有限会社アイグラム代表取締役  慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任教授  立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科 客員教授  梅本龍夫氏

 梅本龍夫氏は、スターバックス・コーヒー・ジャパンの立ち上げ総責任者を務めた経験などから「サードプレイス」の研究を行い、コンサルタントとして活躍する傍ら、慶應大学や立教大学でも教鞭を執る。ポストコロナ時代に求められるオフィスの条件はどのようなものなのか解説して頂いた。

スターバックスなどの居心地のいいカフェが     「サードプレイス」として存在感を高める理由

「『ファーストプレイス(家)』、『セカンドプレイス(職場)』に続く『サードプレイス(第三の場所)』という概念を提唱したのは米国の社会学者、レイ・オルデンバーグです。1989年にはこの考え方を著した『THE GREAT GOOD PLACE(邦題『サードプレイス』:みすず書房)』が刊行されています」と、梅本龍夫氏は紹介する。

『THE GREAT GOOD PLACE』は、翻訳書の副題にある「とびきり居心地よい場所」となるだろう。例えばスターバックスなどの「居心地のいい」カフェが「サードプレイス」として挙げられることが多いが、オルデンバーグ自身は同書でチェーン展開するカフェには言及していないという。

「スターバックスも、ブランドを立ち上げるときに『サードプレイス』という言葉は強調しませんでした。代わりに同社には『スターバックス・エクスペリエンス』というコンセプトがあります。まさに『特別な体験(エクスペリエンス)』を提供する場であるという意味です」。オルデンバーグの「サードプレイス」のエッセンスの言い換えが「スターバックス・エクスペリエンス」ということなのだろう。

 最近ではカフェで仕事をする人も増えているようだ。さらに働く場所を選ばない「ノマドワーカー」も珍しくなくなっている。それに対して梅本氏は「カフェで仕事をする人が増えている背景には、単に『居心地がいい』という以外に、さまざまな社会情勢の変化があります」と指摘する。

 その一つが雇用環境の変化だ。米国では、成長著しい企業は多いものの、非正規やフリーランスの人が増えており、カフェなどをオフィス代わりにする人が多い。

 一方、日本ではバブル崩壊後30年間経済成長は横ばいで、非正規雇用者も増加している。

「決まったオフィスを持たない非正規雇用者やフリーランスの方がどこで働くか。やはり、カフェに行くのが便利です。特に最近では、多くのカフェが無料のWi-Fiが使えるようになっているので便利です」。セキュリティ上のリスクがあるため、企業によっては社内のイントラネットにアクセスできないといった課題はあるものの、メール送信やWeb閲覧程度なら、カフェでも十分に行える。ノートパソコンやタブレット端末があれば、どこででもオフィス並みに仕事ができる環境が整いつつあるわけだ。

「そうなると、これからは、企業にとっても従業員にとっても、ファースト、セカンド、サードの、どのプレイスで仕事をすると最も生産性がよくなるのかが問われることになります」と梅本氏は話す。

ファーストプレイス(家)は必ずしも居心地のいい場所とは限らない

「ファースト、セカンド、サードの、どのプレイスで仕事をするのがもっとも快適か」と尋ねられれば、「ファーストプレイス(家)に決まっている」と答える人もいるだろう。在宅ワークなら、満員電車で通勤するストレスもない。

 だが梅本氏は「実は、ファーストプレイス(家)はすべての人に居心地のいい場所とは限らないのです。というのは、家は、家族の役割を果たさなければならない、いわばフォーマルな場所だからです」と語る。

 結婚していれば、夫や妻としての役割、子どもがいれば、父、母としての役割を果たさなければならない。そこで仕事をすることが必ずしも快適とは言えない。コロナ禍においてはその課題も露呈した。

「特に日本の住宅事情では、ITのインフラや作業スペースなどのファシリティが貧弱なため、家で仕事をすることで、かえってストレスを感じることになりかねません」。在宅ワークデーであっても、わざわざカフェに出かけていって仕事をする人がいるのもそのためだろう。

「実は米国でも、もともとオルデンバーグの『サードプレイス』には、家族の役割を果たすフォーマルな場所からの逃避という位置付けもありました」。日ごろ紳士的な夫や父親の役割を果たす男たちが気の置けない友人たちと過ごすパブなどが「サードプレイス」だったという。妻や母親の立場を考慮していないという点では問題もあるが、人間のある種の本音かもしれない。

 では、現在の日本の住宅事情にふさわしい「サードプレイス」とはどのようなものなのか。「コロナ禍により、改めて自宅の周りの生活圏を知ったという人も多いのではないでしょうか」。家の近くを散歩してみたらオシャレな雑貨店やレストランを発見したという人もいるかもしれない。だが、自宅と駅、都心のオフィスを往復しているだけでは、これらの生活圏はないのに等しい。

「私は『半径2キロ圏』と呼んでいるのですが、徒歩でも片道30分、自転車なら5分から10分で行けるくらいの範囲には、小学校、中学校の学区もあって、さまざまな活動ができるはずです。これくらいのエリアの中に仕事ができる場所や、サードプレイス的にくつろげる場所があるといいですね」。ファーストプレイスと付かず離れずといった距離にサテライトオフィスなどがあれば便利だろう。

オフィスのサードプレイス化を実現し、「夢を語れる」場を作る

 コロナ禍により、好むと好まざるとにかかわらず、日本企業における働き方が大きく改革されることになった。企業や業種、職種によっては完全在宅ワーク化したところもある。そうなると「セカンドプレイス(職場)」はいずれ消滅することになるのだろうか。

「コストのかかる都心の一等地に、多くの社員が集まって仕事をしなければいけないのかと言われれば、その必要はないということになるでしょう。本社などのあり方は見直されると思います。とは言っても、オフィスが完全になくなることはないでしょう。というのも、依然としてジョブ型よりもメンバーシップ型で仕事を進めることが多い日本の企業では相手と対面しながらのコミュニケーションが大切になるからです」

 ポストコロナ時代のオフィスにはどのような機能が求められるのだろうか。「私が提唱しているのが『オフィスのサードプレイス化』です。実は、日本企業はバブル崩壊まで、セカンドプレイスの中にサードプレイスを持っていたのです。典型的なのが、オフィス内の喫煙所、いわゆるタバコ部屋です。タバコ部屋というと仕事をサボっているという印象があるかもしれません。実は、ここでは部署を超えた、インフォーマルなコミュニケーションが行われ、情報交換をしたり、アイデアが生まれる場でもありました」

 まさにサードプレイスである。では、セカンドプレイスの中にサードプレイスの機能を持たせるためにはどのような仕組みが必要なのか。

「まずハードとしては、窓もないような狭い会議室ではなかなか気軽なコミュニケーションも生まれないでしょう。在宅勤務者が増えてスペースが余るのであれば、そのスペースを利用して開放的な空間を作りたいですね。花や植物が植えてあって、おいしいコーヒーマシンやお菓子が置いてあるのもいいですね」

 スターバックスなどのカフェをイメージしたような空間デザインの演出もサードプレイス化には大切だという。

 野村不動産が提供する「H¹O」はまさにこのサードプレイスの機能をもつオフィスといえる。共用部には入居者の心地よさを優先し、緑や風、光などの自然を感じられる「バイオフィリックデザイン」が採用されている。さらに一部の施設には共用部に水が流れている物件もある。

 一方で、カフェのようなオシャレなインテリアだけでなくサードプレイス化を実現するためには他にも重要な要素があると、梅本氏は指摘する。

「大切なのは、さまざまな人が集い自由に意見を言える文化作りです。社歴や役職、部署にかかわらずアイデアを出し合える場にすることです。そのためには、上司が率先して『それ、面白いね、やってみよう』と言うことが必要です。」

 その点、「H¹O」は入居者同士が自然に会話できるようラウンジ内にはソファ席を設けていたり、フリードリンクサービスなども提供しており、さまざまな人が集いやすく自由に意見を言えるような文化作りをサポートしている。さらに働く人のウェルネス支援として行っている、週に1回程度のフード提供も、コミュニケーション活性化の一つに繋がっている。

「多様な考え方を否定しないことが大前提です。そこからクリエイティビティが生まれます。経営者も目先の売上目標ではなくビジョンを語ってほしいですね。

「『ここではみんなが生き生きと夢を語れる』、そんな場を持っている企業は、これから成長するでしょうし、未来の日本を作ってくれると思います」と梅本氏は期待を込める。

撮影場所:H¹O渋谷神南

個人の「ポテンシャル」と「創造性」を最大限に引き出す、
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