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 格差や分断、気候変動、環境破壊、人口減少…。さまざまな問題が山積する中、「サステナビリティ=人類社会の存続」の実現に向け、エネルギー革命やサーキュラーエコノミー、AIの活用など「新たな産業革命」の兆しが見え始めている。その大波が産業や雇用、社会や教育のあり方を激変させることは間違いない。本連載では、『データでわかる2030年 雇用の未来』(夫馬賢治著/日経BP 日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。データをもとに将来の社会を展望しつつ、来たるべき変化にどう備えるべきかを考える。

 第3回は、生態系破壊を放置した場合の経済的打撃について解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 各国政府や企業も注目する課題解決のための概念、「ウェディングケーキ・モデル」とは?
第2回 Off-JT投資額は主要国最低、日本企業は「21世紀の産業革命」をリードできるのか?
■第3回 生態系破壊による経済損失は世界GDP過半の44兆ドル、影響が甚大な8業種とは?(本稿)
第4回 アパレルブランド「パタゴニア」も注目する「リジェネラティブ農業」とは?
第5回 雇用は700万人の純増、サーキュラーエコノミー化による業種・産業への影響とは?
第6回 経済損失は年12兆円、大企業や行政は「2025年の崖」問題にどう対処すべきか?

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生態系を守るために保護区を設けるという方針

データでわかる2030年 雇用の未来』(日経BP 日本経済新聞出版)

 今日、5つの直接的要因に対処し、生態系サービスを健全な状態にまで再生させることを「ネイチャーポジティブ」と呼ぶ。そして、2022年12月に国連生物多様性条約第15回締約国会議(CBD COP15)で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」では、ネイチャーポジティブを30年までに実現することが人間社会のゴールとして掲げられた。

 昆明・モントリオール生物多様性枠組には、各国政府の領土と管轄水域(内水を含む領海と排他的経済水域)の面積のうち各々30%以上を2030年までに保護区もしくはOECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)にするという目標も盛り込まれている。つまり、生態系を保全・再生する場所を確保し、その地域での生態系を保全、できれば再生するということだ。

「保護区やOECMでは、経済活動を行ってはいけない」ということではないが、大規模な不動産開発やインフラ開発などは制限される。特に、熱帯雨林や泥炭地のような生態系が豊富な土地を自然の状態のまま維持することがネイチャーポジティブを実現するためには必要になる。

 これまで熱帯雨林や泥炭地は、生態系が豊富であり、農林水産業を営むうえで最も効率的な場所だからこそ、破壊の対象になってきた。この状況を反転させ、熱帯雨林や泥炭地を保護していくということは、農林水産業を実施する面積を今後拡大しない、さらには縮小していくということになる。

 日本の保護区とOECMの面積は、2021年時点で、領土で20.5%、管轄水域で13.3%だ。そのため、昆明・モントリオール生物多様性枠組で決まった30年までに30%を保護区にする目標(これを「30×30」という)を達成するためには、さらに領土で約10%、管轄水域で約17%を、保護区もしくはOECMにしていくということになる。実際に日本政府は、生物多様性基本法に基づき、「30×30」の目標を含めた「生物多様性国家戦略2023-2030」を23年に閣議決定済みだ。

 だが、ネイチャーポジティブを実現するためには、「30×30」だけでは全く足りない。どれだけ各国の面積の30%を保護区やOECMにしたとしても、それ以外の陸地や水域で生態系の破壊が続いていけば、ネイチャーポジティブは実現できない。