金沢工業大学は、社会性のある研究課題を学生自身が発見し、解決に取り組むことでイノベーションを創出できる「自ら考え行動する技術者」の育成に取り組んできた。

大学外観

 2020年度の入学生からは、人工知能を学ぶ科目「AI基礎」を必修科目に。問題発見・解決の手段としてAIを活用することで、「SDGs」や「Society5.0」が目指す未来社会の実現に挑戦できる、研究力のある技術者の育成を目指している。

 さらに新たな取り組みとして、2022年度入学生からデータサイエンスの3科目を全学部全学科で必修化。体系化されたプログラム「KIT数理データサイエンス教育プログラム」として、文部科学省の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(リテラシーレベル)」にも申請を行い、「リテラシーレベル」に加えて、先導的で独自の工夫・特色を有するものとして「リテラシーレベル プラス」にも選定された。

専門力・研究力を活かす「KIT数理データサイエンス教育プログラム」

 データサイエンスを活用できる人材の育成を目指し、金沢工業大学が展開する「KIT数理データサイエンス教育プログラム」。そこには「全学必修データサイエンス科目」「選択可能で多様なスキル科目」「専門分野のデータ学習」「専門力を活かす社会実装型教育研究」という4つの段階がある。

 2022年度から新たに4学部12学科、全ての学科で必修科目として導入されるデータサイエンス科目は、以下の3科目だ。

 一つ目は、データサイエンス入門。データの取り扱いの基本を学ぶために、その入門ツールに位置づけられるExcelの基本操作を学ぶ。さらに、Excelを使用して社会の実際のデータ(オープンデータ)を可視化していくことで、データがもつ意味を理解し、データを集計・分析する力を身につける。また、実験データやアンケートデータの集計・分析など、データの取り扱いスキルを学ぶ。

 二つ目は、データサイエンス基礎Ⅰ。データの間にどのような関係や差があるかを数学的な手法で明らかにし、多くのデータをより少ない本質的な要素で説明するための方法を学ぶ。データサイエンスにおいて重要となる、層別集計やクロス集計の手順、グラフ描画、回帰分析について、実践的な演習を交えて理解を深めていく。

 そして三つ目は、データサイエンス基礎Ⅱ。コンピュータによる計算手法を用いて、多くのデータをそれぞれの特性に基づいて分類し、系統的に説明するための手法を学ぶ科目だ。現在幅広く使われている深層学習の基礎となる機械学習については、教師データなし機械学習の代表的な手法「クラスター分析」、教師データあり機械学習の代表的な手法「決定木」を学ぶ。また、AIの代表的な手法であるディープラーニング(深層学習)の基礎となる「ニューラルネットワーク」についても学習していく。

 これらの科目を1年次から学ぶことによって、デジタル社会の読み・書き・そろばんとなるデータサイエンスの基礎を全学生が学習し、所属学科の専門分野でその力を十分に発揮することを可能とする。

 その上で、「AIプログラミング入門」「IoT応用」「ロボティクス基礎」「ネットワークセキュリティ」といった選択可能で多様なスキル科目を学び、実験・実習によるデータ計測や分析など専門分野においてもデータ学習を行う。

体系化されたAI・データサイエンス、IoT、ICTのコース

 さらには、企業や自治体と連携した共同研究や、就業型インターンシップ、多様な実践型課外活動プログラムでは現場の実際のデータを扱い、データ分析やAIの活用を行う。社会実装型の教育研究を通して、データ・AIを操作できる能力と専門の知識・スキルを備え、地域の課題解決に貢献できる人材育成を目指した教育プログラムとなっている。

問題発見・課題解決を目的としたAI・データ活用研究

 金沢工業大学では以前より、独自の専門性・研究力を活かしてAI・データを活用した取り組みが多く行われてきた。

 例えば、航空システム工学科では、「Boeing Externship Program」という、ボーイング社が教育分野における活動の一環として大学生を対象に実施しているプログラムにおいて、国内線・国際線の旅行における、感染症の拡大を防ぐための方策・技術をデータ活用の側面から提案。

 また、情報工学科では、工場設備の異常音を検知するアプリの開発を行った。録音と解析用データへの変換、AIの技術を用いたクラウドでの解析の実行までを、スマホの操作のみで対応可能にすることで、Androidアプリで録音した機械の稼働音をクラウドで解析し、機械が正常から異常に変わるまでの過程を可視化できるようにした。

 電気電子工学科が行っている、太陽光発電量予測の取り組みもユニークだ。これまでの太陽光発電予測システムは、降雪地域など地方特有の状況が十分に反映されていなかった。そこで同学科の研究では、AI(ディープラーニング)を活用したシステムを開発。従来は予測が困難であったケース(晴天ではあるものの、太陽光発電パネルの上に雪が蓄積している場合など)でも、精度の高い発電量予測が可能になったという。

 同大学では、社会や地域に潜む課題を把握し、解決のためのアイディアを具現化して実験を行い、実装可能な解決を検証し提案する「プロジェクトデザイン」の授業科目をカリキュラムの中心に位置づけている。このプロジェクトデザインにも、学んだAI・データの知識を活用できる機会が取り入れられ、これまで行われてきた実験データや地域のデータの分析が高度化される。知識を得るだけに留まらず、イノベーションを創出できる「自ら考え行動する技術者」の育成を目指す同大学らしい教育方針といえよう。

情報工学の分野以外でも、研究へのデータサイエンス・AIの技術の応用が進む

 この基本姿勢のもと、データサイエンスとAIの素養を身につける教育プログラム「数理データサイエンス教育プログラム」が新たにスタートすることによって、「SDGs」や「Society5.0」が目指す未来社会の実現に向けて、業界をリードする技術者の育成を進める。

2020年度から必修化した「AI基礎」と発展科目

 冒頭でも触れたが、金沢工業大学では、問題発見・解決の手段としてAIを活用できるよう、2020年度入学生からAIの活用方法について学ぶ「AI基礎」の科目が必修となっている。

「AI基礎」では、AIの基本的機能や活用例を、アクティブラーニングを通して体験する。様々な基本的事例を通じて最新技術を学ぶことができる。AIを使うことへの知的好奇心と面白さを実感することにより、「プロジェクトデザイン」科目や専門科目での問題発見、解決に活かすとともに、仕事での活用ができるようになるという。

 授業ではAIの基本的仕組みとして、画像認識、自然言語処理、対話型音声識別について体験しながら理解し、基本的操作ができるように。例えば画像認識の授業では、MathWorks社のMATLAB®を使用し、学生自身で書いた手書きの数字をニューラルネットワークで認識させる体験をする。AIの代表的な機能である「機械学習」(深層学習)においては基礎的データ構成について学習し、簡単なデータ作成を通じて機械学習に必要となる初等的なデータ構成ができるようにするそうだ。

 また「AI基礎」では、授業の中で、「AIに関する倫理的使用に関する学生宣言」に署名と宣誓を行っている。AIは社会にとって大いに役立つ技術であるが、その技術をどう活用していくのか、その使い方もまた重要である。AIに関する法令や倫理的な問題も授業で学ぶことにより、「人に関する情報における倫理尊重」の重要性についても理解できる内容となっている。

 また、基礎の科目のみでなく、発展的な「AIプログラミング入門」「AI応用Ⅰ」「AI応用Ⅱ」などの科目が設けられている。

 これからの時代、様々な社会課題を解決するために、AIのみならずビッグデータを分析・有効活用するためのデータサイエンスの能力を身につけ、新しい製品・サービスを生み出せる人材が求められている。これらのスキルが備わった人材の輩出は、これからの技術革新・DXに大きく寄与することが期待される。


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