植物工場には課題が多い

 ここまで紹介した農法が圃場での生態系破壊を最小化するアプローチを採っているのに対し、自然界から圃場を人工的に隔離し、自然界への影響をシャットアウトするアプローチを採るのが「植物工場」だ。

 植物工場は、人工的な屋内空間で作物を栽培し、空間を効率的に利用するため、高さのある施設に作物栽培用の装置を垂直方向に並べる。そのため、「垂直農法」とも呼ばれている。

 垂直農法は、土壌を使わず、リン、窒素、カリウムなどの養分の入った液体肥料と水だけで作物を栽培する「水耕栽培」を採用していることが多い。水耕栽培はもともと19世紀にドイツの化学者が発明した手法で、日本には米軍が戦後に駐留したときに東京都調布市と滋賀県大津市に持ち込まれ、初の植物工場が誕生した。

 そして、2009年に農林水産省と経済産業省がそれぞれ垂直農法に対する支援事業を開始し、日本でも各地でプロジェクトが組成されていった。

 垂直農法は、外界の気温上昇や異常気象の影響を遮断できるという利点がある。一方で、人工的な隔離空間を作り出すために、通常の農法よりも多くの電力エネルギーを消費する。

 仮に現在世界中で営まれている農業を、全て垂直農法に転換したとすると、発電した電気を全て投入しても足らないという見解もある。垂直農法の普及があまり進んでいない背景には、エネルギーコストが膨大で、収支が成り立たないという経済的な課題がある。

 また、垂直農法に不可欠な液体肥料の生産工程や、垂直農法から発生する廃水や廃棄物の処理工程までを含め、全体でネイチャーポジティブにすることができなければ、垂直農法をネイチャーポジティブな農法だとみなすことはできない。