昨今、DXを重要事項として取り組む企業が急増している。グローバル社会で生き残るためには、旧来の会社組織ではなく、組織そのものの変革が求められることが背景にある。出光興産のCDOとして、大規模なDX推進を先導する三枝幸夫氏と、企業向けアイデンティティ管理プラットフォームを提供するSailPointテクノロジーズジャパンの藤本寛社長が、DX推進に欠かせない基盤とは何か、対談を行った。
DXで変革をカタチに──出光興産が目指す先
藤本:出光興産さまでは、三枝さんを中心にDX推進組織を作り、実際に進展されていることが業界で話題になっていますね。出光興産さまというと、どうしても石油会社のイメージが強いと思うのですが。
三枝:当社は1911年に北九州の門司で出光商会としてスタートしました。映画にもなった小説『海賊とよばれた男』のモデルになった、イノベーティブでアグレッシブな精神を脈々と受け継いでいると自負しています。昭和シェル石油との経営統合(2019年)を契機に、将来の脱炭素社会に向けて業態転換を本格的にやっていくことになり、DXを推進するデジタル変革室が設けられました(2020年)。今後どのエネルギーが主力になるのか、まだ誰も分かりません。「化石燃料がなくなるから電気、水素」という単純なものではなく、色んなトライアルや実証を経て事業を変える必要があります。この複雑なプロセスを進めるためにデジタルは不可欠です。あらゆるチャレンジをして、うまくいけば伸ばし、そうでなければ次に切り替える。それが出光興産のDXです。
藤本:なるほど、それは大変興味深いお話ですね。DXに本格的に取り組むには、ビジネスモデル自体を変える必要があると考えています。三枝さんはいかがでしょうか。
三枝:おっしゃる通りです。エネルギーの変更というのは、供給者側が一方的に「皆さん再生可能エネルギーを使ってください」と言うだけでは済みません。マーケット・お客さま一体で将来のエネルギーを考えていくことだと思います。中期経営計画(2022年11月発表)で2050年のビジョン「変革をカタチに」を宣言しています。人々の暮らしを支える責任と、未来の地球環境を守る責任を果たし、変革を進めようということです。
具体的には3つの事業領域にフォーカスします。まず「一歩先のエネルギー」では、カーボンニュートラルに資するエネルギーの安定供給を進めます。2つ目の「多様な省資源、資源循環ソリューション」ではお客さまの事業形態や使い方によって最適なエネルギーミックスを提供し、資源循環に資するソリューション提供を目指します。3つ目の「スマートよろずや」は、最大の顧客接点であるサービスステーション(ガソリンスタンド)のネットワークを地域の暮らしを支えるエネルギーやモビリティのサービス拠点へと変えていきます。
自社にもお客さまにも最適な形にするために、デジタルで事業を繋ぎつつ、顧客接点も維持発展させることが大変重要なのです。
藤本:地域密着、お客さま接点となるガソリンスタンドをお持ちであることは、貴社の強みの1つですね。
ダイナミックなアイデンティティ管理ソリューションが、DX推進の基盤となる
藤本:SailPointテクノロジーズジャパンは、DX推進を支える「アイデンティティ管理」のソリューションを提供しています。新たにデジタルサービスを作ろうとしたときに「そもそも今のIT環境で作れるのか」、サービスをデザインして形にするために「現状のメンバー、組織構造でいいのか、人の育成や組織モデルを変えなければいけないのではないか」といったことにお客さまは悩まれています。その中で我々は、企業がダイナミックに組織構造を変化させるようなプロジェクト型組織でも、専門性をもった人材が活躍できるジョブ型組織にでも適応できるよう、ビジネスの役割とITの利用権限をアイデンティティ(ID)の中に集約して、変化が加速しているIT環境を全社横断で統制をとりながらDXを推進するための基盤となるソリューション(アイデンティティ・セキュリティ)を提供しています。
ID管理の面では、企業は従来、年1回の大規模な組織変更、半年に1回マイナーチェンジがあるくらいの静的なものでしたが、今はだいぶ動的になってきています。
また、今はインターネットというインフラや非常に使いやすいコラボレーションツールがあり、外部企業との連携も盛んです。これまでバッチ型で進めていた処理がプロジェクト型のようなアドホック型になっていて、特に外部企業の人のIDを都度変更しないといけない。かつ使わなければいけないシステムが加速度的に増え、大手企業だと1000単位で存在します。DXを推進するには、さまざまなツール・情報へのアクセスが必要です。一方で必要以上にアクセスを許可すると情報漏洩に繋がる。攻めと守りのバランス、システムや情報へのアクセス権限はかなり複雑化しています。お客さまから「システムを根本的に見直さないといけなくなった」とお声掛けいただくケースが増えています。
このように、DXという大きな流れの中で業務系システムを刷新すると、次はID管理も変えなければいけないということで、私たちはDXを円滑に進めるために必須の基盤作りをお手伝いしています。
三枝:DXで新しいことに挑戦する際は自社だけではケイパビリティが足りないので、多くのパートナー企業、スタートアップあるいは個人の方、時にはお客さまとも一緒に作り上げていくことになります。その際「この属性の人はどこまでアクセスを許可すればいいか」というのが課題です。
データ活用もDXの課題です。データをみんなで有効活用しようとしますが、各部署の機密情報やお客さまとの契約もあるため、全てをオープンにはできません。アクセス権の細かな管理が必要ですが、手作業でやるのは現実的ではありません。自律的、ダイナミックに変えられるソリューションが今後は必須になるでしょう。
SailPointのソリューションがアイデンティティ管理の
業務負荷を大幅低減
藤本:当社のソリューションはクラウド型で、オフィスにサーバーを立てなくてよいという利点があります。我々は「アイデンティティ・ウェアハウス」という考え方で、全てのIDを1カ所に集約統合します。さらに「アイデンティティ・キューブ」という人単位で管理を可能にします。結果、人単位でどのような権限を持っているのか容易にチェックできます。新しいシステムを導入しても、アクセス権設定を自動的に回せ、間接業務の効率化を図れます。AI技術を使って社員Aさんに付与するアクセス権を「Aさんの同僚が持っている/持っていない権限」を基に判断することもできます。これらで中間管理職の業務負荷も下げられるでしょう。
三枝:システムそのもの、事業の形態そのものがダイナミックに変わっていく中で、迷いなくID管理できるのは私たちも助かりますし、お客さまにとってもメリットになりますね。
日本はデジタル後進国だと言われます。例えばECの利用率がアメリカや中国に比べ低いのは「クレジットカード情報をネットに登録するのは怖い」と避ける方が多いという背景があります。デジタル社会は企業とお客さまが一緒につくっていくものです。デジタルが分からない、怖いという方に「デジタルを活用するとこんなに便利な暮らしになる」と知っていただきたく、当社もWebメディア「iX+(イクタス ※)」を通して企業のデジタル化に関する情報を提供しています。
藤本:今後は、会社と顧客、ユーザーの関係性、役割や立場がもっとダイナミックに変わると思います。かつての年に1回アクセス権限を見直し変えればいいバッチ型システムではなく、リアルタイムで「役割が変わったので、この権限が必要/不要」と管理できるプラットフォームが求められます。先ほどのお話の通り、データをどんどん活用しなければいけないけれども、見てはいけないデータもあります。「最小権限の原則」をどう実現するかが難しい。しかし、追求しなければいけません。そんなときに当社のプラットフォームなら、人単位で権限を束ねていますので、より容易に実現できる利点があります。
三枝:DXを進める側が、がんじがらめにされるとスピードが落ちるので、できるだけ多くのデバイスからアクセスしたいし、データもオープンにしていきたい。しかし、それではセキュリティが危ない。利便性と安全性の両立は難しいものですが、それに応えるソリューションができてきたと感じています。
藤本:ビジネスを遂行するために我々はどう支援していくか。やはりDXの推進者にとって、蓄えたデータをどう使うかが本題であり、データにアクセスするために1、2週間も掛けては到底ビジネスは進みません。特にDXはスピードも重要です。一方で、IDを守らないとセキュリティリスクがあります。三枝さんがおっしゃる利便性と安全性の両立のために、ID管理システムを活用いただきたいと思います。
出光興産の今後のビジネス変革に、
SailPointのソリューションがマッチする
三枝:当社は事業ポートフォリオを大きく変えていきます。現在の化石燃料事業をしっかりやりながら、新しく再生可能エネルギーやカーボンニュートラルソリューションを組み合わせてやっていきます。もちろんオペレーションシステム、データに色んな立場・領域の人がアクセスします。どんどん複雑になるID管理に、SailPointさんのソリューションは非常にマッチすると思いました。DXのスピードと精度も上がってくると思いますし、データ活用の幅も広げつつセキュリティも担保できる世界をつくりたいですね。
藤本:個人的に、人がすごく大事だと思っています。DXでサービスを提供する側も、受ける側も、デジタルを介したコミュニケーションがものすごく増えています。そうするとIDはその所有者自身とほぼ同じと認識されるようになるのでは。そうなるとIDをただ「ドアを開ける鍵」と見るのか「デジタル資産」と捉えるのか。サービスを提供する側と受ける側が混然一体となっていく中、IDは新時代の大切なインフラになると思っています。我々がやっていることは、まだ「システムで何ができるか、できないか」というところですが、今後はIDをプールして新しいことができるのではないかと。勤務先のID、一消費者としてのIDがうまくミックスされて何らかの新しいサービスが生まれることもあるのでは。まだ先の話ですが、そういうことを考えてもいます。
三枝:これからデジタル社会に変化する中、デジタル基盤にアクセスするためのID情報はより重要になります。個々のサービスでパスワードを覚える世界は限界が来ています。サービス提供者としては、お客さまがストレスを感じることなく必要なサービスの提供を受けられる世界を作ることが求められていると思います。
藤本:業種を問わずDXというのは、本当の意味で企業を変えることだと思います。我々としては、まず基盤を整える部分でお手伝いし、将来的にはシステムの使い方をより洗練してID情報をビジネスやサービスに活用することまでご支援できればと思っています。本日はありがとうございました。
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