「サステナブルであること」が、企業が業績を左右する重要な要因となる時代に入っている。そうした中、第三者機関から「世界で最も持続可能な企業の1社」に位置づけられているのが、世界170カ国以上でコンピュータ関連事業を展開する「HP」だ。サステナビリティが考慮されたことによる同社の新規売上げは、2019年・2020年ともに10億ドル超えている。
HPはいかにして、世界屈指のサステナブル・カンパニーとなったのか。その環境対策の歴史と近年の動向をふまえながら、同社のサステナビリティの本質に迫った。
1930年当時からサステナビリティを重要視
HPのサステナビリティを理解するうえで大きなヒントとなるのが、創業者たちのマインドだ。
HPは、1930年にビル・ヒューレットとデイブ・パッカードの2人のエンジニアが、カリフォルニアの小さなガレージで創業したIT企業。HP=ヒューレット・パッカードの社名は、2人のファーストネームからきている。日本HP パーソナルシステムズ事業本部の担当者は、こう話す。
「HPはシリコンバレーで最も古いスタートアップ企業といわれていますが、実は創業初期のころから、企業理念の重要な項目の一つとして『環境や社会への貢献』を掲げていたんです。これこそが、今に続く大きな礎となっています」
その後同社は1957年に、会社が成長する中で創業当時の精神をなくさないようにと、ビジョンを明文化。その1つが「利益追求だけでなく、地域社会、お客さま、社員、地球環境に貢献し、事業を行うすべての国や地域において良き市民たれ」という「グローバル・シチズンシップ」の理念だった。この理念に基づき、HPは以降60年以上にわたり、サステナビリティの取り組みを行い続けてきた。主な例を挙げよう。
・1972年 環境保護の観点から製造方針を明確にする。
・1991年 使い終わった製品のリサイクルプログラムを開始。
・2004年 電子業界のサプライチェーンのサステナビリティ向上に取り組む業界団体の設立メンバーの1社となる。電子業界における行動規範も共同作成。
・2007年 製品の製造で生じる温室効果ガスの排出量を、IT企業として初めて公開。
・2019年 世界で初めてオーシャンバウンド・プラスチック *1 を採用した製品を開発。
*1. 水路や海岸域の近くに落ちている、つまりは海洋への流出が懸念されるプラスチックごみ
60年以上も環境対策を続けられた秘訣
ただ、今でこそサステナビリティの取り組みは企業経営に寄与する一大要因となっているが、かつては環境対策への世の関心は今ほど高くなかった。企業として利益を確保しながら、そうした取り組みを続けるのはかんたんではなかったのではないか。なぜHPは、サステナビリティの取り組みを60年以上も続けてこられたのか。
「あくまで一社員の感覚的な話になりますが、“社風”によるところも大きかったのではないでしょうか。前述のように創業者自身が、『利益をぐいぐい追求していこう』というより『みんなで一緒に社会に資していこう』といったマインドだったようですし、その人柄のようなものが今なお社員に受けつがれている気がします。良くも悪くも素朴で、真面目で、宣伝下手といったキャラクターでしょうか。
もちろん企業なので利益は追求します。しかし、根底に流れる当社ならではの気質が、サステナブルな取り組みを継続できた大きな要因になっていると感じます」
では、HPのサステナビリティの取り組みには、どんな特徴があるのか。
同社では、取り組みの貢献性を判断するため、その成果を「サステナブルインパクト」というレポートで毎年公開している。そのサステナビリティインパクトで3大方針として掲げているのが「PLANET」「PEOPLE」「COMMUNITY」だ。大まかに置き換えれば、「環境」「人権」「社会貢献」となる。一つひとつ紹介していこう。
「PLANET」は、持続的な地球環境の保護と、循環型経済の促進を意味している。
代表的な取り組みに、再生プラスチックの利用拡大がある。2019年、HPは2万5000トン以上の再生プラスチックを、PC及びプリンター製品に使用した。これは同社がPC及びプリンター製品の原材料に使用したプラスチック全体の約9パーセントにあたる。さらに2025年までに、この割合を30パーセントまで引き上げると宣言している。
2016年からはハイチで収集したオーシャンバウンド・プラスチックをインクカートリッジに再利用する取り組みを開始。これまでにペットボトル換算で6000万本以上のオーシャンバウンド・プラスチックを調達している。また2019年には、世界初のオーシャンバウンド・プラスチックを使用した法人向けモニタ、ノートPCなどを発表し、その後コンシューマー向け製品にもこの取り組みを拡大した。
IT企業では唯一、トリプルAを3年連続で獲得
「PEOPLE」は、同社で働く社員はもちろんバリューチェーンに関わるすべての人の、人権保護、福祉の向上、ダイバーシティ&インクルージョンに関する取り組みを意味する。
実際に米国HPの取締役会は、米国のテクノロジー企業でもっとも多様性があるといわれ、加えて2025年までに、社内の黒人及びアフリカ系アメリカ人幹部の数を2倍にするという目標も掲げている。
またHPは2014年、サプライヤーに対して外国人移民労働者の直接雇用を義務づけた最初のIT企業になった。さらに2015年から2025年までに、50万人の工場労働者のスキル育成および福祉改善を行うことを目標に掲げる。
「COMMUNITY」は、HPがビジネスを展開する170カ国において、テクノロジーを通じた社会貢献を行うことを意味する。
たとえば同社では、2016年から2025年の間に計150万時間の社員ボランティアの実施を目標に掲げ、2019年までに計42万時間を達成している。またHP財団とHP従業員からの寄付金を、2025年までに1億ドルにすることも目標に掲げ、2019年までに3500万ドル以上を寄付した。
学生や教育者に向け、テクノロジーを活用した質の高い学習機会を提供する取り組みも進めている。2025年までに世界の1億人の学習向上を支援する目標を掲げ、すでに2015年以降、2800万人以上を支援してきた。
こうしたHPのサステナビリティの取り組みは、第三者機関からも高く評価されている。たとえば環境団体・CDPが実施する主要企業約5800社を対象にしたCDPランキングの2020年版では、最高評価のトリプルAを3年連続で獲得。トリプルAを獲得した企業は、HPを含め世界で10社しかなく、IT企業では同社が唯一となる。
オフィス機器の省エネルギー制度「ENERGY STAR」では、パートナーオブザイヤーに選定され、かつエネルギー効率の向上に関する継続的な取り組みが「Sustained Excellence賞」を受賞している。
また、毎年カナダ・コーポレートナイツ社により選定される「世界で最も持続可能な100社」には、世界の主要企業約7400社の中から、6年連続で選ばれている。
サステナビリティを具現化するソリューション
そして時代はいま、サステナブルであることが企業の経営を後押しするフェーズに入っている。たとえば上記のCDPランキングは、世界の800もの機関投資家から、投資先を決定するための参考基準とされている。そしてHPにおいても、サステナビリティの取り組みが、その売上を押し上げている。
「製品および会社自体がサステナブルであることによって新たに発生したと推測される売上は、2019年・2020年ともに10億ドルを超えました。今やHPでは、サステナビリティを事業展開上の基幹戦略として位置づけています」
HPの取り組みは、サステナブルであるだけでなく、具体的なソリューションを合わせ持つ点もポイントだ。それは製品にも表れている。実例の一つとして、同社の最新型ビジネスモバイルコンバーチブルPC「Dragonfly G2」を見てみよう。
Dragonfly G2には、オーシャンバウンド・プラスチックや廃棄DVDをはじめ、さまざまなリサイクル素材が使われている。一方で、最新の第11世代インテル® Core™ プロセッサー・ファミリーを搭載し、インテル® Evo™ vPro® プラットフォームにも対応。これにより環境へしっかり配慮しつつ、リモートワークをふまえた現代の仕事環境にぴったりフィットする1台となっている 。
なぜHPは「世界で最も持続可能な企業の1社」になれたのか。そこには、創業時から受け継がれてきた誠実さとビジネスマインドが、大きく寄与している。地球環境・人・社会に貢献したいというピュアな思いと、テクノロジーをベースに取り組みをビジネスにする力。それをあわせ持つからこそ、サステナビリティの取り組みが真に“持続的”になる。だから続けられる。
そして地球を存続させるカギも、まさしくそこにあるのではないか。
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