学習院大学の「国際社会科学部」が注目を集めている。大きな特色は、英語によるコミュニケーション能力だけではなく、社会科学のアプローチによる論理的な考え方、データ分析などの学びを通して、課題発見・解決力のあるグローバル人材を育成しようとしているところだ。実際に国際的なビジネスの場で活躍している卒業生も多いという。

英語で社会科学を学ぶ、特色あるカリキュラム

 学習院大学国際社会科学部は2016年4月に新設された。学習院大学で学部が新設されるのは52年ぶりだったという。設立の狙いはどのあたりにあったのか。

学習院大学 国際社会科学部 教授
乾 友彦 氏

 国際社会科学部 教授の乾友彦氏は次のように紹介する。「ICTの発達により世界中の情報が共有される中で、世界的な視点で経済を見ることができ、加えてそれぞれの文化・政治的背景を理解できる『グローバル人材』の育成は日本にとって急務と言えます。グローバル人材に求められるのは、英語でのコミュニケーション能力だけではありません。例えば、英語で発信されるグローバルなトレンドやトピックを踏まえて、企業や社会の中でDX(デジタルトランスフォーメーション)を実装するといった実行力や、蓄積されたデータを分析して活用する力などが社会から求められています。国際社会科学部ではそれらを総称して『課題発見・解決力』としています。社会のニーズに応え『課題発見・解決力』を持った人材を育成するのが国際社会科学部の大きな使命です」

 GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に代表されるように、デジタル経済が世界を席巻するようになっている。一方で、国内におけるデジタル教育は欧米や中国、インド、韓国といったアジア諸国に比べても遅れを取っている。特に文系学部においてはそれが大きな課題になりつつある。

「問題を論理的に分析し、仮説を立て、検証するといった力が国際的なビジネスにおいては必須です。その点では文系人材こそこれらを学ぶ必要があります」

 学習院大学国際社会科学部では、社会科学の5分野「法学・経済学・経営学・地域研究・社会学」を幅広く学ぶカリキュラムを通して、国際的なビジネスの場で活躍するために必要な「課題発見・解決力」や「国際経済・社会に対する理解力」を身に付けることを目指す。

 ここで注目すべきは、同学部での英語教育の姿勢だ。「『国際』という名前は付いていますが、英語はあくまでもコミュニケーションのツールにすぎません。大切なのは英語で課題を発見し解決できる能力を身につけることです」

 同学部の開設準備段階で学習院大学の卒業生が入社した企業のなかで海外展開をする企業にアンケートを実施したところ、英語によるコミュニケーション能力よりも、「課題発見・解決力」を学生に求める能力と回答した企業が圧倒的に多かったという。

 このアンケート結果に基づき、学習院大学国際社会科学部は、ビジネスの現場で必要な「課題発見・解決力」の根拠・裏付けとなる「社会科学」と、国際社会の共通言語である「英語」、そして異文化を体験することで学生個人の成長を促す「海外研修(留学)」を3本柱として位置付けた。

 それらを4年間という短い時間で効率的に身に着けるため、1年次は英語科目で英語力を高めつつ、日本語で社会科学の基礎を学ぶ。そして2年次以降はCLILという言語学習メソッドを使って、英語と社会科学を身に付けるカリキュラムを提供している。

 CLIL(クリル)とは「内容・言語統合型学習」と呼ばれる欧州で開発された言語教育法であり、同学部ではこのメソッドを用いて、社会科学(専門科目)の理解に必要な語彙や表現を養いつつ、4技能(読む・書く・話す・聞く)を高めていく。

 3年次からは語学の科目だけでなく、専門科目である社会科学の科目もすべて英語で講義をすることになり、4年次はその集大成として英語で卒業論文を執筆する学生もいるという。また、4週間以上の海外研修(留学)は必須で、留学をしないと卒業することができない。同学部の学生は全員が海外留学を経験することになる。

データサイエンスをユーザー視点で
使いこなす人材を育てる

 前述したように、学習院大学国際社会科学部では、課題を発見し解決できる人材の育成に力を入れている。「そのためには論理的な考え方やデータ分析ができる力が重要です」と乾氏は話す。

 例えば経済開発・発展について議論する際には、データに基づいてどのような施策が経済発展に寄与するか検証する。また、マーケティングでは、消費者の口コミが、広報宣伝によりどのように変化するかを分析するといった取り組みが進んでいる。ICTの進展、DXに伴い蓄積されるデータと、少子化・国内市場の縮小・働き方・生産人口の減少といった社会におけるさまざまな問題は、経験と勘ではなく、エビデンス(科学的根拠)に基づく効率的な経営戦略や政策の立案の機運を高めている。

 これらビジネスの現場でのデータ分析、DXのニーズの高まりを背景として、同学部では数学の教育にも力を入れている。一部の入試では出願条件に「数Ⅰ・数A・数Ⅱ・数B」を求めている。また、一般選抜でも大学入学共通テスト利用入学者選抜では「数Ⅰ・数A」が必須科目で、さらに選択科目を「数Ⅱ・数B」で受験すれば、英語よりも大きい配点にすることもできる。さらに、入学する新入生を対象に、数学の入学前特別授業を実施しているのは学習院大学のなかでは同学部のみだ。

入学前教育プログラム数学特別授業

 カリキュラムでは、例えば経済発展の分析を専門とする乾氏の講義では、社会科学の分析手法に関する基本的な考え方を学ぶ「入門演習Ⅰ・Ⅱ」、実際のデータを使用して分析レポートを作成する「社会科学のためのデータ分析」が1年次から用意されている。また、マーチャンド・ティム教授の講義「CLIL Seminars」では、テキストマイニングなどのデータ分析を英語で学ぶことができる。

 「ただし」と乾氏は加える。「本学部では分析プログラムの開発や統計学の専門家を育成しようとしているわけではありません。データサイエンスを開発する側ではなく、ユーザー視点でデータサイエンスを使いこなす、専門家と現場をつなぐ架け橋となれる人材を育てたいと考えています」

 まさに、ビジネスや行政の現場で必要とされるのは、データを収集・分析し、運用や提案ができる人材であろう。そして、そこで英語と社会科学(専門科目)を融合させる学習院大学国際社会科学部ならではの特色が生きてくる。データサイエンスに限らずAI(人工知能)をはじめとする先進のICTは米国がリードしている。そのため、最新の情報は英語で発信されている。それをキャッチアップするためには、それらの情報が日本語に翻訳されるのを待っているのでは遅すぎる。英語をツールとして活用できる能力が必要だ。

IT系企業や外資系コンピュータメーカーにも就職

 2016年に新設された学習院大学国際社会科学部では、2020年春には第1期生を卒業生として送り出した。

 乾氏は「総合商社や金融機関などのほか、日本および外資系のIT系企業、大手コンサルティング会社などにも就職しています」と紹介する。一般的な大学の国際系学部とは大きく異なっていると言えるだろう。これからもさらに、学習院大学国際社会科学部の卒業生が、幅広い分野で活躍しそうだ。

「カリキュラムについても、引き続きブラッシュアップしていきたいと考えています」と乾氏は話す。「世界的に個人情報保護への関心が高まる中、データの収集方法や管理方法なども問われるようになるでしょう。それぞれの国での法令や制度、その背景にある文化や多様性なども理解しながら、最適なデータ分析方法を実施できるような人材を育てたいと考えています」

 その一方で、AI向けプログラミング言語「Python(パイソン)」などを用いた分析など、応用分野の講義を用意し、学習意欲や関心の高い学生のニーズにも応えていく考えだ。

 学習院大学副学長も務める乾氏は「国際社会科学部だけではなく、他学部にもデータサイエンスの講義を展開させ、さらに学部間の連携も進めていきたい」と抱負を語る。さまざまな分野で、「課題発見・解決力」のある人材が輩出されるようになれば頼もしい。日本企業の競争力向上という点でも学習院大学国際社会科学部の取り組みに注目したいところだ。


■特集トップページはこちら>>
<PR>