1つのキャンパスに文系4学部が学ぶ成城大学は、データサイエンス教育に早くから取り組んでいる。2015年には全学共通教育科目として「データサイエンス科目群」を開講。2019年には「データサイエンス教育研究センター」も開設した。文系大学ならではの理数系教育を実践している点に大きな特色がある

産学連携によるデータサイエンス教育導入
専門の教育研究センターも開設

「ビッグデータ」「AI(人工知能)」といったキーワードが一般的になっている。これらを活用する「データ・ドリブンな思考(データを起点とした論理的・科学的な思考)」ができる人材のニーズも高まっている。

成城大学 データサイエンス教育研究センター長 小宮路 雅博 氏

 成城大学は、経済学部、文芸学部、法学部、社会イノベーション学部の4学部11学科を擁する人文・社会科学系大学である。それでいながら、早くからAI・データサイエンス教育に力を入れてきた。成城大学 データサイエンス教育研究センター長(経済学部教授・前経済学部長)の小宮路雅博氏は、「本学は文系大学としてはいち早くデータサイエンス教育に取り組んで来ました」と話す。2021年4月からセンター長を務める小宮路氏は成城大学におけるデータサイエンス教育導入に尽力し、データサイエンス教育研究センター立ち上げにも関わってきた。
 
 同大学でのデータサイエンス教育導入に際し、2014年に日本アイ・ビー・エム との産学連携交流がスタート。2015年には同社東京基礎研究所との包括協定による「データサイエンス概論」を含む「データサイエンス科目群」を開講している。授業の中では当初から当時の先進AIであるIBM Watsonが活用されていた。人文・社会科学系大学の中では時代を先取りした取り組みであったことは言うまでもない。

 現在、データサイエンス科目群は、「データサイエンス概論」「データサイエンス入門Ⅰ」「データサイエンス入門Ⅱ」「データサイエンス・スキルアップ・プログラム」の基礎4科目と、「データサイエンス応用」「データサイエンス・アドバンスド・プログラム」の応用2科目の段階的に学べる6科目からなり、学生のレベルに合わせた授業が展開されている。特定の学部や学年に特化させるのではなく、全学部・全学科の1年生から4年生まで、誰でも学べるようになっている。

 また、科目を支える環境整備も積極的に行っている。「2019年4月にはデータサイエンス教育を定着させ進化させる役割を担う『データサイエンス教育研究センター』を開設しました。2021年4月には新校舎の大学9号館にデータサイエンス科目専用の教室「データサイエンススクエア」も完成しました」(小宮路氏)。

データサイエンス科目専用教室「データサイエンススクエア」

 新たに完成した大学9号館は、最新機器を備えたデータサイエンス教育研究センターに加え、自習スペースの「ラーニング・スタジオ」や、国際交流を目的とした「成城グローバルラウンジ」なども備える。コロナ禍により対面の授業は減ってはいるものの、学びの土壌となる場が生まれたことは頼もしい。データサイエンス教育がさらに充実することが期待できる。

目指すのは、データサイエンスの視点を持った文系人材の育成

 文系大学である成城大学が、ここまでデータサイエンス教育に力を入れているのは注目に値する。小宮路氏は「これからの社会においては、文系学生こそデータサイエンスを学ぶべきです」と話す。

 データサイエンス教育研究センターのミッションにもその考えが示されている。そこでは「データに関心を持ち、データに基づき考え行動する学生を育てます」「データサイエンスの人文・社会科学の分野への応用を推し進めます」と掲げられている。

 特筆すべきは、成城大学のデータサイエンス教育は決して、統計や解析などができるスペシャリストを育てようとしているわけではないことだ。

「成城大学が育成しようとしているのは、あくまでも、データサイエンスの視点を持った文系人材。データを見ることができ、社内外の技術者と協業したり、経営トップや役員などにデータの表す意味などを説明したり、課題解決の選択肢を提案したりできる人材です」と、小宮路氏は説明する。

 まさに、デジタル・トランスフォーメーション(DX)を推進しようとする多くの企業で需要が高まっている人材と言えるだろう。

 政府も「AI時代に求められる人材育成」として2025年までの人材育成目標を掲げている。2019年4月に開かれた「総合科学技術・イノベーション会議(第43回)」では、「AI時代に求められる人材育成に関する主な取り組み」として、「デジタル社会の『読み・書き・そろばん』である『数理・データサイエンス・AI』の基礎などの必要な力を全ての国民が育み、あらゆる分野で人材が活躍」する社会を目指すとしている。 そのためにはリテラシーの向上が不可欠とされているが、成城大学の取り組みはまさに国が進める新時代の教育モデルに合致する。

 2021年3月には、 大学・高専の正規課程のうち数理・データサイエンス・AIに関する知識及び技術について体系的な教育を行うものを文部科学大臣が認定する「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(リテラシーレベル)」(MDASH認定)への申請受付が開始されている。 成城大学も申請を行い、同年8月4日付けで認定を得ている。

「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」認定ロゴ
(有効期限:令和8年3月31日)

次世代をリードする思考力をもった人材を育成する

「成城大学のデータサイエンス教育の実践は今年度で7年目になります。これまでの経験と実績には大いに自信を持っています」と小宮路氏は語る。

 データサイエンス科目群の累積履修登録者数はこれまで2,400人を超えている。特に「データサイエンス概論」は人気で、毎年のようにクラスを増枠しているという。

データサイエンス科目群 累積履修登録者数と開講クラス数

 その背景として「難しい数式をいきなり使うのではなく、できるだけ文系学生が関心を持つように授業を工夫しています」と小宮路氏は説明する。さらに、各学部との連携も入念に行っているという。データサイエンス教育研究センターの教員と各学部の教員による運営委員会が組織され定期的なミーティングを行っている。まさに、主専攻を持ちながら、データサイエンスを「武器」として生かせる学生を育てるために、全学が一丸となって取り組んでいるわけだ。

 その一方で、関心を高め、応用レベルの科目まで積極的に履修する学生もいるという。中には外部のハッカソン(技術コンテスト)に参加するほどの学生もいるというから驚く。

 さらに特筆すべきは、成城大学は、すでにデータサイエンスの授業を履修した多くの卒業生を世に送り出していることだ。その中にはデータアナリストなどICT関連の職業についた学生もいるという。成城大学のブランディングも変化し、存在感も高まりつつある。

「データドリブンな思考を身に付けることで、次世代をリードする人材を育てていきたい」と小宮路氏は力を込める。その言葉どおり、文系大学ならではの成城大学のデータサイエンス教育に大いに期待が高まる。


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