「モノが売れない時代」と言われて久しい。だが、データを活用し市場の変化に対応することで、まだまだ「売れる」強い営業組織を作ることができる、しかも、中堅・中小企業ほど“伸びしろ”も大きいという。
コンサルタントの齋藤顕一氏と、日本オラクルで2桁成長を続けている新営業組織「オラクルデジタル」を率いる執行役員の善浪広行氏が、その方法やポイントを語り合った。
自社のバリューチェーンを
把握することが大切
執行役員
クラウド・アプリケーション事業統括
オラクル・デジタル
善浪広行氏
善浪 齋藤さんはさまざまな企業に対してコンサルティングを行い、特に企業の問題解決の領域で豊富な実績をお持ちです。昨今は日本企業、特に中堅・中小企業にとってなかなか厳しい時代になっています。
日本の労働生産性は、経済協力開発機構(OECD)加盟36カ国中21位で、主要7カ国の中では最下位が続いています。人口減少で国内市場の縮小は見えているのに、次の成長戦略を描ききれていない企業も多いのかもしれません。
齋藤 日本の多くの企業が成長できていない大きな要因として、産業構造の変化が挙げられます。高度経済成長期には自動車や家電などの大手製造業に一次下請、二次下請などの企業がぶら下がり、勝手に仕事が振ってくるような状況でした。下請企業は電話が鳴りファクスで仕様書が送られてくるのを待っていればよかったのです。ところが、中国などアジアの新興国の台頭でモノ作りの仕事が奪われてしまいました。経営者は慌てて、「売上を上げろ」「受注を取ってこい」と発破をかけるのですが、なかなか成果につながりません。
善浪 自分が営業担当だった時代は、「とにかく顧客を訪問しろ」と言われていましたが、今の時代は、「気合と根性でやれ」と言っても売れるわけではない。そこで、2年前の組織立ち上げの時から、データをしっかり集めて、データドリブンで議論や判断をしていこうということは決めていました。新市場の開拓でしたので、過去データが無く、仮説を立てながら検証していくというプロセスを回してきました。
齋藤 訪問件数を2倍に増やせば売上が2倍になるのであれば、苦労はしません。本当に大切なのは、売上を伸ばすことができない原因がどこにあるのかを見極め、課題があるとすればその解決のための適切な施策を実行することです。「バリューチェーン(価値の連鎖)」という言葉もありますが、自社の競争優位性がどこにあるのか、どこの市場を狙っていくべきなのかを正確に把握する必要があります。
クラウドなら中堅・中小企業でも
データに基づく営業活動が容易に
善浪 実際には、企業経営者の約4割が、直感と勘で予算を配分しているという調査もあります。お客さまと話していても、日々の日報は管理しても、データを分析して戦略の意思決定に生かすという「データドリブン」な取り組みについてはまだまだという感触を持っています。日報や案件の管理だけしていても、売上につなげることはできません。私も試行錯誤中ですが、常にデータに基づいて、関係部署とも共通認識を持って会話することによって、次の打ち手を考えるようにしています。
代表取締役
齋藤顕一氏
齋藤 「データ」というと、最新のテクノロジーを使ってコストや時間をかけて難しいことをやるようなイメージを持つ人もいるかもしれませんが、それは本質的な目的ではありません。大事なのは自社の現状をリアルタイムに正確に把握することです。
私はよく営業組織づくりの勉強会などで話をするのですが、「そもそも自社の顧客は何千社、何万社あるのか、そのうち利益に貢献してくれている顧客はどこなのか」といったことすらわかっていないで、やみくもに「もっと売ってこい」と言っている。「このお客さんはこんなニーズがあるのではないか、だったらこんな提案をすればいいのではないか」といった議論が社内でできていないのです。
善浪 私がデータを分析することで気づきがあったのは、営業プロセスのどこにボトルネックがあるのかという点です。例えば、顧客の意思決定層に会えていないのか、プレゼンテーションがよくないのか、あるいはクロージングが弱いのか。人によってどこに課題があるのかが客観的なデータで見えれば、営業マネージャーもその個人の特性にあった指導をすることができます。全体の売上動向としては、案件の総量やコンバージョン率を追っていましたが、ようやく3年目に入って、どのソリューションがどのマーケットに当たりそうかという分析ができるデータが溜まってきたので、そこを明らかにしていくのが次のステップだと思っています。
齋藤 ただ、分析作業が煩雑になると、中堅・中小企業にとっては厳しくなりますね。そのために営業担当者が会社に閉じこもってパソコンの前に座ってばかりいるといったことでは本末転倒です。ICTツールの活用も必要になってくるでしょう。
善浪 クラウド化が進むことによってかつては大企業しか実現できなかったレベルのICTが、中堅・中小企業でも手軽に利用できるようになりました。当社でも最近はむしろ、より危機感を強く持った中堅企業の経営層からのご相談が増えてきています。
営業改革の事例をあげると、最近販売計画システムをご導入いただいたある光学機器メーカーでは、以前は数千以上ある製品カテゴリーの売上計画や実績の管理に表計算ソフトを使っていました。しかし、予算策定や売上管理に大変な手間と時間がかかることや、地域別や製品別などの自由な分析もできないことを課題としてお持ちでした。今回のシステム化によって、計画業務と営業活動のデータを一元化し、迅速な計画策定と、リアルタイムの売上実績の可視化を実現し、精度の高い着地予想から、必要な手をすぐに打つことができるような体制にすることも目指されています。また、営業の事務作業の手間を減らすことで、働き方改革にもなると期待されています。
データドリブンな営業組織づくりによって
売上を上げるための戦略に集中
齋藤 善浪さんがお話されたように、今後はますますデータ分析に基づく営業活動が重要になるでしょう。私は、中堅・中小企業ほど取り組みによる伸びしろが大きいと思っています。なにせ、これまでデータに基づく戦略的な営業ができていなかったのですから。
善浪 現代は、市場の動きも過去に比べてかなり早くなってきています。年度の始めに販売戦略を立てたとしても、例えば、異常気象や競合の買収など、外部要因によって、状況が変化することはよくあります。そういう時に、当初の想定と違った動きをデータからいち早くキャッチして、新たな一手を打つスピード感が求められているように思います。
齋藤 そのとおりですね。これも私が勉強会でよく言っているのですが、景気が悪いとか、少子高齢化だとか、売れない理由を一般論で語るのは簡単です。ただ、詳しく話を聞いてみると、買ってくれそうなターゲットを明確にすることすらできていないケースがほとんどです。「モノが売れない」と言っても、成長分野は必ずありますし、その分野のお客さまは自社以外の競合企業から買っているわけです。つまり自社の戦略の立て方が間違っているのです。
善浪 自社がどのような方向に進もうとしているのか、経営者が示すことも必要ですね。営業部門における売上目標の設定などにも影響します。
齋藤 売上目標の設定こそ、データに基づくものであるべきです。ところが依然として「前年の○%増し」といった目標の設定の仕方をしているところが見受けられます。目標が高すぎると社員のモチベーションを下げるだけでなく、退職などにもつながりかねません。そうでなくても、未達が恒常化すると、意欲も低下するでしょう。
善浪 営業部門の責任者としては、売上を達成することが至上命題ですので、私も日々頭を悩ませています。一方、データの収集や統合、可視化、分析はツールを活用することによってかなり効率化することができます。われわれも日々チャレンジと試行錯誤の連続ですが、営業責任者の皆さまが、どうしたら売上がもっと向上できるのかといった議論や施策に集中していただけるよう、微力ながらお手伝いさせていただければと願っています。
また、当社主催で、