日本工業大学は、総合的な学びと専門力、社会への実装力を武器に、「実工学教育」で育まれた幅広い人材を輩出する。
平成30年度には基幹工学部・先進工学部・建築学部に学部学科の改編を行い、「社会を支える技術者」を育成してきた日本工業大学だが、「社会への実装力」はコロナ時代にも変革を生んでいる。

『データサイエンス・プログラム』

日本工業大学 先進工学部長・教務部長
辻村泰寛 氏(教授)

 情報系カリキュラム『データサイエンス・プログラム』の立ち上げも変革の一つだ。

「今は膨大なデータが勝手に集まってくる時代。データの取り扱いをはじめとして、データサイエンスを学ぶ社会的要請は今、非常に高くなっています」
プログラムの立ち上げを率いる先進工学部長・教務部長の辻村泰寛教授は言う。

「今後、工学系の学生は、データサイエンスを広く学んでいく必要があります。情報メディア工学の学生だけでなく、機械系や電気系の学生は自動化やIoTの制御などを学ばないといけないし、建築の学生も、住環境がIoTやAIでコントロールされる時代です」

一連のプロセスを総合的に学ぶ

 データサイエンスは、データを取ってくるところから実社会で使うところまで、多くの過程にまたがる分野だ。

「まずは生データを取ってきて、その中で有用なデータを取り出すプロセスが必要です」と辻村教授。
「それから統計的な処理を施して分析するプロセスや、機械学習を用いて知識を取り出すプロセス。その知識を実際に社会にどう応用するかというプロセスがあります」

「こうしたデータサイエンスに関する一連の流れを、一分野に限定しないで教えるのが、これから私たちが立ち上げる『データサイエンス・プログラム』です」と辻村教授は紹介する。

 全学生が学部・学科横断的に受けられるプログラムで、修了した学生には卒業時に修了証を出すという。現在は学部・学科で横断的に実施している2年次の選択科目である『データサイエンスとAI入門』も、2年後から必修科目になり、『データサイエンス・プログラム』の一環になる。

「そして、このプログラムの中では『応用される社会になったら私たちは何に気をつけて生きていくか』といった倫理やリテラシーについても学びます」

データサイエンスを起点に幅広い領域へ

「このプログラムを受けた学生たちが、その後どのように研究に生かすか。それは学生や学科次第です」と辻村教授は言う。

 データサイエンスの応用は、幅広い学科が取り上げる。ロボティクス学科では自動運転の研究につなげることができる。建築や電気の学科では、IoTを設計にどう生かすかを考える。また、Society5.0やSDGsと絡めて、将来どのような社会を作っていくかを考えることもできる。
「今の世の中、一分野で完結できる研究はありません」

ドライビングシミュレータを活用した運転支援システムの開発

「データサイエンスは教科書のある話じゃありません。機械は人間を超えるかという『シンギュラリティ』についても多くの言説がある。こうしたことは哲学や倫理の話。学生たちも自分の頭で考えないといけません」
「だからAIと倫理の科目でも、最後の答えは教えない。いろいろな考えがあるが、鵜呑みにしないで考えないといけない。自分たちはどう考えるかということを学生たちには聞いている」

「実工学の発想と同じです。『実際に社会に立つもの』というのが実工学ですが、これが難しい。誰の役に立つのかということを常に考えないといけない」

「社会の役に立つ」とはどういうことか

 情報メディア工学科では、社会実装型の「メディアデザインプロジェクト」を行っている。学外のクライアントから仕事を請け負ってものづくりをするプロジェクトだ。

 その一つに、「特別支援学校の子どもたち向けソフトウェア作り」のプロジェクトがある。子供たちが身体能力を維持するために楽しみながらできる仕組みを、ハードではなくソフトで作るというもの。

「子どもたちの残存機能は個人差が大きいので、全員分を個別に作ることはできない。そのため、一人ひとりに合わせて調整できるVRやARを作ろうとしている。これが難しい」と辻村教授。

 これは子どもたちの可動範囲を広げるために、「手足を伸ばしてシャボン玉のVRに触ってポイントを稼ぐ」というソフトだが、子供によって可動領域は違うため、VRを出す位置も変えないといけない。
「その調整を現場の先生たちでもできるように作る。これは大変です。学生たちもいろいろなことを考えないといけない。でもそうして現場に立つと、『社会の役に立つということは自分たちが今まで思っていたこととは違う』と、学生たちは理解します」

「ただ、新型コロナウイルスが流行り始めてからなかなか直接行けなくなった。クライアントとはオンラインでやり取りを続けています」

コロナ対策も「日本工大流」

 新型コロナウイルスの流行後、春学期はオンライン授業を行っていた日本工業大学だが、秋学期からは対面授業も再開した。今はオンライン授業と対面授業が半々だという。実験実習、製図などのために学生は通学するが、「幸い大学のキャンパスが広いので、都市型大学と比べて密状態は発生しにくいですね」と辻村教授は話す。東京ドーム6個分の広大な敷地に、60を超える施設を有する日本工業大学ならではのソーシャルディスタンスだ。

東京ドーム6個分の広大な敷地

「遠隔授業は評判がよく、オンデマンドは自分のペースで勉強できるために学修効果が高い。今のところ大きな成績のぶれもありません」と辻村教授。「学修効果の高さを考え、アフターコロナでも対面とオンラインは併用する予定」だという。フォローアップは教員が直接行い、補講はオンデマンドで行う予定だという。

 コロナ時代でも、日本工業大学のものづくり精神は衰えない。ロボティクス学科ではオリジナルのフェイスシールドを学内で制作し、特別支援学校などに無償配布した。消毒液を1日40リットル作った研究室もあるという。「教員が設計して、学生が製作する。ものづくりが得意だから、こんな時代でも、必要になったら自前でなんでも作れてしまう」と辻村教授は笑う。

 実工学の伝統を踏まえたものづくり精神。データサイエンスの未来を見据えたコロナ時代にも、日本工業大学の流儀は変わらない。

<取材後記>

 日本工業大学は最先端の技術も地に足をつけたものに還元する。全体像を学び、着実に社会に応用することを重視する『データサイエンス・プログラム』も、社会から離れたものにはしないという決意を感じる。


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