ひと目見て但野雄一さんは若かった。何歳か尋ねてみたら30歳だという。インディアンの横顔の赤いTシャツが似合う。アメ車が好きです。実は独身時代、乗ってたんですよ。いやあ、かっこいいですが、燃費はサイアクですね。バイク、やっぱりハーレーですよね。そんな雑談で話が弾んだ。
やわらかな声。ソフトな話し方。身長177センチ。すらりと背が高くて目がやさしい。中学高校時代は野球部でピッチャーだったという。きっと女の子にモテたんだろうなあ。などと考える。
3月11日、奥さんは7カ月の妊婦だった
山形県米沢市に、福島県南相馬市から避難生活を続ける人たちを訪ねた時のことだ。記者である私が来ると聞いて、仮住居であるビジネスホテルのロビーに集まった人たちの中に但野さんはいた。自分より年長の人たちが数人、私に話を終えるまで数時間、じっと横に座って待っていてくれた。それでいていやな顔ひとつしない。礼儀正しいうえに我慢強いのだ。
膝にふっくらした赤ちゃんが抱かれている。長男の鳳真くんだ。手足を元気にばたばたさせている。ヘヘへーと大きく笑う。木綿の手袋をしているのは、元気すぎて顔をひっかいてしまうからだそうだ。ホテルに住んでいる人たちの人気者らしい。外からホテルに帰ってきた女の子やおじさん、おばさんがみな、顔を見に集 まってくる。
何カ月ですか? 2カ月です。6月15日が誕生日です。そう言われて、気づいた。3月11日には、まだ鳳真くんは生まれていなかったということだ。
但野さんの携帯電話が鳴った。画面に「発信元 ヨメ」という字がちらりと見えた。奥さんの好実さんが外出先から帰ってくるという。やがて、髪の長いきれいな女性が玄関から入ってきて、隣りに座った。なるほど鳳真くんと同じ目をしている。24歳。
「地震の時、奥さん(好実さんのこと)7カ月の妊婦だったんです」
じゃあ、鳳真くんは米沢生まれなんですか?
「はい。米沢市民病院で生まれました」
本当に元気な赤ちゃんですね。そう言うと、但野さんは鳳真くんをじっと見つめた。
「こいつが生まれるまでは、指が5本あるだろうかってホントに心配で心配で・・・」