コロナ禍による急速な生活様式の変化が、ロジスティクス、モビリティ両業界に変革を迫っている。なかなか上がらない業務効率や人材不足も深刻化の一途をたどる。一方で、カーボンニュートラル実現に向けた対策が強く求められ始めている。本記事では、富士通の新ソリューションであるFleet Management Optimizationを推進する黒川剛志氏、早川孝一氏に、最新事例を交えながら山積する課題解決の糸口を聞いた。
「変革待ったなし」のロジスティクス、モビリティ業界
ロジスティクス、モビリティ両業界は喫緊の課題に直面している。ロジスティクス業界の課題として、まず業務効率の低さが挙げられる。ECの普及により小口配送が増え、配車担当者やドライバーに負担を掛けているのだ。さらに、長時間労働を背景に慢性的な人材不足が指摘されてきたが、2024年4月には時間外労働の上限規制が適用される、いわゆる「物流業界の2024年問題」も迫っている。
もう1つの大きな課題は、二酸化炭素排出量の削減である。これは、モビリティ業界と共通する課題だ。「2030年度には温室効果ガスの排出量を2013年度比で46%減らす」という政府が掲げた目標の達成に向け、事業者にも相応の努力が求められている。
これらの課題を早急かつ抜本的に解決するため、BtoB、BtoC両分野でのロジスティクスを手がけるA社が富士通のFleet Management Optimizationの導入を進めている。
Fleet Management Optimizationによるロジスティクスの課題解決例
Fleet Management Optimizationは、ロジスティクス、モビリティ両業界の課題を解決するために富士通が提供するサービスである。イスラエルのスタートアップ企業Autofleet社が開発した高精度な配車マッチングプラットフォームをコア技術の1つとしている。Autofleet社の技術を導入した海外のデリバリー企業では、配達時間の15%削減、配車組み時間の40%削減など、めざましい成果を挙げている。
A社に対しては、Fleet Management Optimizationに富士通独自のテクノロジーを付加した提案を実施することで、3つの課題の解決を図っている。
物流事業者A社が抱える3つの課題とは
A社が直面する1つ目の課題は、配送効率の低下である。
「従来、BtoCの荷物量はBtoBに比べて変動が大きく、予測が難しいことが課題でした。それに加え、コロナ禍の影響もあって拡大してきたECの普及が、個人宛て配送の多頻度小口化を加速、再配達の増加による配送効率の低下という新しい課題が生じています」(黒川氏)
荷物の小口化と配送の多頻度化により、ドライバー1人が配達しなくてはならない荷物の数が増えたのにも関わらず、トラック1台あたりの積載率は悪化してしまっている。積載率の低下が配送効率を引き下げている。
2つ目の課題は、複雑化する一方の配車組みだ。
「配車組みは、その日の荷物の状況などを踏まえ、配車センターにいるベテランスタッフが、ホワイトボードやエクセルのシートを使って手動で組んできました。1度組んだら終わりではありません。ラストマイルの配送業務には、追加で入る再配達依頼や配送とは別の集荷などの業務が複雑に絡み合うため、配送が始まってからも何度も配車を組み直す必要があります」(早川氏)
その配車組みにデジタルテクノロジーを導入すれば、ベテランの勘と経験に頼らなくても、低コストで柔軟な配車組みが可能になり、属人性も解消できる。
最後に、3つ目の課題は二酸化炭素排出量の削減である。
前述の通りA社は、政府が掲げる目標を達成し、社会全体の大きな課題解決にも貢献しなくてはならないと考えている。そのために、長年、配送や集荷にガソリンを燃料とする車両を使用してきたが、EVの導入を進めている。しかし、導入にあたっては、航続距離の短さ、充電インフラ不足、充電に要する時間の長さといったリスクが伴う。スムーズなEVへの移行には、リスクを適切に把握しマネジメント体制を整える必要がある。
Fleet Management Optimizationではこれらの3つの課題を、多面的な視点から同時に解決できる。順に紹介しよう。
(1)動的配車エンジンにより配送効率を向上
1つ目の課題である配送効率の低下については、Fleet Management Optimizationの主機能の1つである動的配車エンジンでKPIに配達個数を設定し、積載上限やタイプの異なる車両から最適なものをマッチングし、積載率を増やすことで解消できる。
「ドライバーはスマホアプリを通じて、リアルタイムの交通状況を考慮した最適なルートをハンズフリーで把握したり、置き配の普及で重要度が増した配達完了報告をオンライン化できたりします。こうした支援は、ドライバーの労働環境の改善や、ドライバーの先にいるお客さまの満足度向上にもつながります」(黒川氏)
(2)Fleet Management Optimizationは複雑な配車組み、業務の属人性解消にも対応
2つ目の課題である複雑な配車組みに対しても、Fleet Management Optimizationは威力を発揮する。
配車担当の業務は、まず、事前配車計画エンジンの利用によって向上が期待される。天候やイベントの開催など、配送業務にはさまざまな外部要因が影響するが、そうした影響を外部データや過去の業務データを参照しながら、プランを最適化できるからだ。
その日の配送が始まってからは、動的配車エンジンを使うことで新たに発生した再配達や集荷を、Driver App経由で最適なドライバーに割り振ることができる。
「この仕組みにより、“配達先の近くで発生した新たな集荷に応じる”ことや “そもそも配達と集荷の担当者を分けない”といった、より柔軟で高効率な運用が可能になります。これまで配達は配達、集荷は集荷と担当ドライバーを分けていた理由は、配車組みの複雑さに加え、予測できない依頼が多いことが要因でした」(早川氏)
日本は特に、荷物を送る側・受け取る側が配達時間帯を指定できる、当日の再配達が可能など、サービス品質が高い。それゆえ、配車組みの最適化の難しさは、他国とは比べものにならないという。
「海外で実績がある配車組み最適化アプリを導入するだけでは、日本のロジスティクス業界が抱える課題は解決できないのです。30年以上にわたって日本のロジスティクスを総合的に支援してきた富士通がFleet Management Optimizationを提供する意義は、ここにあると感じています」(早川氏)
(3)EV化を進め環境対策に貢献
A社では、二酸化炭素排出量の削減と高品質な配送事業の維持を両立するため、EVの特性を取り入れた事前配送計画の策定とリアルタイムな最適化にも着手している。この取り組みも、富士通が全面的に支援する。
「航続可能距離を踏まえた事前配車計画が策定できます。さらに、従来の車両であれば不要だった、稼働中のEVのバッテリー残量をクラウドで監視し、最適なタイミングで最適なチャージステーションをドライバーに通知する、より最適な配送ルートを提案するといった作業も手間なく行えるため、EV導入後も導入前と同レベルの安定的で質の高い配送が可能です」(黒川氏)
こうした使い方は、配車組みだけができるアプリ、EVの管理だけができるシステムでは不可能だ。Fleet Management Optimizationは、現場のホワイト化の推進とトランスポーテーションのグリーン化の推進という一見異なるプロジェクトを、部署を横断した1つのプロジェクトとして進める土台としても機能するのだ。
さらに、実際にEVを導入する前にEV化シミュレーションも可能だ。EV導入に伴うチャージステーションや拠点の設置箇所やチャージャーの個数といった投資の必要性のほか、二酸化炭素排出量やコストをどの程度削減できるのかも定量化して把握できる。この視点は、ロジスティクス業界だけでなく、モビリティ業界にも欠かせない。
「Fleet Management Optimizationはロジスティクスの課題もモビリティの課題も解決できる基盤になっています。なぜなら、モノの移動もヒトの移動も同じ“トランスポーテーション”と捉えているからです」(早川氏)
業界の抱える課題を解決、持続的な社会を実現するために
富士通は他にも、基幹システムや運行支援システムなど、ロジスティクス、モビリティ業界に特化したソリューションを持っている。これらのシステムとFleet Management Optimizationを連携させれば、業界内のさらに多くの課題を解決でき、より持続可能な社会の形成という大きな目標達成へとつながる。
「富士通にとって、ロジスティクス、モビリティ業界の皆さまは大切なお客さまでもありますが、共に社会課題を解決するパートナーでもあります。Fleet Management Optimizationをはじめとするソリューションが、事業課題の解決ひいては事業進展のお役に立つことと思います。ぜひ気軽にお声掛けください」(黒川氏)
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