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 BtoCはもちろん、BtoBにおいてもEC(電子商取引)が当たり前となり、流通や小売を介さない「DtoC(Direct to Consumer)」メーカーの台頭も著しい現在。もはや「EC化」なくして将来を展望することはできない。一方で、会社の仕組みや商習慣、企業文化といった要因により、EC化できていない企業もいまだに多数存在する。本連載では、元アマゾンジャパン創業メンバーの林部健二氏が現実的な視点からEC構築のポイントを説いた『10年後に勝ち残るEC戦略』(林部健二著/プチ・レトル発行)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第3回は、スマホの普及がEC市場をどう変えたかを、メルカリを例に解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 『SPY×FAMILY』が大ヒット、集英社の電子コミックサービス「少年ジャンプ+」は、なぜ人気なのか?
第2回 クラリオン、日立マクセル…日立製作所はなぜ黒字の優良企業・事業を売却したのか?
■第3回 メルカリはなぜ「アマゾン一強時代」に終止符を打つことができたのか?(本稿)
第4回 BtoBのEC市場で、イオンなどの大企業が導入している「EDI取引」とは?
第5回 なんとなくオンライン販売を開始、そこそこ成功した企業がよくぶつかってしまう「課題」とは?
第6回 1億円かかるECのシステム開発…予算はどこから・どう捻出すべきか?

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■ パソコンからスマホへ、検索エンジンからアプリへ

10年後に勝ち残るEC戦略』(プチ・レトル)

 1つは、パソコンからスマートフォンへとデバイスが変化したことです。

 アマゾンが誕生したころは、パソコンがインターネットを利用する主な手段でした。しかし、2007年にアメリカでiPhoneが誕生してから、スマホの所有率はもの凄い勢いで上がっていきました。

 総務省情報通信政策研究所のデータによれば、10代~60代の全世代におけるスマートフォン利用率は、2013年には52.8%だったのが、2022年には97.1%に上っています。

 このような急激なスマホの普及に伴い、スマホに特化したサービスを作る会社が出てきました。代表的なのは、フリマアプリの「メルカリ」です。

 オークションサイトは1995年にアメリカで「eBay」が、1999年に日本国内で「Yahoo! オークション」が開始しており、数年で一気に普及しました。手数料が収益の中心である点は、メルカリもこれらのオークションサイトも同様です。

 しかし、メルカリが他と違ったのは「売買がスマホだけで完結し、利用のハードルが低い」ということでした。従来のオークションサイトは「パソコンでの利用」が前提となっていましたが、メルカリはサービス当初から「スマホで楽にできる」ことを強くアピールしていたのです。

 スマホで商品の写真を撮り、アプリ上で商品説明を簡単に入力するだけで、数分もあれば商品を販売することができます。女性や若年層などスマホしか持っていない(パソコンを持っていない)層もターゲットに取り込むことに成功しました。

 設立からわずか3年で2016年に初めて黒字化し、2017年12月には世界累計1億ダウンロードを突破。このころには、日本初のユニコーン企業としても注目されていました。2018年に上場後も続々とサービスを展開していき、商品をコンビニで発送できるようにしたり、決済の代行や、保管から発送までの代行を始めるなど、利用者のニーズに合わせてどんどん進化しています。

 このように、スマホの普及によって新たに「アプリ」が大きな力を持ち始めたのです。

 スマホアプリの台頭は、アマゾン一強時代に終止符を打つことになりました。1995年にアメリカでアマゾンがサービスを開始し、2000年には日本語サイトがオープン。このころ、アマゾンの主戦場はパソコンでした。

 アマゾンは当時、最先端のテクノロジー、徹底的にロジカルを追求した経営手腕、物流への巨額な投資を持って、誰も追いつくことのできないスピード感でサービスを展開し、世界の王者へと一気に上り詰めました。

 アマゾン全盛期には、いくら日本企業が足掻いてもアマゾンに太刀打ちすることは、ほぼ不可能でした。わたしは前著『なぜアマゾンは「今日中」にモノが届くのか』で「アマゾンと日本企業は大学生と小学生くらい違う」という表現をしているのですが、それほどまでに当時は土俵が違うと感じていました。