上智大学では、社会変化の激しい時代に求められる「自律した学修者」、すなわち生涯学び続ける学力基盤の養成を目的に、2019年度より全学共通科目のカリキュラムの大幅な刷新を検討し始めた。この取り組みの一環として、データサイエンス科目群を主要な柱の一つに設定している。インターネットや各種テクノロジーの目覚ましい発展により、様々なデータの利活用が可能となった昨今、特にAIやビッグデータ、IoTに関するリテラシーが欠かせないものとなっているためだ。
今後、このようなデータを取り扱うデータサイエンスの領域は、誰もが知るべき基礎教養として扱われる時代になってくるだろう。
導入科目と上位科目に体系化されたデータサイエンス科目群
上智大学のデータサイエンス科目群は、データサイエンスの全体像を把握する「データサイエンス概論」と、その後に学ぶ「データ活用と経営戦略」「ビジネスデータ分析理論」「アナリティクスによる事業戦略」といった上位科目が体系的に用意されている。
「データサイエンス概論」では、現代社会の仕事や生活と密接に関係するデータを広く扱う。これらのデータが実際にどのように利活用されているか、データを使うことでどのような課題が発生するのか、といった観点を学生に理解してもらうことが目的だ。現在は選択科目として開講されている同科目だが、2022年度からは全学必修科目として、全ての1年生が受講することになる。
そして、同科目はデータサイエンス科目群の中でも導入科目に位置づけられている。ここから上位科目を受講することによって、概論をより具体的な学びにつなげることを目的とする。
「データサイエンス概論」の後に学ぶ上位科目では、事例研究を通じた経営課題とデータ活用の理解を深めたり、ビッグデータの活用に必要な数理的知識・解析手法などを学んだりすることができる。さらに、実際にデータサイエンスを活用している世界的企業と連携し、実データを使っての分析スキル修得や、アナリティクス活用による課題解決など、より実践的な科目へと発展していく。
文系・理系を問わず学びやすい「概論」でデータサイエンスの全体像を捉える
上智大学の「データサイエンス概論」には、「入門ではなく概論」「高校数学の知識不要」「文理の区別なし」「学習管理システムによる学修成果の可視化」といった四つの特徴がある。
まず、同科目をデータサイエンス「入門」ではなく「概論」としているのは、単にデータサイエンスの基礎知識を学ぶのではなく、データサイエンス全体像の把握を目的としているからだ。
具体的には、日常生活やビジネス、公共政策といったさまざまな生活シーンにおいて、どのようにAIやデータサイエンスが使われているかを、実際にAI・データサイエンスを利活用している外部企業と共同開発した動画教材を使って学ぶ。
データサイエンスには、理系の知識が求められるイメージが強く、文系出身者には手が出しにくい科目という印象があるだろう。もちろんデータサイエンスの広い領域においては統計学やデータマイニング、機械学習といった分野があり、そこには数理的知識も関係してくることは間違いない。しかし、同科目ではデータサイエンスにおける数理的な理解よりも、利用シーンや分析結果の活用といった部分に注目しており、高校数学の知識を持たない文系出身者や初学者にも学びやすい内容となっている。
また、データサイエンスには欠かせない、個人情報保護法に代表される国内の各種法令のほか、OECDガイドラインや欧州一般データ保護規則GDPR(General Data Protection Regulation)、消費者プライバシー権利章典といったデータを取り巻く国際動向についても授業で取り扱う。
さらに、セキュリティインシデントによる情報漏えいやデータバイアス(差別や偏見など誤った認識で収集されたデータ)、アルゴリズムバイアス(偏った学習データによってAIのアルゴリズムが偏った学習をしてしまう)といったマイナスの事例など、データサイエンス領域においては単にデータの利活用だけでなく、データを取り扱う上で押さえておくべき知識も多い。これらは文系理系を問わず学ぶ必要があるだろう。
上智大学の「データサイエンス概論」においては、学習管理システム(LMS:Learning Management System)を使い、動画教材の視聴や講義資料の閲覧、授業に対する質問や課題の提出、フィードバックなどをシステム上で行う。これらのデータはLMS上に蓄積されるため、学びの成果を随時確認することが可能だ。
これらの特徴を持つ「データサイエンス概論」。上智大学は、できるだけ多くの学生が履修・修得できるよう、2020年度はクォーター科目として1単位×2科目を開講していたが、2021年度にはセメスター科目として2単位×1科目を10コマ開講に変更、さらに2022年度からは全学共通科目の必修科目として全ての1年生が受講できるよう順次拡大をしている。
倫理観を持ってデータの利活用ができる人材を育成
上智大学では2022年度より「予想不可能な未来のために学び続ける力を身につける」をモットーに、新しい全学共通教育カリキュラムを導入する。新しい全学共通科目のカリキュラムでは、「コア」と「展開知」という二つの大きな区分を設け、「コア」の下には「人間理解」「思考の基盤」という二つの柱を掲げており、「データサイエンス概論」はその「思考の基盤」の一つに位置づけられている。
「思考の基盤」とは、文章や数値、画像などの様々な情報を検証し、読み解き、問いを立て、考え、表現するといった学び続けるための基盤となる思考力や表現力、態度や習慣を身につけるためのカリキュラムだ。
ビッグデータに代表される「データが社会を動かす時代」においては、あらゆる領域においてデータを利活用できる能力が求められている。「データサイエンス概論」では、現代社会におけるデータ利活用の実態や分析手法を知ると同時に、データが現代社会に与えるインパクトを理解するために、データの有用性や危険性について考え、データを取り扱う上で必要な倫理観を養成することを目的としている。
具体的には1年次必修科目である「データサイエンス概論」を履修した後、トピック別科目として「AIと人間のかかわり方」といった倫理的側面や、ツールを使ったデータ分析の基礎的なスキルを養成する科目などが上位科目として用意されている。
さらに高学年向け科目として、企業から講師を招き、より高度なデータ分析の活用事例・理論などの学修も行うものもある。実際のデータやケーススタディをベースにした「PBL(Project Based Learning)型授業」によって、ビジネス現場でのデータ活用、マーケティング・画像データ解析も行うという。
こうしたカリキュラムを通じて、より実践的なデータサイエンスの知識を身につけることが可能になる。
学生や協力企業からのフィードバックを生かしたカリキュラム開発
上智大学では、2021年7月より「基盤教育センター」を立ち上げ、PDCAサイクルを回しながらカリキュラムの開発やプログラム検証を行っている。
具体的には「データサイエンス概論」受講者に対してアンケートを実施したり、上位科目の協力企業に対して科目内容や単位習得者に関する外部評価を実施したりして、カリキュラムの検証や改善を行っている。また、上位科目群のさらなる整備を行っているとのことだ。
また、文系学生向けの数学・統計学のリメディアル教育や各種ツールを使った基礎的なデータ分析スキルの修得から、実際のデータを活用した実践的な演習、高度なデータ分析スキルの修得まで、データサイエンスに必要な分野を網羅したカリキュラムが用意されている。
さらに「基盤教育センター」は、全学共通科目で展開されるデータサイエンス科目とデータを扱う各学科の専門科目との有機的な連携を図り、全学的な視野でのデータ教育を目指す。
なお、上智大学は2021年8月に、数理・データサイエンス・AIに関する基礎的な能力の向上及びその機会の拡大を図ることを目的とした文部科学省の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」の認定を受けている。こうした取り組みを通じて、今後も同校がデータサイエンスの領域において、より社会のニーズを捉えたカリキュラム開発を続けていくことが期待される。
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