Rawpixel.com - stock.adobe.com

 BtoCはもちろん、BtoBにおいてもEC(電子商取引)が当たり前となり、流通や小売を介さない「DtoC(Direct to Consumer)」メーカーの台頭も著しい現在。もはや「EC化」なくして将来を展望することはできない。一方で、会社の仕組みや商習慣、企業文化といった要因により、EC化できていない企業もいまだに多数存在する。本連載では、元アマゾンジャパン創業メンバーの林部健二氏が現実的な視点からEC構築のポイントを説いた『10年後に勝ち残るEC戦略』(林部健二著/プチ・レトル発行)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第6回は、EC構築に関わる予算の問題をどうクリアすべきかについて解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 『SPY×FAMILY』が大ヒット、集英社の電子コミックサービス「少年ジャンプ+」は、なぜ人気なのか?
第2回 クラリオン、日立マクセル…日立製作所はなぜ黒字の優良企業・事業を売却したのか?
第3回 メルカリはなぜ「アマゾン一強時代」に終止符を打つことができたのか?
第4回 BtoBのEC市場で、イオンなどの大企業が導入している「EDI取引」とは?
第5回 なんとなくオンライン販売を開始、そこそこ成功した企業がよくぶつかってしまう「課題」とは?
■第6回 1億円かかるECのシステム開発…予算はどこから・どう捻出すべきか?(本稿)


<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
会員登録(無料)はこちらから

システム開発の予算はどこから捻出すべきか

10年後に勝ち残るEC戦略』(プチ・レトル)

 では、ECのシステム開発に1億円を投資するとなったとき、その予算はどこから捻出すべきでしょうか。ここでは、「プロジェクト予算」と「事業予算」の2つの方法を考えてみましょう。

「プロジェクト予算」は、ある特定の目標を達成することに焦点を当てた予算です。新しいECサイトを立ち上げるプロジェクトであれば、サイト設計から開発、テスト、そしてローンチまでに必要なすべての費用を計算したものがプロジェクト予算です。この予算は、プロジェクトの開始から完了までの期間にわたって適用され、その期間は数ヶ月から数年に及ぶことがあります。

 一方「事業予算」は、会社全体や特定の部門が日々の運営で必要とする費用と収益の見積りです。これは、給料や事務用品、電気代などの日常的な経費を含みます。事業予算は毎会計年度に作成され、会社の全体的な経済活動を管理するために使われます。

 ECシステム開発のようなプロジェクトであれば、「プロジェクト予算」を使うのが理想的です。

 ECシステム開発は、売上や利益を増やすことを目的としているわけですから、プロジェクトそれ自体で費用を回収し、さらに利益を出す必要があります。このように、明確な結果を出すことが期待されているときには、プロジェクト予算のほうが相性がよいのです。なぜなら、目標達成に必要なリソースや期間を明確に管理することができるからです。

 プロジェクト予算の場合は、予算を組む段階で、プロジェクトの目標を達成するために必要な人材、技術、設備、サービスなどを特定し、それらに対する予算を割り当てます。ある意味「なんとなく」で予算を組めないので大変ですが、これによりプロジェクトをスムーズに進行させるために必要なリソースを確保することができます。

 また、プロジェクトの開始から完了までの期間が設定されることにも意味があります。プロジェクトチームはスケジュールに沿って作業を進め、時間内に目標を達成することに注力するようになるからです。

 コスト管理がしやすい、というのもメリットでしょう。プロジェクトに関わるチームやそのリーダーは、各活動やリソースのコストを見積もり、それらが全体の予算を超えないように管理することで、予算内でプロジェクトを完了させる意識が高まります。

 プロジェクト予算を通じて右記のような事柄を明確に管理することで、目標達成のための道筋をはっきりとさせ、計画に沿ってプロジェクトを効率的に進めることができるのです。