長年、体重計や体組成計などを開発・販売してきたタニタは、2010年代以降ヘルシーメニューを提供する「タニタ食堂」や「タニタカフェ」を展開し、総合健康企業へと変貌を遂げている。「健康をはかる」ことから「健康をつくる」ことへと事業を拡大させてきた同社の今後の展望や、会社員とフリーランスのいいとこ取りを目指したという働き方改革の成果について谷田千里社長に聞いた。
体重計メーカーから「総合健康企業」になった契機
――総合健康企業を標榜されていますが、どんなことがきっかけだったのでしょうか。
谷田千里氏(以下敬称略) もともとの出発点は、私が社長に就任した2008年にタニタが赤字に陥っていたことです。その赤字を止めるべくいろいろ試行錯誤していた中で、大きなターニングポイントになったのが、2009年3月、NHKの『サラリーマンNEO』という番組で当社の社員食堂を取り上げていただいたことでした。
同じく2009年には社員向けに「タニタ健康プログラム」の提供も開始しました。これは、「はかる→わかる→きづく→かわる」という健康づくりのPDCAサイクルを実践するためのソリューション機能です。
実は社長就任時、子会社で健康計測機器と健康データサービスをコンシューマー向けに提供していたのですが、赤字続きでした。機器が使いにくいと社内から不満が上がっていたため、全社員に商品を配り、自分たちで使ってみたことが始まりです。その結果、このプログラムによって社員の医療費削減に効果があったことから、2014年以降は自治体や外部企業にも提供を開始しました。
さらに2010年、『体脂肪計タニタの社員食堂』(大和書房)という本が大ヒットしたことで、「タニタの社員食堂で食べてみたい」という電話が当社に殺到しました。「社員向けなので一般の方はご利用いただけない」とお断りする日々でしたが、あまりの反響の大きさから、どなたでもご利用いただけるタニタの食堂を出そうと考え、2012年に東京・丸の内にタニタ食堂を出店したのです。
――タニタでは「Healthy Habits(健康習慣)for Happiness」とスローガンを英語で掲げているくらいですから、タニタ食堂もグローバル展開を考えていくのでしょうか。
谷田 現在、タニタ食堂は国内で24店(直営、FC、メニュー提供店を含む)出店していますが、もちろん海外展開も検討していきます。
ただ、タニタ食堂の献立はヘルシーさと味を両立させるためもともと原価が非常に高く、しかも、こうした健康的な日本食は調理にも微妙な繊細さが求められるため、意外とハードルが高いのがネックです。そういう意味では2018年から出店を開始した、野菜を摂れるスムージーやフードメニューなどもある「タニタカフェ」(27店/直営店・FC・コラボ店を含む)のほうが海外では展開しやすいかもしれません。
コロナ禍だったこの3年は体温計の売れ行きが非常に良く、アルコール検知器の引き合いも高かったのですが、それもだいぶ落ち着いてきましたので、ようやく本格的に海外に目を向けていくステージの入り口までは来たかなと考えています。
──国内では少子高齢化が進んでいるため、高齢者向けの食事メニューのニーズがますます高まっていくと思います。
谷田 いま、高齢者でも咀嚼しやすい、あるいは誤嚥しにくい柔らかい食べ物の提供へ、食品メーカーが総じてシフトしていますし、冷凍食品などもしかりです。
しかし、高齢者にもできるだけきちんと噛んで食事を召し上がっていただきたいですし、冷凍食品のセットメニューなどを揃えてしまうと、自分でご飯を炊き、おかずも作る自炊生活を怠ってしまいます。自炊することは頭を使いますし認知症予防にもなりますので、日常の生活機能を衰えさせてしまうことにつながるような商品の開発は今のところ考えていません。スローガンのHealthy Habits for Happinessに照らしても、長い目で見てお客さまの幸福にはつながらないと考えるからです。