食べ残しを活用した循環型有機農法で野菜を栽培する日本の温泉旅館
写真提供:共同通信社

 格差や分断、気候変動、環境破壊、人口減少…。さまざまな問題が山積する中、「サステナビリティ=人類社会の存続」の実現に向け、エネルギー革命やサーキュラーエコノミー、AIの活用など「新たな産業革命」の兆しが見え始めている。その大波が産業や雇用、社会や教育のあり方を激変させることは間違いない。本連載では、『データでわかる2030年 雇用の未来』(夫馬賢治著/日経BP 日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。データをもとに将来の社会を展望しつつ、来たるべき変化にどう備えるべきかを考える。

 第4回は、環境に配慮した最新農法と、持続可能な農業を目指す日本政府の取り組みを紹介する。

<連載ラインアップ>
第1回 各国政府や企業も注目する課題解決のための概念、「ウェディングケーキ・モデル」とは?
第2回 Off-JT投資額は主要国最低、日本企業は「21世紀の産業革命」をリードできるのか?
第3回 生態系破壊による経済損失は世界GDP過半の44兆ドル、影響が甚大な8業種とは?
■第4回 アパレルブランド「パタゴニア」も注目する「リジェネラティブ農業」とは?(本稿)
■第5回 雇用は700万人の純増、サーキュラーエコノミー化による業種・産業への影響とは?(10月8日公開)
■第6回 経済損失は年12兆円、大企業や行政は「2025年の崖」問題にどう対処すべきか?(10月15日公開)

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注目を集める「リジェネラティブ農業」

データでわかる2030年 雇用の未来』(日経BP 日本経済新聞出版)

 そして、「リジェネラティブ農業(環境再生型農業)」と呼ばれる農法も、最近注目を集めている。リジェネラティブ農業に関しては、サステナビリティ重視で知られるアパレル・ブランド「パタゴニア」が2017年に「リジェネラティブ・オーガニック認証」を創設したことで知られるようになった。

 リジェネラティブ農業の国際的な定義も確立されているわけではない。ちなみに、国連食糧農業機関(FAO)は、農地の生態系サービスを向上することに重点を置き、土壌の再生やミクロレベルでの水循環などを実践する農法のことを、幅広く「リジェネラティブ農業」と呼んでいる10

 保全型農法や有機農法、リジェネラティブ農業が、自然の力を促進することで持続可能な農業を実現しようとしているのに対し、農薬や化学肥料を使い続けながらも、過剰に使用している分量を抑制し、使用用途を最適化することで、生態系の破壊を抑制しようと試みる農法も登場している。これが「精密農業(プレシジョン農業)」だ。

 精密農業では、圃場に様々なセンサーや観察設備を用いる。具体的には、天候などの外部環境状態を測定するフィールドセンサーや、土壌の栄養素等を測る土壌センサー、農地の状態を宇宙から観測する人工衛星画像処理技術、地上で観測するドローンなどのリモートセンシング技術などを活用していく。また収集したデータを総合的に演算し、最適解を導き出すために、AIも同時に用いることが多い。

 センサーではなく、人の五感で、土壌の状態を測定する技術もある。例えば、圃場に水を撒きすぎているという実態に着目し、手の感覚で土壌の水分量を推察する「触診」という技術を追求している農家もいる。この農家では、実際に水の使用量を減らしながら、収量を上げることに成功している11

10 Food and Agriculture Organization「Regenerative Agriculture: good practices for small scale agricultural producers」

11 果実堂 「果実堂の社員の一日」https://www.kajitsudo.com/careers/oneday/