成蹊大学では大規模な教育改革が始動しており、2022年度には理工学部が刷新される。※ 2020年度にはデータとモデルに基づいた経済現象を解き明かすことを目的とした経済学部経済数理学科を設置。さらに、学生の多様な関心や目的に応える全学生を対象とした副専攻制度もスタートし、その中には「データサイエンス副専攻」も用意され、文理の別を問わず、データを活用し社会で活躍する人材を育成する。
※2022年4月 理工学部理工学科開設
Society 5.0時代に活躍する人材を育成するために理工学部が大きく変わる
成蹊大学は1912(明治45)年に創立された成蹊実務学校を源流とする。2012年には学園創立100周年を迎えた。キャンパスは、都心にほど近い東京都武蔵野市吉祥寺に位置し、小学校から大学・大学院までを擁する総合学園である。経済学部、経営学部、法学部、文学部、理工学部の5学部の学生が、4年間ワンキャンパスで学んでいるのも大きな特長だ。
その成蹊大学では近年、新たな改革を進めている。2020年4月にスタートした「成蹊ブリリアント(Brilliant)2020」だ。中でも注目すべきは、学部・学科の大胆な改組だろう。それまでの1学部1学科だった経済学部・経済経営学科が発展的に改組され、経済学部・経済数理学科/現代経済学科、経営学部・総合経営学科の2学部3学科に刷新された。これまで以上に専門性を高めるとともに、リベラルアーツ教育とグローバル教育を取り入れた教養カリキュラムを新たに導入。専門分野を深く学びながら、幅広い教養と視野を身に付けた人材を育成していくのが狙いだ。
学部の改組はさらに続いている。「『Society 5.0』というキーワードが一般的になっています。あらゆる人とモノがネットでつながるIoTの時代に、社会や企業のニーズに応える人材を育成するためには、理工学部も変わる必要があります」と話すのは、成蹊大学 理工学部准教授の小森理氏だ。
その言葉に示されるように、成蹊大学の理工学部が大きく生まれ変わろうとしている。2022年4月からは、従来の3学科(物質生命理工学科、情報科学科、システムデザイン学科)が、理工学部理工学科の1学科に改組され、「データ数理専攻」、「コンピュータ科学専攻」、「機械システム専攻」、「電気電子専攻」、「応用化学専攻」の5専攻が設けられる。
「自分に合った専攻で深い専門知識を身に付けながら、さらに専攻の垣根を越えて融合分野の科目を履修することで、学びの場を広げるのが狙いです」と小森氏は説明する。
また、学習意欲の高い学生を対象に、「経営科学プログラム」、「生命科学プログラム」、「教育手法プログラム」といった、各専攻にとらわれない社会的要請の高いテーマについて重点的に学ぶ特別プログラムも実施されるという。
副専攻制度を導入。「データサイエンス副専攻」も開始
「VUCA(ブーカ:変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代」と呼ばれるように、社会環境の変化が予測困難になりつつある。
「そうした時代に活躍するためには、自分の専門性を高めるとともに、その専門性を活用できる関連分野を勉強することが重要になります」と小森氏は話す。
そこで成蹊大学が「成蹊ブリリアント2020」の一環として進めるのが「副専攻制度」だ。所属学部の専門分野の学びにプラスして、自分の興味関心やニーズに沿った学習を進められる制度で、歴史文化学、哲学思想、地理環境学、社会福祉、公共政策、言語文化、グローバル・コミュニケーション、国際関係、経済学、経営学、法律学、政治学、文学、心理学、科学と社会、総合IT、データサイエンスの全17領域の多様な副専攻が用意されている。
その中で2021年4月から導入されたのが「データサイエンス副専攻」だ。小森氏はその目的を次のように語る。「政府は『AI戦略2019』において、『数理・データサイエンス・AI』はデジタル社会の基礎知識であると明言しています。ですので、データサイエンスは英語と同じように、身に付けておくと今後様々な場で活躍できる可能性を広げてくれる1つの技能です。これからの時代、データサイエンスは文系理系に関係なく、すべての学生に持っていてほしい素養・教養であり、そのリテラシーレベルを高め、実際に使いこなすことができるようになることが大切です」
実際、データサイエンスに欠くことのできない統計学の基礎は経済学部や経営学部でも学んでおり、毎年、さらに知識を得たい経済学部の学生が小森氏の授業を受けているなど、経済学部や経営学部の学生であれば、データの活用はまだなじみがあるかもしれない。しかし、法学部や文学部の学生がデータサイエンスを自分の専門性にどのようにプラスできるのだろうか。
「例えば犯罪心理学の分野では、受刑者の更生プログラムの評価が重要になることがありますが、これもデータサイエンスの手法を用いることで可能になります。また文学の世界では、テキストマイニングの技術を使って、日本書紀などの古典に使われている用語や表現を解析するといったこともできるでしょう」
学生の中には、データサイエンス副専攻で、初めてビッグデータやAIに触れるという学生もいるだろう。「入門編から応用編まで、学生の関心やリテラシーレベルに応じて、段階的に学べるカリキュラムを用意しています。まずは興味を持ってもらえるようにしています」(小森氏)。学習意欲のある学生は、統計学やプログラミングなども発展的に学ぶことができるが、その一方で、表計算ソフトのみで統計分析や解析を学ぶ入門者向けの基礎的な科目も配置されているという。
ワンキャンパス内に小学校から大学・大学院までを擁する強みを発揮
「データサイエンスは1つの技能であり、それを机上の研究だけでなく社会に出て活用することが大切だと考えています」と小森氏は話す。
1912年の建学以来、個性を尊重した真の人間教育を行い、社会に貢献できる人材を育成するという創立者の思いを継承しながら、さらなる教育の充実を図ってきた成蹊大学。「本物に触れる」「体験して学ぶ」ことを重視し、教室の中だけでなく、「フィールドワーク」や「地域との連携」など教室の枠を越えた教育を実践してきた歴史がある。
地域社会や産業界との連携は、成蹊大学ならではだ。キャンパスのある武蔵野市や近隣地域の諸団体と連携し、地域が抱える問題の調査・研究に取り組む課題解決型授業を行っている。また、成蹊大学独自の産学連携人材育成プログラム「丸の内ビジネス研修(MBT)」では、有力企業の協力のもと、ビジネスの中心地・丸の内を主な舞台として徹底した実務体験から社会に求められる素地を養う。約7カ月間をかけて協力企業からの課題やインターンシップに挑むこのプログラムでは、文系・理系の学生が協働して課題に取り組むのも特色だ。
「AI・データサイエンス教育についても、これまで成蹊大学が培ってきた、地域との連携、産業界との連携を生かしていきたい」と語る小森氏は、ワンキャンパス内に小学校から大学・大学院までを擁する総合学園としての世代を超えてつながりがあることも成蹊大学のメリットだという。「成蹊大学ではすでに、大学生が小学校の英語の授業にTA(ティーチングアシスタント)として参加したり、大学の教員が高校や中学校で出張授業を行ったりといったことが柔軟に行われています。日本ではようやく大学でAI・データサイエンス教育が始まったところですが、いち早く小学校、中学校で教えるといったこともできます。小学生から大学・大学院までがつながるAI・データサイエンス教育を行い、さらに将来的には、社会人学生なども成蹊大学のキャンパスに集うようになるといいですね」
成蹊大学であれば、多様な学生、教員が共に学び、大学が連携する地域・企業の方々との交流を深めることで、他者理解力や協調性、発信力も育まれるに違いない。「データサイエンスの基本的な考え方を修得し、さまざまな社会課題の解決に役立て、世界中の人々のより良い生活のために活用してほしい」と小森氏が熱を込めて話すように、産業界や行政で成蹊大学の卒業生の活躍が期待される。
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