グローバル・ビジネス・サービス事業本部 戦略コンサルティング・デザイン統括 IBM Garage Lead 木村幸太氏

 マーケットが目まぐるしく変化し、テクノロジーが急速に高度化・多様化、そして複雑化する今、DXは必須だが実行は簡単ではない。自前主義を捨ててあらゆる分野からリソースを募り、目標に向けてプロジェクトをドライブしていく必要がある。IBMが示した回答は、変革を促しスピードを上げるエコシステムであり、知見を共有するプラットフォームでもある「IBM Garage」だ。日本アイ・ビー・エムでこの取り組みを主導する、木村幸太氏に日本のDXの現状を尋ねた。

IBMがワンストップで企業のDXをフルサポート

 IBM Garageは、2016年から始まった企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を促進する統合プログラムだ。企業がDX実現に必要な全ての技術や知見、人材、さらに物理的な実験スペースやソフトウェア/ハードウェアをワンストップで提供する。

 サービス開始当初は、顧客のニーズに応じたシステムやソリューションを迅速に開発する支援を主眼にしていたが、そうした初期開発のフェイズだけでは、近年急速に高まってきたDXのニーズをカバーできない。そこでIBMの社内体制も含めて、さまざまな顧客企業のDX支援の要請に応えられるよう、規模的にもメニュー面でもスケールアップした。


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 この点についてIBM Garageを主導するグローバル・ビジネス・サービス事業本部戦略コンサルティング・デザイン統括IBM Garage Lead木村幸太氏は「初期段階のビジョン策定、アイデア創出からユースケース作成、PoC(概念実証)といった立ち上げのフェイズにとどまらず、IBM Garageではその後のパイロット試作(MVP=Minimum Viable Product)から正式リリースまでを一気通貫で支援していく点に特徴があり、変革に全域で寄り添います」と説明する。

エコシステムを形成し多様な協力体制を提供

 これを分かりやすく示したのが、下図「IBM Garage Ecosystem」となる。円の右半分は「IBMのケーパビリティー」、すなわちIBMが顧客に対して提供できるさまざまなリソースを示している。顧客の状況や要件などの「リサーチ」から、IoT、Watsonなどの先端テクノロジー、クラウドや関連技術であるブロックチェーン、分析、セキュリティーなどのスキルセットが並ぶ。これらは全てIBMが提供できるものだ。


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 一方で注目すべきは左半分だ。「クライアント」側には「カスタマー」だけではなく、「ディストリビューター」「サプライヤー」さらに「スタートアップ」が同列に並ぶ。通常、これらは顧客が個別に対応すべき「外部協力者」だ。

 これに対して木村氏は「IBM Garageでは、そうしたお客様のDXプロジェクトに必要な外部の企業ともエコシステムを形成しながら、お客様のDXを支援しています。例えば初めてDXにチャレンジする企業であっても、ビジョンの策定からDX実現に必要なパートナー企業、スクリーニング、プログラム管理まで、このエコシステムの中でカバーできます」と、構造自体が旧来のサポートの仕組みと異なることを説明する。

 すでにある程度自社で進めており、必要な部分だけフォローしてほしい場合も、求める要件にフォーカスした提案ができるという。この柔軟さと幅広さで、企業によって異なるDXの目的とステージにフィットした活用が可能だ。

IBM Garage活用事例に見る企業改革の3つのポイント

 2016年のスタート以来、IBM Garageが残した実績は多い。木村氏によれば「平均すると大手企業を中心に四半期でおよそ数十件の企業がIBM Garageを活用している状況です。金融や製造業が目立ちますが、昨今のDXへの関心の高まりを背景に、あらゆる業界からお問い合わせをいただいています」と、DXへの関心がいっそう高まっている様子を語る。

 日本の企業がDXの実現に向けて取り組みを始める場合、具体的にどのようなポイントに留意すべきなのだろうか。木村氏は、事例から3つのポイントを挙げる。

1 ビジョン・提供価値の見つめ直し

 木村氏によれば、DXを推進していく際に必ず起こるのが、従来のビジネスモデルと新しいデジタルのモデルとの間で起こるバッティングだ。例えば販売業であれば、デジタルのチャネルを設けることで、既存の販売チャネルとのコンフリクト(衝突)が起きる。これはBtoC、BtoBを問わない。既存の組織の中でデジタルを活用する場合、そのすみ分けや導入の方法、コンフリクトの解消方法などを考える必要があり、その際、デジタル化のビジョンと提供価値がよりどころとなる。

2 人材カルチャーの変革・再編

 昨今の人手不足の中、特にデジタル人材は業界内で取り合いになっている。優れた人材を獲得するには、社内の制度やスキル定義などを整備し、入社後も確実に定着させていけるよう組織を整備していく必要がある。これについては、IBM自身が改革に取り組む事例企業となって知見を共有している。例えばデザイナーやデータサイエンティストを正式な職種として定義し、中途採用だけでなく新卒でも採用・定着させ、DXのスピードとパワーを上げる方法を議論している。ここから得たベストプラクティスは、IBM Garageにフィードバックされている。

3 スピード感のある進行

 DXでは次々に状況を分析して仮説を立案、高速でPDCAサイクルを回しながら自社の目標を実現することが求められる。従来は1年から1年半ほどかけて遂行するプロジェクトも、今や半年や3カ月後といった短期間で成果をマネジメントに示したいという要望もある。そのためシステム開発のみならず、プロジェクト全体をアジャイルなアプローチで進める必要がある。

 DXの推進に当たっては、ビジネスモデルも人材も、そしてプロジェクトの進め方自体も、これまでの日本式が通用しない。自社の常識や自前主義を一度捨てて「誰も見たことがない新しいもの」をつくり出す活動、それがDXだ。だからこそ、知見を持った存在の助力が要る。

「IBM Garageは、新しい部署、組織の立ち上げから、人を集めて動かして評価するためのさまざまなノウハウやメソッドの提供、プロジェクト全体の戦略設計までをトータルで提供できる仕組みです。われわれは、ここにグローバルで得た経験値と最先端のテクノロジー、ネットワーク、そして豊富な人材を投入して企業のDXを後押ししたいと考えています」

スタートアップの事業育成と大企業との共創

 企業のDXを推進するプラットフォームであるIBM Garageの中でも、スタートアップにフォーカスしたプログラムもある。それが「IBM BlueHub」だ。これは2014年に始まった試みで、スタートアップの事業育成、およびスタートアップと一般企業の橋渡しを行い、両社の間でイノベーションを加速させる仕組みだ。毎年1回、インキュベーションプログラムでメンタリングの進捗を発表する「デモデー」も開催されており、直近では2019年3月18日に第5期の参加者による報告が行われた。

 木村氏は、IBM Garageの中に、あえてスタートアップとの連携に焦点を当てたIBM BlueHubプログラムを設けた意図について、IBMの中だけで閉じることなく、独自のテクノロジーを持った若い企業と積極的につながることで、時代の変化に即応できる体制を構築しようと考えたものだという。

「企業変革には外部の刺激が必要です。内部の力だけではなかなか進みません。一方でR&D、アイデア出し、実験、実証を経て事業化するまでのスピードはどんどん上がっています。それは業界再編、業界を超えたディスラプター(創造的破壊者)の増加が、企業経営に携わる者の意識にプレッシャーを与えているからです。私たち自身も内部に閉じることなく、積極的にスタートアップ企業と接する機会を持ちたいと考えています」

 IBMを介して大企業がスタートアップの技術を取り入れる一方、スタートアップは自社のイノベーティブなアイデアを事業化する上で、大企業のパワーやビジネス化のノウハウを活用する。IBMは、そうしたwin-winとなる環境づくりを目指している。

 IBM BlueHubは、スタート以来5年間で、すでに100社を超えるスタートアップの成長の基盤になってきた。そのリソースはIBMの顧客である一般企業に紹介され、新たな化学反応を促進する仕組みとして機能している。加えて最近では、ベンチャーキャピタルやアクセラレータとも交流が進み、DXやイノベーションに関するプレーヤーの、文字通りハブとして、欠かせない存在となっている。

業界や領域を超えCXの実現を

 今後のIBM Garageの展開について、木村氏は「これからが本番」と意気込みを見せる。

「IBM Garage自体は2016年のスタートですが、先述の『IBM Garage Ecosystem』のようなコンセプトを打ち出したのは最近のことです。これは、顧客企業のDX、つまり、カスタマーエクスペリエンス(CX)を中心とした全社的なトランスフォーメーションという、未知の領域を一緒に開拓したい、そんな思いによるものです」

 いま、企業がDXやデジタルイノベーションに取り組む際、真っ先に課題となるのが顧客中心主義だ。そして本気でCXの観点から既存のビジネスをトランスフォームしようとすれば、間違いなく既存の業務の枠には収まらない、と木村氏は指摘する。顧客が本当に求めるものを実現するには、業界や領域をまたいだ変革になるのは確実であり、さまざまな企業や団体、組織がそれぞれの強みを掛け合わせて臨む必要があるというのだ。

「そうなったときに、いったい誰がその境界を超えた取り組みを支えるのか、誰も正解を持っていません。そこをエンド・ツー・エンドで支援可能な方法論、必要な体制を整備したのは、私たちIBMだけだと確信しています」


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 DX、その前提となるCXを実現するには、単体のソリューションでは対応しきれない。デザイン思考やデジタル戦略策定のような考え方のフレームワークからアジャイル開発、実装まで、あらゆる可能性や選択肢に応えるケーパビリティーが求められてくる。そのための体制を、IBM Garageはフルに備えているといえる。


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