日本最東端の市である北海道根室市で、2011年2月に戸籍事務をコンピューターで管理する戸籍情報システムの運用が始まった。 

 移行作業のスタートは2010年6月。そこから、わずか8カ月という驚異的なスピードで電算システムの運用開始にこぎ着けた同市役所市民環境課の竹脇秀斗課長と戸籍事務の実務に携わる長谷部裕美子主査に話を聞いた。

財政難で遅れた戸籍の情報化

根室市の紙の戸籍台帳。240冊に3万6426人分の戸籍が保管されていた。

 根室市の市民環境課の壁際の書架には、地区ごとにステンレス製の表紙で綴じた戸籍台帳240冊がずらりと並ぶ。台帳には根室市1万5389戸・3万6426人と北方領土の67件133人の戸籍が保存されている。背表紙には手書きの町名表示がビニールテープで丁寧に貼られていて、長い年月に渡って大切に管理されてきた歴史が伝わってくる。2011年2月20日までは、住民から戸籍謄本や抄本の写しの請求があると、市民環境下の職員が書架から分冊を取り出し、該当ページをコピーして住民に交付する昔ながらの対応をしていた。

 1994年の戸籍法改正で戸籍情報を磁気ディスクに記録することが認められたことを機に、全国の自治体で戸籍事務の電算化へ移行が始まった。ただ、財政難に苦しむ地方自治体にとって巨額のシステム投資の負担は重く、北海道では半数以上の自治体が現在でも紙の原簿をベースに戸籍事務を行っている。根室市も予算上の制約から電算化に踏み切れずにいたが、住民票や税などのシステムとの連携による業務の効率化や、住民サービスの向上の観点から、ようやく2010年度の電算化が決定、日本IBMが提供する戸籍管理システムを導入した。

根室市市民環境課 竹脇秀斗課長

 竹脇課長は「市の基幹システムとして採用しているIBMのサーバーは安定性が高く、ウイルス感染やサイバー攻撃などのトラブルも一度もない。2004年のマグニチュード7.1、震度5の根室半島沖地震でも何の支障もなかった。戸籍業務はシステムの安定性が第一のため、これまでの信頼と実積が大きな評価ポイントになった」と言う。

 

煩雑な電子化移行作業をメーカーが代行

 さらに、根室市にとって魅力的だったのが「小規模自治体の実情を配慮した、かゆいところに手が届くサービスの提案」だったという。竹脇課長によれば「限られた職員で電算化への移行作業を進める上で、メーカー側が担当職員の負荷を軽減するための対応策をきめ細かく考えてくれたことも大きな決め手となった」そうだ。 

 戸籍の電算化は、紙の台帳をマイクロ撮影し、データとしてコンピューターに一挙に取り込むところからスタートする。根室市でも、2010年6月の週末の閉庁日に、担当職員立ち会いのもとで、専門業者が240冊分の台帳の撮影作業を行った。

 しかし、データ取り込みからシステムの運用が始まるまでの間にも、日々、出生、死亡、婚姻など新たな届け出が行われるため、後追いのデータ入力が必要になる。また、特に手間が掛かるのが、「疑義照会」と呼ばれる作業だ。癖字や誤字などデータとして取り込むことが困難な文字の判読や、明らかに誤記載が疑われる事項を洗い出し、確認・確定しなければならない。法務局や別の自治体に保存されている原簿と照会が必要な場合には、照会申請書の作成や発送、問い合わせ先からの回答状況の把握、データ修正など労働集約型の膨大な作業が発生する。