開学当初より、実社会で役立つものづくりを実践する「実工学」を支える人材を輩出してきた日本工業大学。変化する社会に適応する人材を育成するため、平成30年度には学部学科の改編を行い、基幹工学部、先進工学部、建築学部の3学部6学科2コース体制で新たなスタートを切った。同時に、「学び続ける技術者」を育成するために、初年度の学生に提供する工学基礎教育のプログラムを改革する。

こうした新しい体制で何が変わったか、成田健一学長に話を聞いた。

日本工業大学 学長 成田 健一 氏
12月竣工の新講義棟をバックに

学部学科改編・基礎教育の改革を経て

まず、学部学科改編によって、ロボティクスや応用化学など「高校生の進路の希望に合う窓口が広がり、受験生にとって見えやすくなった」と話す成田学長。さらに、導入から半年が経つ工学基礎教育のプログラム改革の効果についても語ってもらった。

改革の内容は、入学時に工学の基礎となる「数学」「物理」「英語」の3科目について習熟度を計るテストを行い、習熟度別でクラスを編成するという新たな仕組みの導入。1年に4回の授業機会があるクォーター制を採用し、ひとりひとりの能力に合わせてクォーターごとに授業の難度を高めていく。

理数言語リテラシー

「導入から半年が経ち、学生たちの目の色が変わった。クォーター制のもと、頻繁な小テストを通じて理解度を図るため、自ら予復習を行う習慣づけが出来てきた。授業の出席率も上がり、欠席はほとんどない。解るまで教え、解るまで学ぶ学習により、学生たちの基礎力が底上げされてきたことを感じる」

「上位層の引き上げという効果もあった。春学期の前半のうちに必修の数学を学び終わり、春学期後半には解析学まで学修した学生が少なからずいることがわかった。通常は1学年の後半から2学年で学ぶことを、はるかに早いペースで学べる優秀な層が把握できた」
 

本質的な理解や学ぶ楽しさを得られる学修体験をめざして

ただ、その背景には課題もある。
「学び方に問題がある学生もいる」と成田学長。

「例えば物理でいうと、ポテンシャル差・抵抗・流れの関係は、対象が電気であろうと熱であろうと水であろうと原理的なパターンは同じなのだが、現象を理解して学問全体に通じる相似関係を理解しようとせず、断片的に情報を得るだけの学生もいる。最小限の作業で目先のテストをクリアするためのテクニカルな勉強だ」

「これでは本質的な理解や、学ぶ楽しさに行きつくことはない。大学での学びはそうではない、と学生自身が気づくために、大学が何をできるかを考えていかないといけない」

理屈を繰り返し教え、意味理解や思考過程を重視する学習機会を与えることが重要性だと語る成田学長。学生たちが学びの楽しさを理解するスイッチを作ることが、これからの大学の課題だという。

加えて、春学期に解析学の学修まで至った優秀な学生たちには、どういうプログラムを提供していくかという課題もある。ゼミに早く入れるようにする、自前の留学プログラムを勧めるなど、学びを充実させるための新たな方法を模索している。
 

学びの喜びに触れるにはさまざまな機会があるとよい

日本工業大学は、今年12月25日に新しい講義棟の竣工を予定している。
「学生たちがお互いに支援できる、ピアサポートの空間にしたい」と話す成田学長。

3階以上は講義の教室になるが、1階・2階には学修支援、英語教育、教職教育の各センターを入れるとともに、オープンスペースにして学生同士が交流できる場を作るつもりだ。

アカデミックリビング

「今は学生同士で交流できるスペースが少ない。授業が終わったらすぐ帰ってしまうのではなく、人脈を作り、お互いサポートできる空間を作りたい」という。

「ただ、箱モノを用意しても、そこにどうやって魂を入れるか。価値観のジェネレーションギャップがあることを前提に、学生に真摯に向き合ってさまざまなきっかけのある場所にしていきたい」
ここでも成田学長は、「どうやって学びの喜びを伝えるか」という視点で考える。

「自分のために学んでいるのだという意識を持つきっかけはひとりひとり違う。部活であったり、先生の一言であったり、課題につまずいたときのアドバイスだったりする」

「バリエーションをたくさん仕込む環境を大学で作ることが大事。新しい講義棟も、その一つの機会として生かしていきたい」という。
 

社会とつながる大学の役割

日本工業大学のベースにあるのは、地に足のついた技術を新たな価値創造に生かす「実工学」だ。

将来の新基盤技術をけん引する存在として、平成29年度には、私立大学研究ブランディング事業「次世代動力源としての全固体電池技術の開発と応用」が採択されている。この事業は、日本工業大学がこれまで得意としてきた薄膜合成や金属加工などの基盤技術を、先進科学技術に生かした結果だ。

「技術の実用化のためには、さまざまなトライアルを経て、なぜうまくいったか、性能を上げるために何が必要か、どういう条件まで反応が維持されるかといった検証の技術が必要。日本工業大学にはそれができる技術・装置・ノウハウがある。企業ではできない基盤技術の部分に力を入れて、新しい技術を確立しようとしている」という。

新しく力を入れようとしている分野は、それだけではない。あらゆる文化差や個体差を乗り越えたユニバーサル化にむけて、まずは高齢化社会のサポートを多職種連携で担う、障がい者教育のためのソフト・リハビリテーションのための関連機器の製作など、社会の課題に対応するプロジェクトをロボットや情報工学の分野で連携しながら推進する予定だ。

「工学ができることを探り、産学が連携しながら、社会と幅広につながっていく」
「大学のかかわりを社会に見えるものにしたい」と成田学長は語る。
 

<編集後記>

成田学長は、実工学の学びを深化させる工学基礎教育改革を、「誰もがどこかに弱点・不得意科目がある中で、解るまで学べることをプラスに感じている」と振り返っていた。

なんとなくで済んでしまう学修体験、どこにもつながらないという不安感が蔓延する中で、基盤の強化に踏み切った日本工業大学。学生に自律的学習者になるきっかけを与えることで、将来の実工学を支える「学び続ける技術者」を一から育てていくという覚悟を見たような気がした。


<PR>