半導体製造大手のソニーセミコンダクタマニュファクチャリング(株)がAI(人工知能)の活用を積極的に進めている。大きな特長は、AIに精通したエンジニアだけでなく、間接部門の人材も含め、社員一人一人がAIツールを使いこなせることを目指している点だ。
半導体の製造工程に
AIツールを導入し製造効率を向上
ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング(株)は、画像認識のCMOS(相補性金属酸化膜半導体)イメージセンサーをはじめとする半導体のプロセス開発・生産を行っている。同社には「AI応用研究会」があり、AIの業務への活用を推進している。その背景について、研究会リーダーで同社AI応用研究会 シニアAIエキスパートの安田氏は次のように語る。
「半導体の製造は高度に自動化されています。数百もの工程がありますが、そこからさまざまなデータがつぶさに上がってきます。当社ではこれらのビッグデータをAIを用いて解析し有益な情報を得ることで、できあがる製品の特性を予測しています」。
安田氏によれば、初期の工程での製造状況で得られる多数のデータに基づき、最終工程後の製品特性が予測できるという。「このまま製造を続けると、特性に合わない製品(不良品)がどれくらい出る」といったことが事前に予測できるわけだ。「予測分析に基づいて、後工程を調整することで、製品の歩留まりを改善することができるようになりました」と安田氏は紹介する。半導体の製造は標準化が進んでいる。中でもウエハー直径300ミリの半導体は世界的に標準化されている。
「データそのものの解析技術も進化しています。ただ、数百もの工程から出てくるパラメーター(評価軸)も膨大で、それを眺めているだけでは何が起こっているか、なかなかわからないのです。そこで、従来は統計学や多変量解析に精通した社員が、多数の変数があるデータについて相関などを評価していましたが、これができる社員は限られていましたし、できたとしても、分析のためには多くの時間を要していました」(安田氏)。
その課題を解決するために同社が導入したのが、AIを用いた予測分析ソフトウエア「Prediction One(プレディクション ワン)」だ。機械学習やプログラミングなどの専門知識がなくても操作できるユーザーインターフェースが大きな特長で、数クリックの操作で高精度な予測分析を実行できる。
「Prediction One」を選んだ理由について安田氏は、「最先端のニューラルネットワークやアルゴリズムをGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)で直感的に扱えるという点を評価しました。予測分析の結果も短時間で得られるため、多くの工程でさまざまな分析を試すこともできるようになりました」と話す。
すでに製品の歩留まりも改善しているとのことだが、製造効率のさらなる向上にも期待できそうだ。
河川の氾濫予測などBCPにも
AIツールを活用
「Prediction One」の導入により、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング(株)では新たな動きも起こっているようだ。
安田氏は「社員が自分の業務や知見をもとに、『こんなことに使えないか』と活用するようになっています。装置のメンテナンスを行う部門では、故障の予測などに『Prediction One』を利用しています」と話す。装置から得られるさまざまなデータをもとに、AIで故障が起こりそうな時期などを予測分析するという。事前に対応することで、故障による製造ラインの停止なども防ぐことができ、コストも抑えることもできる。
「また、予測分析ではありませんが、検査の自動化などに『Prediction One』を活用している部門もあります」。半導体が不良品となる原因の一つに異物の混入がある。異物の混入を分析するのは、今まで人が手作業で行っていたが、「Prediction One」のAIがそれに代わることができるという。
さらに特筆すべきは、「Prediction One」の利用が間接部門でも進んでいることだ。「社内にも、統計解析や多変量解析はエンジニアでなければできないという印象を持つ人が多かったのですが、『Prediction One』を導入することで、これまでそのようなデータ解析に馴れ親しんでこなかった社員も気軽に使うようになっています。河川の氾濫予測など、BCP(事業継続計画)の観点での利用もその一つです」と安田氏は話す。
同社では大雨で最寄りの河川が氾濫警戒水位に達した場合、1階にある重要資産を移動して非常事態に備えていた。しかし、水位が急に上がった際、対応時間が十分に取れなかったり、就業時間外の対応が難しかったりというリスクも考慮して『Prediction One』を利用し、上流の地域の雨量の実績・予報や、付近の河川の水位、河口部の潮位などから最寄りの河川の水位を予測する仕組みを構築した。
同社ではさらに経理部門でも「Prediction One」を利用している。社員から問い合わせの多い項目については、AIが自動で回答するチャットボット(自動応答システム)をすでに導入していたが、その内容の分類は人が手作業で行っていた。そこで、「Prediction One」の自然言語処理技術を活用し、ラベリングなどを機械学習で教えることで作業の自動化が可能になったという。
多くの社員が予測分析を日常的に行えるように
「AI応用研究会」の活動などを通じて、社内へのAI活用推進を行っている安田氏はさらなる将来像を描いている。「当社ではすでに多くの社員が『Prediction One』を利用しています。エクセルやパワーポイントのように、社員がAIツールを利用するような環境を作りたいと考えています」(安田氏)。
「半導体業界は標準化が進み、なかなか差異化が難しくなっています。当社ではそこで、全社員が予測分析を日常的にできるようなところまで持っていきたいと考えています。それにより、データ分析にかかっていた時間を付加価値の高い業務に使うことができるようになります」と安田氏は続ける。
「Prediction One」を提供するソニーネットワークコミュニケーションズ法人サービス事業部AI事業推進部 Prediction One プロジェクトリーダーの高松氏も、予測分析の重要性を次のように指摘する。
「大手企業はもちろんのこと、中堅中小企業でも実は多くのデータをお持ちです。そのデータを活用して予測分析をすることで生産性や業務効率の向上につなげることができるのですが、従来はそれをベテラン社員が経験と勘で行っていました。それをツールに任せることによって、経験の浅い社員でも予測分析ができるようになります。また、ベテラン社員も分析自体を自動化することで分析にかけていた時間を削減し、コア業務に注力することができるのです」。まさにデータドリブン経営が実現するということだろう。高松氏によれば、営業部門やマーケティング部門での成約予測、解約予測でも「Prediction One」を活用する企業が増えているという。
安田氏は「『Prediction One』は専門的な知識がなくても使えるので、私自身、意外な場面で『こんな使い方もあるのか』と驚くことも少なくありません。AIによる予測分析の活用により、新しい半導体製造のモデルを作り、当社の競争優位性をさらに高めていきたいと考えています」と力を込める。その実現に向けて、「Prediction One」も貢献することになりそうだ。
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