テクノロジーが進歩し、オンラインとオフラインの境界が溶け合う時代。データサイエンスに長けた人材育成が急務であることは間違いないだろう。そして、それは特定の専門分野だけに言えることではない。これからのデータサイエンス人材には、各専門分野の知見を掛け合わせつつ問題解決を行ったり、新たな価値を生み出したりすることが求められる。
こうした背景がある中、早稲田大学が取り組むのは、全学に開かれた独自の「データ科学認定制度」だ。特定の学部・学科に限定することなく、全ての学生がデータ科学に関する学びを得られるようにすることで、各人が自分の学部・学科の学びとデータサイエンスとを結び付ける力を養えるようにすることが狙いである。
データ科学認定制度がスタートした経緯や目的、その概要と文科省の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(リテラシーレベル)」に認定されたプログラム内容、およびそれらを管理するデータ科学センターの活動について紹介する。
データ科学と専門分野をかけ合わせ
「知の創造」につなげる
早稲田大学で2021年度から開始された「データ科学認定制度」は、早稲田大学オリジナルの制度だ。どの学部に所属する学生であっても等しく学び、レベルに応じて認定を受けることができる。
今、データ科学が注目されている社会的背景には、多種多様で大量の情報を入手する環境整備が進んだこと、理論や計算機能力の発展に伴って分析力が向上したことなどがある。これにより、様々な専門分野でデータ科学が応用されるようになってきている。
早稲田大学が目指すのは、データ科学と専門分野の知見をかけ合わせることで、「新しい発見・知の創造につなげること」である。
学生にとってデータに基づいて意見を述べる力(=論証能力)は、大学でのレポート活動、ゼミ活動のみならず、就職後にも有用だ。また、データ科学を活用するためには、専門知識が必要となる。
例えば、「過去の診療データからの自動診断」で誤診断を少なくするためには、「ある病気と誤診断されやすい病気」「ある病気と関連する病気」などの知識を持っていなければならない。
このような「専門性」×「データサイエンス」を実践できる人材を産学連携で育成していく仕組みの一つが「データ科学認定制度」となる。
リテラシーレベルから上級レベルまで
4段階でデータ活用を学ぶ
データ科学認定制度の特徴は大きく分けて3つある。
- 全ての学部・研究科の学生5万人を対象とした認定制度である
- リテラシーレベルから上級レベルまで4つの級を設置、大学が認定証明書を発行する
- 学生が自身の興味や必要性によって学習した成果(認定)を就職後のキャリア等で活用することを期待している
一つずつ順に見ていこう。
まず、データ科学認定制度では、全ての学部・研究科の学生5万人を対象とし、オンデマンドで24時間、どの場所からでも統計・データ科学を基礎から学ぶことができる。意志さえあれば誰にでも機会が開かれているものとなる。
次に、リテラシー級から上級まで段階分けし、4つの級を設置している点だ。このうち、「リテラシー級」のカリキュラムが、文科省の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(リテラシーレベル)」に認定されている。
各級のカリキュラムは以下の通り。
概要:データ科学の基礎的な考え方を学ぶ
知識・スキルの目安:教養としてデータサイエンスを知る
身につけるべき内容:データ科学の重要性、データ科学の定義及びデータ分析の一連の流れを理解する。データに対してデータ科学を用いる目的が種々あることを理解し、その目的を達成するためにデータ科学における様々な入力、出力、設定(仮定)、評価基準があることを理解する
科目例:統計リテラシーα・β、データ科学入門α・β等
概要:データ科学の基礎的な考え方とその実践を一通り学ぶ
知識・スキルの目安:データサイエンスの基礎や考え方を研究や仕事に利用できる
身につけるべき内容:データに対するデータ科学を用いるいくつかの目的を意識して、データ科学における基本的かつ様々な入力、出力、設定(仮定)、評価基準を数理的に扱うことを学び、選択できる。データに対して、データ科学の基本的な考え方を適切に用いることができる
科目例:データ科学入門1・2、データ科学入門γ・δ、データ科学実践等
概要:自身の持つ専門性や学術領域への接続を学ぶ
知識・スキルの目安:データサイエンスを自身の専門的な研究や仕事に活用できる
身につけるべき内容:自身の専門領域において、データに対する専門的知識を用いて問題を数理的に抽象化し、データ科学を活用することができる
科目例:統計リテラシーγ・δ、回帰と分類のデータ科学、時系列構造のデータ科学、潜在構造のデータ科学等
(2023年度、認定開始予定)
概要:自身の専門領域以外においてもデータ科学を活用できるような科目群を学ぶ
知識・スキルの目安:データサイエンスを主な仕事にすることもできる
身につけるべき内容:自身の専門領域外のデータに対して問題を数理的に抽象化し、データ科学を活用することができる
科目例:演習科目を中心に設置予定
早稲田大学が重きを置く「専門分野との接続」は、リテラシー級と初級の内容をベースとして中級を学ぶことで身に付けられる。
上級の認定開始は2023年度を予定しており、履修するには初級と中級の対象科目の履修が必須となる。現時点で学生はリテラシー級・初級・中級の科目を履修することができる。
大学は、学生が取得した級に応じて「認定証明書」を発行する。「級」という明確な目標を提示することで、データ科学の学びに対して意識を高める意図もあるという。学生が文系理系問わず相応のデータサイエンスに関する素養を身に着け、知識や経験を就職後のキャリアでも活用することを期待しているようだ。
早稲田大学の大規模ネットワークを生かし
プログラム展開する「データ科学センター」
2017年に創設された「データ科学センター」では、最新のデータ科学との融合を図るプラットフォームを提供し、「総合知・新しい知の創造と複雑でグローバルな社会問題解決を行うことができる人材の育成を目指す」としている。
主に国内・海外の大学や企業と大規模なネットワークを形成し、世界の先進的研究教育モデルの拠点として、実践的な教育と最先端の研究の普及に取り組むという。「データ科学研究教育コンソーシアム」を形成することで、産官学の多様で緊密な連携を図る。
学内での主な活動としては、学部生や大学院生を対象にグローバルエデュケーションセンター(GEC)と連携した「データ科学教育プログラム」「データ科学研究相談」の実施、シンポジウムやワークショップの開催などがある。また、研究者を対象としたデータ活用プラットフォームの開発や学際的研究プロジェクトの企画・サポートなども行なう見込みだという。
2021年度には、データに関する専門知識とデータ分析力の双方を深めることを目的とした「データサイエンスコンペティション」、データ科学を学ぶ上で役立つ機会を提供する意図で「データサイエンスアイデアコンテスト」を実施する。どちらもメインテーマに設定されているのは「SDGs×データサイエンス」と、昨今のビジネス・社会的背景も踏まえた設計になっている。
データ科学センター所長の松嶋敏泰氏は、「“得られてしまった”大量のデータから有用な知識を得るためには、分析対象領域に対する深い専門知識が必要になる」とした上で、「目的のためどのようなデータをどのように収集するか」から分析はスタートすると強調する。
早稲田大学では、「データサイエンスを単なる一過性のブームに終わらせてはならない」という思いのもと、こうした取り組みを実践している。知の創造のパラダイムが拡張され、データ駆動型での全く新しい知の創造や、グローバルな社会問題の解決につなげていくことが期待される。
■特集トップページはこちら>>
<PR>