4月16日、再生医療などへの利用が期待されるSTAP細胞の論文に関する研究不正につき、理化学研究所の笹井芳樹発生・再生科学総合研究センター副センター長が記者会見を行った。笹井さんはSTAP研究を主導した小保方晴子研究ユニットリーダーの上司にあたり、STAP論文の共著者でもある。

 記者会見では質問がSTAP細胞の有無に集中し、笹井さん自身も冒頭の会見でSTAP細胞の有無について自ら説明していたが、ここではSTAP細胞の有無は問題にせず、ガバナンスという視点から笹井さんの記者会見を検討してみたい。

 そもそも4月1日に記者会見した理研の調査委員会が再三述べていたことであるが、今回のSTAP論文における「研究不正(この言葉は、理研の内規に正確に定義されている言葉である)」は、論文に使用されていた画像2枚について認定されたものであり、STAP細胞の有無について理研は何らの判断をしていない。

 また4月9日に小保方さんが記者会見を行った趣旨も、この画像2枚に関する研究不正認定への不服申し立てであり、本来小保方さんはSTAP細胞の有無を問題としていない。

 あのテレビで何度も繰り返された「STAP細胞はあります」という発言も、記者会見の後半で疲れている時に記者が誘導気味に質問した言葉に対して、とっさに研究不正を争っている立場上答えたというのが実態だ。

 長くなったが、以上のように研究不正も、懲戒も、そこから考える理研のガバナンスも、STAP細胞の有無と関係のないところで進んでいくし、進んでいって構わないのである。

笹井さんの関わりについての疑問

 冒頭の会見で笹井さんは、自分のSTAP論文への関わりは、最後の仕上げ部分のみであったと述べている。

 調査委員会の調査報告書でも「成果とりまとめに近づいた段階に入って笹井氏と丹羽氏というそれぞれ若山氏とは独立した立場のシニア研究者がデータの補強や論文作成のために協力することになった(後略)」とされている。

 このように笹井さんの会見での発言と、調査委員会の調査報告書は大方において一致するが、調査委員会で研究不正があったと認定した英ネイチャー(Nature)誌の論文上ではやや様相が異なる。

 引用すると「Author Contributions H.O. and Y.S. wrote the manuscript. H.O., T.W. and Y.S. performed experiments, and K.K. assisted with H.O.’s transplantation experiments. H.O., T.W., Y.S., H.N. and C.A.V. designed the project. M.P.V. and M.Y. helped with the design and evaluation of the project.」として「Y.S.」こと笹井さんが「論文作成」「実験」「研究デザイン」と全般にわたって関わっていたことが記されている。

 調査委員会は6点の疑義についてのみ調査しており、笹井さんが研究の全体にどのように関わっていたかについては詳しくは調査していない。したがって調査委員会がNatureにおける笹井さんの関わりの記載を虚偽であると認定したわけではない。

 笹井さんの記者会見ではこの点についての質問がなされなかったが、会見での笹井さんの発言が真実だとするならばNature上の記載は虚偽ということになる。