることができたという。商用のクラウドサービスとしては構築期間がかなり短縮されている。
統合されていることで人材育成でもメリットが
TEPcubeが本格的なサービス提供を開始してから1年が経ったが、製品や品質に対する評価は高い。中嶋氏は「性能面、可用性で求める品質が実現され、全てがVMware製品の世界で収まるので管理運用面も楽です。また人材育成という面でも大きなメリットがあります」と話す。
以前は、新人が配属されるとまずストレージを担当させるなど、段階的に経験させていくしかなかったが、オールインワンのHCIであれば、一度に広い範囲を経験できるため、短期間で多能工として育成できる。DXの推進という面でも早期にIT人材が育成できることのメリットは大きいだろう。
富士通のサポート体制についても評価は高い。曽根原氏は「IaaSの基盤となる製品だけでなく、運用部分も含めて全体としてのノウハウを持っていて、それをセットで提供してくれます。パートナーとして富士通を選ぶことで、IaaS自体がオールインワンで構築できると実感しました」と話す。
今後の展開としてはコミュニティ型クラウドとしての進化が求められる。中嶋氏は「今のTEPcubeはIaaSがベースで最終的な姿とは乖離があります。ユーザ企業が共創するコミュニティ型クラウドとしての価値を広げるために、お客さまと一緒にTEPcube上のソリューションを充実させていきます」と意気込みを語る。
そこでもパートナーとしての富士通への期待は大きい。髙橋氏は「富士通はいろいろなチャネルがあり、サービスを作り上げてきた経験も豊富です。TEPcubeとしてお客様にサービスをどう届けるのかというところにも一緒に取り組んでもらいたい」と語る。
中嶋氏も「富士通は国内最大のITベンダーだけに、多様な側面を持っています。幅広い領域でいろいろな組み方ができるはずなので、今後も良い共創関係を続けていきたいですね」と語る。他企業との協働による共創を目指すTEPcubeの今後の展開が楽しみである。
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