BtoCはもちろん、BtoBにおいてもEC(電子商取引)が当たり前となり、流通や小売を介さない「DtoC(Direct to Consumer)」メーカーの台頭も著しい現在。もはや「EC化」なくして将来を展望することはできない。一方で、会社の仕組みや商習慣、企業文化といった要因により、EC化できていない企業もいまだに多数存在する。本連載では、元アマゾンジャパン創業メンバーの林部健二氏が現実的な視点からEC構築のポイントを説いた『10年後に勝ち残るEC戦略』(林部健二著/プチ・レトル発行)から、内容の一部を抜粋・再編集。
第2回は、EC構築になぜトップダウンの意思決定が不可欠なのかを解説する。
<連載ラインアップ>
■第1回 『SPY×FAMILY』が大ヒット、集英社の電子コミックサービス「少年ジャンプ+」は、なぜ人気なのか?
■第2回 クラリオン、日立マクセル…日立製作所はなぜ黒字の優良企業・事業を売却したのか?(本稿)
■第3回 メルカリはなぜ「アマゾン一強時代」に終止符を打つことができたのか?
■第4回 BtoBのEC市場で、イオンなどの大企業が導入している「EDI取引」とは?
■第5回 なんとなくオンライン販売を開始、そこそこ成功した企業がよくぶつかってしまう「課題」とは?
■第6回 1億円かかるECのシステム開発…予算はどこから・どう捻出すべきか?
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日立にみるトップダウンの重要性
そうはいっても、うちにはナイキのようにテクノロジーに強いCEOなんていないし、外部から引き抜くのだって簡単じゃない、と思われるかもしれません。しかし、会社のトップが決断し、変わらない限りデジタル化・EC化は進みません。
ここ数十年、人件費を削って利益を上げることを求められてきた企業では、すでにリソースに余裕がない状態です。そのため、働く人たちの心の奥には、不満があっても「我慢すればいい」「何かを変える必要はない」「リスクを取りたくない」といったネガティブな感情が、常に薄っすらと存在しているのを感じます。そのような状況では、既存事業以外の新しいことに挑戦するチャレンジ精神はなかなか育たないでしょう。
つまり、ボトムアップでの企業改革は期待できません。こういうときこそ、トップの強いリーダーシップが必要になります。「既存業務で手一杯」「新規プロジェクトに人員を割く余裕がない」「予算がない」といった課題は、現場だけではどうすることもできません。経営者がデジタル化・EC化に対して予算と人材のリソースを割く覚悟を持って、最後まで進める必要があるのです。
先ほどのナイキの例は、日本の文化とは異なる外資の企業だから、あのような思い切った改革が実行できるのだと思う人もいるかもしれません。しかし、そんなことはありません。
日本においても、トップダウンで社内の変革に踏み切っていった企業はあります。その1つが日立製作所です。
日立といえば、2009年に7873億円もの巨額の最終赤字に陥り、「沈む巨艦」ともいわれました。しかし、そこから抜本的な経営改革・構造改革を断行して業績を回復してきました。
日立の改革の凄さの1つに、巨額買収をくり返しながら、数多くの子会社・事業を売却していることがあげられます。
買収の代表例には、次のような事業があります。いずれも買収額2000億円~最大1兆円の巨額な買収です。
- ABBの電力網事業(7500億円)
- 日立ハイテク(5300億円)
- グローバルロジック(1兆円)
- タレスの鉄道信号事業(2150億円)