「本流トヨタ方式の土台にある哲学」について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明しています。

 前回から、「(その2)諸行無常」についてお話を進めています。ここで考える「諸行無常」というのは、何も高邁な哲学を言うのではありません。

 現場におけるあらゆる事象が時間と共に変化してしまうことを言います。これは現場管理においては大変に厄介な問題で、本流トヨタ方式では、これをどう捉え、どの様に取り組んでいるかを御説明しております。

 前回は、「<1>諸行無常と日本人」「<2>自分の城は自分で守れ」についてお話ししました。今回は「<3>標準作業時間とは何か」についてお話しします。

「勘・経験・度胸」で見積もりされていた作業時間

 まず、「標準作業時間」にどんな場面で遭遇するか一例を挙げてみましょう。

 例えば、雨漏りがしたので修理の見積もりを取ると、瓦屋によって見積もり額が大きく違うことに驚かれるでしょう。使用する瓦の値段は違いませんが、作業する時間の見積もりに大きな差があるのです。

 見積もり時間の精度が悪いのは、ベテランの「KKD(勘・経験・度胸)」によって決められているからです。

 20世紀初頭までの工場では、こうしたKKDによる管理が行われていました。作業を管理する際には、経営者が経験や習慣に基づいて「成り行き管理」を行うのが一般的でした。

 成り行き管理だと、経営者の都合によって労働者にしわ寄せが来る場合が多々あります。それに抗議して組織的怠業(サボタージュ)が行われることもありました。また、親方が会社から仕事を請け負い、労働者が親方の下で徒弟制度のまま理不尽な条件で働かされるということもありました。

テイラーやギルブレス夫妻が現場の作業管理を科学的に研究

 この問題に真っ向から挑戦し、道を開いたのは、技術者出身の米国の経営学者、フレデリック・テイラー(1856~1915年)でした。彼は、様々な仕事を細かい要素作業に分解し、その要素作業ごとに「時間研究(time study)」を行うことで、公正に作業時間を見積もる方法を開発したのでした。

 この「科学的管理法」は、「成り行き任せ」の現場を「科学的に管理された」現場にすると同時に、労働者の立場を保護し、労働者がたくさん働けば、その分支払いを多くし、サボれば支払いをその分少なくするという公正さをも狙っておりました。

 さらに、使用する工具や手順など諸条件を標準化することで、1日になすべき仕事量を決めることができる、としました。この考え方が革命直後のソ連に伝わり、計画経済に組み込まれて発達し、「ノルマ」というロシア語が悪い意味で後に世界に広まったとされています。