デジタル・トランスフォーメーション(DX)時代が本格化する中で、HR(人事)部門の役割も大きく変わっている。「人材版伊藤レポート」の公表、欧米における「人的資本の情報開示」の流れを受けて、人材マネジメントへの期待は、まったく新たな領域に入ったといっても過言ではない。人事部が、今こそ管理部門から「真に経営に貢献する人事」に変革する好機と捉えるなら、経営層や人事部門のトップは、何を考え、どのようにアクションすればいいのか。Rosic人材マネジメントシステムを提供するインフォテクノスコンサルティングのセールス・マーケティング事業部長、大島由起子氏に聞いた。
既存の「人事」のマインドセットをアップデートする必要がある
DX時代の本格化に伴い、人材マネジメントの領域においてもデータ活用の重要性が高まっている。しかし、「人事部、特に戦略人事に関わる部署への期待は、本質的には変わっていません」と話すのは、インフォテクノスコンサルティングのセールス・マーケティング事業部長、大島由起子氏だ。
「そもそも、人事部の究極の存在意義は、『短・中・長期のビジネス目標を達成していくために、人材・組織の側面から支援を行っていくこと』で、このことは何ら変わっていません。ところが最近は、人事領域の周辺に様々な方法論があふれ、本来は手段であったものが目的化する傾向が見られます。そうしたことから、本質的に何に取り組むべきかが見えにくくなっているのではないでしょうか」と大島氏は指摘する。
一方で、人事や人材マネジメントを取り巻く環境に大きな変化も起きている。米国証券取引委員会(SEC)は2020年、上場企業に対して「人的資本の情報開示」の義務化を発表した。そこには、人事の仕事は、人的資本という無形資産を通じて、企業価値を上げていくために重要な役割を果たすべきとのメッセージが込められている。
また、2020年9月に経済産業省が公表した「人材版伊藤レポート」には、「人事部は管理部門として人事施策のオペレーションを中心に担ってきた。今後、この役割を大胆に見直し、ビジネスの価値創造をリードする機能を担っていく必要がある」「CHRO(最高人事責任者) は、果たすべき役割が従来の人事部長とは異なるため、人事部門出身者であることを前提とせず、事業部門等での幅広い経験や経営戦略と人材戦略を結び付ける専門性をもった人材を選任する必要がある」との記載がある。
「これらによって、人事は経営やビジネスに貢献することが求められているということが改めて明示された形です。しかも、以前にも増して、高度な支援・貢献が求められるようになっています。人事部の本質的役割は変わっていませんが、人材マネジメントへの期待は新たな領域に入ったと認識すべきです」。新たな期待に応えていくには、既存の「人事」の枠を超えて、マインドセットをアップデートする必要があると大島氏は訴える。
では、人事のマインドセットをアップデートする際の方向性、“あるべき姿”とはどのようなものか? 「自社の経営・ビジネスの目標達成に直接的な責任を負うという意識を明確に持つこと。具体的には、今行っている活動が、経営やビジネスにどうつながっていくのか、一般論ではなく、自社内で納得されるストーリーとして語れること。その結果に責任を負う覚悟ができていることです」と大島氏は言う。
データ活用の観点からは、経営層・ビジネスの責任者が重要な事項について判断・決断するために必要な情報を提供できる人・組織になることがポイントになる。さらにその先には、自ら判断できるレベルのプロフェッショナルになるというゴールがあるが、そうなった時にも、適切なエビデンスや情報が活用できる環境が整っていることが必須となる。
経営に資する「人材データ統合マネジメント」の在り方
「経営層・ビジネスの責任者の意思決定に必要な情報」を提供できる人・組織になるためには、人材情報の一元化と可視化が必須である。現状をしっかりと把握できないのに、適切な施策を立案・実行することはできないからだ。そのためにはまず、自社内で人材に関する情報がどのようになっているのかを知る必要がある。
人材情報というと、人事にまとまっていると思いがちだが、決してそうではない。そもそも人事部門の中でも散在していることが少なくなく、採用や労務、教育・人材開発の各部署がそれぞれの目的で人材に関する情報を持っているケースも多い。また、人材データは人事まわりだけで発生していると考えがちだが、経営企画や財務・会計、ビジネスの現場でも様々なかたちの「人のデータ」が発生し、活用されている。しかし、それは別物として捉えられ、人事が持つデータと合わせて一元化されているケースは少ない。そのため多くの人事が、経営層やビジネスの責任者から求められる資料やレポートを、Excelを駆使して手作業で対応しているのが現状だという。
「社員や組織に関するデータを収集・分析して、人材活用や組織づくりに活かす『ピープルアナリティクス』という手法がありますが、これについても人事が持っているデータだけで完結しているケースが少なくありません。そこから見えてくることももちろんありますが、最終的には経営・ビジネスの視点につながらないと、本質的な判断支援に踏み込むことはできません」(大島氏)。そうした状況を乗り越えていくためにも、経営に資する「人材データ統合マネジメント」という考え方が重要になってくる。
経営に資する「人材データ統合マネジメント」とは、「人事」という枠を超えて、企業内で発生している人や組織に関わる情報を統合し、包括的にデータ活用を行っていくというコンセプトだ。その実践には、既存の人事の枠を前提に考えるのではなく、経営企画や財務・会計、事業部(ビジネス)としっかり連携し、包括的にデータ活用を推進していく専任組織を立ち上げることが望ましい。
専任組織の中には、企画チームを設置し、各部署からの要望に応えるだけでなく、自らデータを活用して価値を生み出していくタスクを担う。それを、統計的知識のあるアナリティクスチームが支援していく、というのが基本形になる。
「人材データ統合マネジメント」を実践することで、「経営に対しては、経営判断のための情報提供」「経営企画に対しては、経営企画の立案・見直しのための情報提供」「財務・会計に対しては、適正な原価管理、予算管理のための情報提供」「現場に対しては、現場組織が適切に機能し、年間予算を達成していくための支援」「従業員に対しては、適正な人事制度の運用や従業員の人材としての価値を向上させていくための支援」「株主に対しては、人的資本に関しての適切な情報提供」が確実に行えるようになる。
「人事が自社の経営・ビジネスの目標達成に直接的な責任を負うとなれば、これら6つの視点が必須となるはずです。そのためにも、人材データを統合的にマネジメントすることが不可欠である、といえるでしょう」と大島氏は補足する。
「Rosic人材データ統合プラットフォーム」とは
インフォテクノスコンサルティングは2000年の設立当初より、総合的な人材マネジメント支援のシステムを提供してきたが、それを大幅に発展・拡張させた「Rosic人材データ統合プラットフォーム」を2020年にリリースした。
その特徴は、簡潔に言うと、社内に散在する「人材に関わるデータ」を統合管理する仕組みだ。「人事のデータだけでなく、会計や財務のデータ、ビジネスで発生する仕事や組織に関するデータも、人材データと合わせて活用できる形に整備し、一元管理していくことが可能です」と大島氏は説明する。
総合的なデータ群を、様々な観点から分析し、適切に可視化された形で提供する仕組みがあらかじめ備わっており、人事関連のデータに、経営目標やビジネス情報などを掛け合わせることも容易なため、経営層やビジネスのトップ、CHROの高度な意思決定を支援することができる。
導入事例をいくつか紹介しよう。
大手メーカーA社では、人材データを会計データと連動させ、正確な原価計算に取り組んでいる。以前は、発令組織ごとに原価センタを割り当てて、細かい調整は手作業で行うことで人件費を管理していた。そこで、Rosicでどの仕事・プロジェクトに時間を使ったのかといった精緻で正確なデータをタイムリーに管理し、会計システムで活用できる形に変換したうえで自動的にデータを渡していく仕組みを構築した。それによって、工数を大幅に削減したうえで、正確な人件費を反映した原価計算を実現した。このことは、単に原価計算の質を向上するだけでなく、どういう仕事にどれくらいの時間とコストがかっているのかという「仕事の見える化」の実現にもつながった。今後、将来に向けての仕事・人件費の予測を更に精緻に行っていけるよう、取り組みを続けている。
建築・不動産のB社は、スキル・能力など人の集まりとしての組織が持つ性質だけでなく、経営戦略・ビジネス目標から規定される組織の性質を整理している。加えて、売上・利益を生み出す単位である「仕事」についても、営業システムやプロジェクト管理システム等と連携して把握。これら3つの視点からのデータを掛け合わせることで、短期・中期のビジネス目標達成に向けた状況を把握し、達成のためには、人材をどのように育成・配置していくのか、中長期の視点ではどのような組織運営が必要なのかを、経営層やビジネス部門のトップが同じ土俵で議論ができるインフラを構築している。
その他、「中期経営計画における売上目標に対して人員の増員という要望があるが、一方で人件費の抑制という要請もある」という状況に陥ることがある。その際に、将来に向けた人件費はどういう構造なのか、何が原因で増加していくのかがわからなければ、本来手をつけるべきところに手がつかず、重要な部分を損ねる施策を取ってしまうことも考えられる。そこで、現在から未来への人材ポートフォリオを構築したうえで、自社の人件費構造を把握し、経営目標達成のために打つべき手は何か、仮説検証ができる形で、要員・人件費シミュレーションに取り組もうとしている企業への支援も始まっているという。
「ともすれば、とにかく人件費を抑えればいいという結論になりがちですが、人事が本当に経営に関与するのであれば、『中長期的な発展を目指すには、こうした人材ポートフォリオが必要で、今の制度・運用を前提にそれを実現するには、この程度の人件費が必要だ』といったレベルの説明ができる必要があります。そのうえで、人件費のコントロールをどうしていくべきなのか、という議論があるべきでしょう。そこまで踏み込んでいくためにも、人材関連のデータを統合的にマネジメントし、具体的かつ建設的な議論が行える環境が必要だと考えています。」(大島氏)。
方法論があふれている今だからこそ、自社の真の課題の見極めを
「人事のことは、人事部内で完結する問題ではありません。経営やビジネスの成功につながる戦略人事を実現しようと思うのであれば、経営やビジネスの視点と人事の視点を、密接に有機的につなげていくことが必要不可欠です。そのことを、経営・ビジネス・人事の責任者が深く理解し、連携して動いていくことが重要です。」と大島氏は話す。
人事のデジタル化、人材マネジメントのDX化を目標に掲げ、取り組みを始めている企業も増えているが、自社にとって優先順位の高い課題や人材データ活用の目的・シーンについて、経営トップを含むマネジメント層とビジネスの現場、そしてそれを推進しようとしている人事が、共通認識を持てていないケースも少なくないという。「一般的で綺麗な言葉にまとめられていて、何かわかった気になってしまうのですが、実は人によって解釈がずれていたり、肚落ちしていかなったりということが起きているケースも見受けられます」(大島氏)、目的が曖昧なままプロジェクトを進めても、価値ある成果を生み出すことはできるはずもない。
大島氏は次のように続ける。「人事や組織、経営に関する方法論やキーワードがあふれている今だからこそ、自社の真の課題を真剣に見極め、取り組みの目的と期待する成果を関係者全員としっかりと共有した上で、着実に進めていくことが肝要ではないでしょうか」。「Rosic人材データ統合プラットフォーム」は、その課題解決に向けた一歩を後押ししてくれる基盤となるに違いない。
インフォテクノスコンサルティング株式会社
住所:東京都新宿区四谷2-12-1 野村不動産四谷ビル6階
URL:https://www.itcc.co.jp/
Rosic人材マネジメントシステム製品サイト:https://www.rosic.jp/