相手国の取引停止に打てるロシアの手

 再整理すると、今後のロシアの貿易は、相手方において米国による二次制裁を回避する動きが強まったことを受けて、輸出入の両面で停滞することになるだろう。とりわけ輸入の停滞は、ロシアのモノ不足に拍車をかけ、インフレ圧力を高めると予想される。また輸出の停滞は、資源企業からの税収の減少を通じて財政を圧迫する。

 当然、ロシアはこうした事態を軽減させるために、対抗手段を打つことになる。中国やインドも、可能な限りは協力するだろうが、現物決済の拡大は非現実的な対抗策である。それよりも、ズベルバンクなどVTBバンク以外のロシアの大銀行が中国やインドに進出して、現地の銀行や企業と決済することのほうが現実的だ。

 それでも、ロシアの銀行が進出先で金融サービスを提供できるまでには、相応の時間を要する。それに、二次制裁のリスクを冒したくない現地の銀行は、ロシアとの取引を手控えるだろう。それ以外の抜け穴を作り出すとしても、取引には限界がある。こう考えていくと、ロシアと新興国との貿易が回復していく展望は描きにくい。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

【著者の主な記事】
日照不足なのに太陽光発電を推奨するドイツの不合理、ロシア産ガス抜きと再エネで気候中立を目指す自縄自縛(JBpress)
EUの対中政策に綻び、中国を公式訪問するドイツ・ショルツ首相の思惑(JBpress)
通貨フリヴニャの下落が映し出すウクライナ経済の実情、管理相場に移行したのに下落し続ける背景」(JBpress)
「一帯一路」から離脱したはずのイタリアが中国企業の誘致に積極的な理由、EUにもはびこる「上有政策、下有対策」(JBpress)
通貨が暴落しているのに米ドル建て一人当たり所得が増加しているトルコ、「高所得国」目前だが調整は不可避(JBpress)
3年目に突入したウクライナ戦争と3.6%成長を実現したロシア経済の死角、経常収支の黒字幅縮小に見る経済構造の変化(JBpress)
「脱炭素化」の切り札として各国が熱視線を送るSMR、EUとフランスは次世代原発同盟を結成して原発に“マン振り”(JBpress)
バルカン半島の国々で進む市場統合構想に垣間見えるEU拡大戦略の蹉跌(JBpress)
実はマイナス成長、名目GDPで日本を追い抜いたドイツが全然笑えないワケ(JBpress)
原発を「グリーンな投資対象」に加えたEU、メガトレンドではなくなった脱原発(JBpress)
割安なロシア産原油で精製した石油製品を国際価格で売りつけるインドの商魂(JBpress)
ルーブル高と財政拡張の実現、矛盾した政策目標を課されたロシア中銀の悲哀(JBpress)
化石燃料の「脱ロシア化」を叫ぶ欧州がロシア産LNGの輸入を増やしている現実(JBpress)
ロシアやOPECが演出する原油高、ロシア財政に与える影響はどれほどか?(JBpress)

【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)がある。