写真:Japan Innovation Review編集部
10年後に勝ち残るEC戦略』(プチ・レトル)

 BtoCはもちろん、BtoBにおいてもEC(電子商取引)が当たり前となり、流通や小売を介さない「DtoC(Direct to Consumer)」メーカーの台頭も著しい現在。もはや「EC化」なくして将来を展望することはできない。

 一方で、会社の仕組みや商習慣、企業文化といった要因により、EC化できていない企業もいまだに多数存在する。本連載では、元アマゾンジャパン創業メンバーの林部健二氏が現実的な視点からEC構築のポイントを説いた『10年後に勝ち残るEC戦略』(林部健二著/プチ・レトル発行)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第1回は、「商品」とデジタルを掛け合わせることの重要性を解説する。

<連載ラインアップ>
■第1回 『SPY×FAMILY』が大ヒット、集英社の電子コミックサービス「少年ジャンプ+」は、なぜ人気なのか?(本稿)
第2回 クラリオン、日立マクセル…日立製作所はなぜ黒字の優良企業・事業を売却したのか?
第3回 メルカリはなぜ「アマゾン一強時代」に終止符を打つことができたのか?
第4回 BtoBのEC市場で、イオンなどの大企業が導入している「EDI取引」とは?
第5回 なんとなくオンライン販売を開始、そこそこ成功した企業がよくぶつかってしまう「課題」とは?
第6回 1億円かかるECのシステム開発…予算はどこから・どう捻出すべきか?

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真の勝ち組はアマゾンではない?

 書籍、漫画、雑誌などの出版物は、もともと書店に足を運んで、実際に商品を手に取って買うものでしたが、2000年代後半ごろからのアマゾンの台頭により、インターネット経由で購入する機会が増えました。そしてついに2023年、インターネット経由での出版物の購入額が、リアル書店経由での購入額を上回ったのです。

 2022年度の出版物購買額を見てみると、リアル書店経由が9440億円、インターネット経由が9542億円。割合でいうと50.3%がインターネット経由の購買額で、わずかではありますがリアル書店の購買額を超えました。出版物は、リアル書店よりもネットで売れる時代に突入したのです。

 ちなみに、インターネット経由に含まれているのは、ネットで購入された紙の出版物とデジタル出版物(電子書籍、電子コミック、電子雑誌など)です。

「ネットで購入」「電子書籍」などと聞くと、真っ先に頭に浮かぶのはアマゾンでしょう。「アマゾンは儲かっているんだろう」「やっぱりアマゾンは凄いな」と感じる人が多いかと思います。

 確かに、「ネットで本を買う」という現在の流れを作ったのはアマゾンです。また、電子書籍サービスKindleと、端末上で電子書籍購入と読書の両方を行えるKindle端末を販売することで、「電子書籍を買って読む」という文化を推し進めたのもアマゾンの力が大きいでしょう。

 しかし、近年の、特にデジタル出版物の伸びについては、アマゾンだけが努力をして儲かっているわけではなさそうです。

 先ほどのグラフを見てわかるとおり、2007年度から2019年度は、出版物購買額は年々落ちていく状態でした。長らく「出版不況」といわれていたとおりです。

 しかし、2020年度を境に右肩上がりの伸びを見せています。2020年といえば、コロナ禍の巣ごもり需要で本を読む人や勉強をする人が増えたり、ステイホームを利用して漫画を一気読みする人が増えたりする傾向がありました。

 こうした時代の影響もありますが、出版社がアマゾンに頼るのではなく、出版社自身が本気でデジタル領域に力を入れて取り組み、成功していることが「脱・出版不況」を導いたといえます。実際、大手出版社ではデジタル領域の売上の伸びが顕著であり、2020年を境に会社としての利益も急増しました(下のグラフでは、例として集英社を取り上げていますが、大手出版社はどこも似たような傾向にあります)。

 出版社のデジタル領域には、紙の書籍やコミックの電子化、電子コミックサービス、自社のオンラインストアでの販売などがあります。