2023年3月期決算で前期比10.8%増となる6262億円の売上高を達成、2024年3月期には売上7600億円を記録したノジマ。家電専門店 「ノジマ」や携帯キャリアショップ、インターネット事業の展開に加え、最近では金融事業会社など業界の垣根を越えたM&Aにより業績を伸ばしている。メーカー派遣の販売員を置かないノジマの店舗運営方法、人材活用術から、M&A戦略、DXへの取り組みまで、ノジマグループの成長シナリオを野島廣司社長に聞いた。
マニュアルだけの作業からイノベーションは生まれない
――「ノジマ」のキャッチフレーズは「メーカー販売員のいない唯一の家電専門店」ですね。自社の販売員のみで接客対応する「コンサルティングセールス」の狙いはどこにありますか。
野島廣司氏(以下敬称略)当社も90年代頃まではメーカーから販売員を派遣してもらっていました。ただ、2000年代に入りそれはやめました。なぜなら、メーカーの販売員は当然ながら「洗濯機が欲しい」というお客さまに対して、他社の商品よりも自社の商品を薦めます。それが本当にお客さまにとって一番適した商品なら良いのですが、時には売れ残っている商品を本社から「さばけ」と指示されたので熱心に売るということもあります。それでは本当にお客さまに喜ばれることはないと考えて、メーカー販売員を置くことはやめました。
ノジマの販売スタイルはお客さまの立場になっての「コンサルティングセールス」です。洗濯機を探しているお客さまであれば、家族構成や家の間取りなどを伺いながら、複数の選択肢を提示します。それぞれの商品の良い点や悪い点なども包み隠さず伝えた上でお選びいただくのです。また、1人の販売員が洗濯機だけでなく、冷蔵庫、エアコン、テレビ、電子レンジ、さらにはパソコンやインターネットまで幅広い知識を持っています。このため、「次に買うときもまた〇〇さんにお願いしたい」とお客さまから指名される販売員が何人もいます。お客さまの親子2代、3代にわたって指名されている従業員もいます。
――ノジマにはマニュアルがなく、ノルマもないと聞きました。それでも従業員が高いモチベーションを保ち、成果を出している理由はどこにあるのでしょうか。
野島 「メーカー販売員のいない唯一の家電専門店」ということは、自社の販売員で対応するということです。つまり、人件費もかかります。一方で、従業員にとっては、自分たちの働きが業績に直結するということが、ひしひしと感じられるわけです。また、ノジマグループでは、短期的に業績が悪くなったからといって安易に人を切ったりしませんので、雇用が維持されるという安心感もあります。
マニュアルやノルマがないのは従業員に自発的に考え、行動してほしいと考えているからです。私は、マニュアルやノルマは、上司から部下への「命令書」だと思っています。「この紙に書いてある通りにやれ」というのがマニュアルです。どうしても「やらされ感」が大きくなりますし、できないときの言い訳もしがちです。そうなると、従業員が腹落ちして行動できません。
当社の人事ポリシーは「NOJIMA」すなわち、「N(№1:何でもナンバーワンであること)」、「O(Open:オープンなコミュニケーション)」、「J(Joy:仕事を喜びの種に)」、「I(Innovation:組織や仕事を革新創造)」、「M(Management:経営意識をもって育成)」、「A(Achievement:努力して成し遂げる)」です。この人事ポリシーは当社の人事評価に対する基本的な考え方でもあります。マニュアルに書いてあることを繰り返すだけではイノベーションは起きません。
――従業員の定着率も高いそうですね。シニアワーカーの方も活躍されています。
野島 従業員の定着率は年々良くなっています。ずっと勤めたいという従業員も増えていて、現在は80代の従業員が3人います。いずれも「働きたい」と言っていただいたので、「ぜひお願いしたい」と答えました。雇用の年齢制限を撤廃するなど人事制度も改めました。当社には「この仕事が好きです。ずっと続けたいです」と話す従業員が多いのです。
ただそこで難しいのは、「管理職にはなりたくない。ずっと店頭で販売をやりたい」と答える従業員もいることです。私たちとしては、できれば店長など、もっと責任ある仕事にも挑戦してほしいと思うのですが、本人が「自分は販売に向いている」と答えるのです。
私の経験からいうと、そのように「自分は販売に向いている」という従業員でも、仕入れをやってもらったり物流をやってもらったりするとバリバリ活躍する従業員も多くいます。本人すら気付いていないような適性を見つけ、配属してやるのも管理職や経営者の役割だと思っています。