キリンビールやキリンビバレッジ在籍時に“凄腕マーケター”として知られた佐藤章氏が、湖池屋社長に就任したのは2016年のこと。就任早々から大変革に着手し、社名や企業ロゴ、商品を矢継ぎ早に大刷新、低迷していた同社を見事に再生させている。佐藤氏が考える商品戦略やマーケティングの要諦、湖池屋が目指す未来像とはどんなものなのか、じっくりと話を聞いた。
<ラインナップ>
【前編】湖池屋を再生させた凄腕マーケター、佐藤章社長が挑む「ポテトチップス革命」(本稿)
【後編】沈滞する湖池屋を「イノベーションを生み出す組織」に変貌させた社長の手腕
- 富士通・時田社長が力を込めて語る、矢継ぎ早に変革に取り組む“本当の意味”
- 目指すは「バッテリー一本足打法」からの脱却、TDK齋藤社長が語る“未財務資本”に根差した変革の道筋
- 「未知の魅力的なものを世の中に伝えたい」 J.フロント リテイリング最年少社長が描く“価値共創リテーラー”の真髄
- J.フロント リテイリングの歴代最年少社長、小野圭一氏が見てきた百貨店業界の浮き沈みと一大転機
- 湖池屋を再生させた凄腕マーケター、佐藤章社長が挑む「ポテトチップス革命」
- 店内で調理する「ふわふわ卵のカツ丼」が人気のセイコーマート 商品開発のモットーは「お客の声を聞かない」
- 道内シェアトップ、8年連続コンビニ顧客満足度1位…本州で寡占市場つくる競合に負けないセコマの独自戦略とは
- サントリー食品の小野真紀子社長が語る、新たに定めた企業DNAに「Seikatsusha」(生活者)の文字を入れ込んだ理由
- 女性リーダーの登用を進めるサントリー食品インターナショナル、小野真紀子社長が海外事業で学んだ「チーム力」
- 「先々のライバルは既存の銀行ではなくなる」auじぶん銀行・田中健二社長が見据えるネット専業銀行の勝ち残り戦略
- グループ売上高の3割に急成長、太陽HD・佐藤英志社長が振り返る「医療・医薬品事業」参入の裏側
- タニタが6年前に始めた社員のフリーランス化「日本活性化プロジェクト」の今
- 三井住友銀行・福留頭取が約16年の海外駐在で実感した「現場主義」の大切さ
- レンタルからリユース事業への転換で成長、ゲオホールディングス遠藤結蔵社長が語る「先見力」の源泉
- 「人づくりこそ最大のミッション」カルチュア・コンビニエンス・クラブ社長が描く“知的資本カンパニー”実現の秘策
- 新生Vポイント、旗艦店リニューアル…新プロジェクトを次々に仕掛けるカルチュア・コンビニエンス・クラブの狙い
- メーカー販売員を置かずに社員が対応、コスト増の店舗運営でもノジマが業績を伸ばせる理由
- 渋谷再開発のゴールは?東急が取り組む「イノベーティブなまちづくり」の仕掛け
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「オタクがセンターを張る時代」を確信してリスタート
――2017年に発売した「湖池屋プライドポテト」を皮切りにヒット商品が続々と生まれ、業績も好調です。
佐藤章氏(以下敬称略) 昨年(2023年)は「湖池屋ポテトチップス のり塩」を発売して60年が経ち、会社も創業70年という節目でした。そこで、3月に「湖池屋ポテトチップス」を大幅リニューアルし、9月には「じゃがいも心地」のブランド名を「ピュアポテト」に変更しました。それ以外の「スコーン」や「カラムーチョ」といった定番商品もすでにリニューアルしています。
おかげさまで、いずれの商品も販売は好調です。今年は湖池屋を復活させる起点になった「プライドポテト」もリニューアル発売する予定です。
――佐藤さんが湖池屋に移籍するまでポテトチップス市場はカルビーが圧倒的なシェアを持ち、湖池屋の存在感は正直に言って希薄でした。
佐藤 かつて、ポテトチップスが1袋150円で売られていたところに競合他社が100円で参入し、我々はあっという間にシェアを奪われていったわけです。しかしながら、湖池屋のポテトチップスの「のり塩の味が好きなんだ」とか「あの堅さがいいんだ」など、こだわりを持って食べてくださるファンの方もしっかり残ってくださっていました。
ですから競合他社と同じような低価格ゾーンでは戦わず、支持していただいている方々向けに、より付加価値をつけた商品をご提供する方向に徹底的に振り切る戦略に変えています。換言すれば、ポテトチップスの味や食感にとことんこだわる方々、いわば“オタクがセンターを張る時代”という考え方を基にリスタートしたわけです。それが「プライドポテト」の商品化にもつながりました。
たとえば、AIなど最先端技術が進化する時代になればなるほど、オタク気質と言いますか、人間味要素も必要になってくることを、湖池屋ファンのみならず、みんなが潜在的に感じているのではないでしょうか。その点、我々は人間味というような情緒価値を前面に出していくことは得意ですし、そこを疎かにしてはならないと、事あるごとに社内で説いてきました。
また、SNSの浸透によって消費者をマスや平均値で見ず、お客さま一人一人にどうカスタマイズした商品を出していけるかが勝負の時代であり、これもある種、オタクに向けたマーケティングといえます。そこに湖池屋が仕掛ける戦略や商品がフィットし、お客さまが求める価値に同期できたことでヒット商品が続いているのだと思います。
よくLTV(生涯顧客価値)という言葉を聞きますが、熱心なファンを長く大事にしていくという我々のスタンスが、メガヒットが出にくい多様化の時代とうまくシンクロしたような気がします。