RPA導入の成功を阻む落とし穴とは?

 人間がPC上で行う手作業をソフトウェアロボットによって自動化し、大幅な業務効率化やコスト削減を実現するとされるRPA(Robotic Process Automation)。少子高齢化による労働力不足が今後ますます深刻化するであろう日本においては一段と注目が高く、現在多くの日本企業がRPAの導入・活用に取り組んでいる。

 ITベンダー側もこうしたニーズに応じてさまざまなRPAソリューションを打ち出す中、ユニークな取り組みを展開しているのが日本アイ・ビー・エムだ。既にワールドワイドで数多くのRPA導入事例を有する同社によれば、RPA導入には思わぬ「落とし穴」があるのだという。

 「いざRPAを導入してみたはいいものの、落とし穴にはまってしまい、当初想定していたほどの導入効果を得られないケースが散見されます。そこで日本アイ・ビー・エムでは、RPAの導入に取り組むお客様がこうした落とし穴にはまらないための提案を行っています」

日本アイ・ビー・エム IBMクラウド事業本部
クラウド・テクニカル・セールス
シニア・コンサルティング・ITスペシャリスト 中村航一 氏


 こう語るのは、日本アイ・ビー・エム IBMクラウド事業本部 クラウド・テクニカル・セールス シニア・コンサルティング・ITスペシャリストの中村航一氏。同氏によれば、この落とし穴には大きく分けて2つのタイプがあるという。1つ目は、RPA導入によって個別の作業は効率化できたものの、業務全体で見ると効果が出ていない、あるいは効果が出ているかどうかすら分からないというものだ。

 「人手からロボットに置き換えた作業は自動化されて効率化されているものの、業務全体で見ると実は周りの人の作業にしわ寄せが生じていたり、あるいは人とロボットが混在して誰が何をやっているのか見えなくなってしまい、かえって混沌としてしまうケースが多く見られます。こうした事態に陥らないためには、局所的に一部の手作業だけをロボット化するのではなく、業務全体の流れを整理し把握した上で全体最適の観点に立ってロボット化するべきところを考えていく必要があります」(中村氏)

 そこで日本アイ・ビー・エムではRPA製品だけではなく、業務全体の流れをコントロールするためのBPM製品や、業務設計のためのモデリングツールなどもセットにして顧客に提案することが多いという。例えば、同社が提供するクラウド型の業務モデリングツール「IBM Blueworks Live」は、クラウド環境上で複数人がコラボレーションしながら既存業務の可視化や新たな業務フローの設計を進められるツールだ。これを使って、まずは自動化しようとする業務全体の流れや構造を把握し、どこにRPAを適用すれば最も効果的かを検討する。

業務フローを可視化し改善や共有できるIBM Blueworks Live
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 その結果、場合によってはRPAではなく、ルールエンジンやAIなどによる自動化が適している作業も出てくるかもしれない。そうした場合でも、日本アイ・ビー・エムではルールエンジン製品の「IBM Operational Decision Manager」やAIの「IBM Watson」に代表されるさまざまな自動化の技術を有している。これらを活用して、適材適所で各作業の自動化の仕組みを配した後は、それらの間をBPMでつないで業務全体の自動化と効率化を実現する。

 日本アイ・ビー・エムではこのように、RPAをはじめとしたさまざまな技術を組み合わせた総合的な業務自動化ソリューションを「IBM Automation Platform」と題して、ひとまとめにして提供している。

 「近い将来、人の作業をコンピュータで置き換える『デジタルレイバー』の時代が本格的にやって来ると予想しています。IBMではデジタルレイバーを考える際、RPAを『人の手』に、データキャプチャやOCRの技術を『目』に例えています。また人間の左脳はルールエンジン、右脳はAIに相当し、これらを結ぶ中枢神経の役割をBPMが担います。このように、本格的なデジタルレイバーを実現するために必要な技術を、すべてまとめて提供できるのが弊社の強みといえます」(中村氏)

RPAだけにとどまらない業務自動化を支援するIBM Automation Platformのコンセプト
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「野良ロボット」の存在が企業にもたらすリスク

 RPA導入で陥りがちな2つ目の落とし穴、それが「野良ロボット」の問題だ。個々の作業や業務ごとにばらばらにソフトウェアロボットを導入していった結果、いつの間にか各ロボットに対する管理の目が行き届かなくなってしまい、どこで何をしているのか分からないロボットがあちこちで出てきてしまうのだ。

 RPAはエクセルのマクロなどとは違い、多くの場合は人と同じく業務システムにログインして情報を取得したり登録したりする。そのため、ロボットが適切に管理されていないと、野良ロボットが企業の大事な情報資産を勝手に漁って、セキュリティやガバナンス上のリスクを引き起こす危険性がある。中村氏によれば、特に日本においてはこうしたリスクが発生しやすいという。

 「日本のお客様がRPAの導入を始める場合、まずはデスクトップ型の製品を小規模導入して、そこで効果が出たらサーバ型に移って規模を拡大していくというアプローチが多くとられます。しかし、導入する台数がたとえ1台であったとしても、ロボットに勝手に動かれるとシステムの安定性やセキュリティが損なわれるリスクが生じます。従って当初から従業員の勤怠管理と同じく、ロボットがどこでどういう作業をしているのかをきちんと管理する必要があります」(中村氏)

 また、導入当初は安価なデスクトップ型のRPA製品で当座のニーズをまかない、適用範囲が広がってきてからサーバ型の製品を導入するというアプローチをとる企業も少なくないが、その場合も後になってサーバ側に乗り換える際に既存ロボットの入れ替えや改修が必要になり、結果的にはコストが高く付いてしまうことが多い。

 そこでIBMでは、サーバ型のRPA製品としてワールドワイドでトップクラスの実績を持ち、ガートナーのマジック・クアドラントでもトップベンダーとしての評価を得ている米Automation Anywhere社のRPA製品を採用している。グローバルで700以上の導入実績を持つRPAマーケットのリーダー的な存在であり、広範なビジネスアプリケーションに対応するほか、ロボットの集中管理やガバナンス、セキュリティに強みを持っており、企業における本格的なデジタルレイバーの実現に最適な製品だといえる。

Automation Anywhere Enterpriseの特長
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 これに、業務全体の自動化を下支えするためのBPMエンジン製品「IBM Business Process Manager(BPM)」をセットにした「IBM RPA with Automation Anywhere」が、日本IBMが提供するRPAソリューションのコアと位置付けられている。

IBMが目指す「真のデジタルレイバー」の姿とは?

 IBM RPA with Automation Anywhereには、具体的には以下の製品ライセンスが含まれている。

・Automation Anywhereの開発ライセンス「Bot Creators」
・Automation Anywhereの管理サーバーライセンス「Control Room」
・Automation Anywhereの実行ライセンス「Bot Runners」
・IBM BPMの使用ライセンス

図:IBM RPA with Automation Anywhere のコンポーネント
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 なお、最も安価なライセンスの組み合わせ(3 Bot Creators、1 Control Room、1 Bot Runners、IBM BPM Express 70PVU)は月額十数万円で利用可能で、現在日本で利用可能なAutomation Anywhereライセンスの中では最も安価な部類に属する。

 Automation Anywhereはそのライセンス体系を見ても分かる通り、ロボットの開発機能と管理機能、実行機能が明確に分かれているのが特徴だ。管理者は「Control Room」と呼ばれる管理コンソール上で、社内に配置されているすべてのロボットの実行状況や稼働実績を一括管理できる。またロボット本体だけでなく、ユーザーがロボットを実行する権限もまとめて管理できるようになっている。これにより、野良ロボットの徘徊を許さない強固な管理体制を実現できる。

 一方、ロボットの開発機能も充実しており、ユーザーのデスクトップ操作を自動的に記録し、スクリプト化してくれる機能と、スクリプトの内容を詳細に編集できる機能とが一体で提供される。これにより、まずはユーザー操作の記録でスクリプトのひな形を作り、そこから実際の業務に合わせて内容を編集していくという開発スタイルが、効率的に行えるようになっている。またスクリプトを編集する際もプログラミング作業は不要で、既に用意されているコマンドのアイコンをドラッグ&ドロップで配置し必要なパラメータをセットするだけで開発できる。

 こうした機能を駆使して個々の作業をソフトウェアロボットで自動化しつつ、先に紹介したIBM Blueworks Liveを使って業務全体を通じた自動化の戦略を練り、場合によってはルールエンジン製品やAI製品も活用しつつ、業務フロー全体の制御をBPMで行う。RPAは、こうした業務自動化の大きな枠組みの中で重要な役割を果たすパーツの1つとして位置付けられている。日本アイ・ビー・エムでは今後「RPA+BPM」だけでなく、業務自動化に寄与するあらゆる技術を1つにまとめた「IBM Automation」のソリューションにより一層力を入れていくとしている。

IBM RPAが目指す業務の自動化
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 「業務自動化の仕組みを構成する各種製品のライセンスをまとめて購入いただき、その範囲内で自由に製品を組み合わせて利用いただけるような販売形態も検討しています。今後は、各種テクノロジーが密接に連携した『真のデジタルレイバー』の実現を目指し、引き続き製品やソリューションの開発・提供に取り組んでいきたいと考えています」(中村氏)

 

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