独自のクリエイティビティによりデジタルエクスペリエンスの可能性を追求してきたアドビ。今や「PhotoshopやIllustrator、PDFの会社」という既存イメージを大きく超え、クラウド基盤「Adobe Experience Cloud」をベースにCXM(顧客体験管理)の可能性を追求するリーディングカンパニーだ。中でも7月末に開催されたAdobe Experience Makers Liveは、「デジタルシフトに立ち向かう、すべての“マーケター”へ」をテーマとしたアドビ主催のオンラインイベント。今回は、このAdobe Experience Makers LiveのDay2テーマである「ニューノーマルにおける組織変革」よりBreakoutセッションをピックアップ。バンドー化学 産業資材事業部 営業部 部長代理の小林義正氏による講演をお届けする。
Marketo、Magento等の導入でスタートした
グローバルECという挑戦
バンドー化学は産業用伝動ベルトやコンベヤベルト、広告用フィルムや伸縮性ひずみセンサの開発・製造をコア事業とし、神戸を本拠地としながら創業114年の歴史を築いてきた産業財部品メーカー。グローバル化も進み、今では15ヵ国20拠点で業務を展開しています。私の現在のミッションは、大きく4つに分かれるバンドー化学の事業体を、デジタルマーケティングおよびSFA等によって部門横断で活性化させていくというものです。
日本の製造業、とりわけ当社のようにBtoB領域に従事する企業の存在は決して派手ではありませんが、強みは生真面目さ。地道な努力を厭わない姿勢と、新しい可能性に対するチャレンジスピリットにあると自負しています。バンドー化学も実は早期からITおよびデジタル技術の導入を進めてきました。私自身、中国などの海外拠点でECサイト確立やSFAマーケティングに携わってきたのですが、数年前より始まった営業分野の変革に参画するべく帰国して現在に至っています。
大規模な営業改革タスクの最初の挑戦は2017年。Marketo(マーケティング)、Sansan(名刺管理)、kintone(SFA)の本格導入と連携活用を軸にしながら、全社レベルの営業支援を実行していく取り組みでした。そして2019年にはグローバルECサイトのリニューアルに着手。この時にMagento(BtoBコマース)の導入も行いました。
基本的に当社のグローバルECサイトは他の製造業と同様、各国のお客様と自社の海外拠点とをつなぐ役割を主に担ってきました。国や地域によって市場動向はもちろん、言語や文化も違いますから、欧州のことは欧州で、アジアについてはアジアで、というようにサイト構築も切り分けて考えていたのですが、今回の改革ではグローバル共通の基盤を据えることに主眼を置きました。
ただし、いきなりすべてのECサイトを刷新するのではなく、欧州を皮切りに変革を実行し、そこでの学びや気づきも踏まえてグローバルECサイトへと進化させていく計画で動き出しました。なぜ欧州なのかと言えば、ECサイトの活用度と期待値が特に高いからです。例えばバンドー化学の欧州拠点は2つありますが、その2拠点で50ヵ国と向き合い、32もの言語に対応していかなければいけません。また日系企業にとって欧州はコスト高という課題もあり、使える営業リソースも限られています。だからこそのEC活用というわけです。2014年という早い時期からECをすでに展開していたのもこうした背景あってのことですが、2019年のグローバルEC化計画においては、旧ECの機能継承はもちろんのこと、既存サイトの問題点解決にも取り組み、グラフィック向上などデザイン面での進化にも力を入れました。
“Marketo to Magento”が可能にした
「つなげるEC」という強み
加えて、今後のグローバルECとしての営業活用を思い描いた上で、さらなる機能強化にも挑戦しました。その内容は大きく分けて3つ。1つは「コンテンツを届ける場」としての機能。2つめが多言語対応の翻訳機能。3つめが「つなげる機能」です。これらすべてを短期間で叶えていくうえでMagento導入を決定したとも言えます。
「コンテンツを届ける場」の機能とは、要するに「単なるカタログ写真を超える、使い方や体験につながっていくコンテンツの追加提示が自由にできる」というもの。多言語翻訳機能には、今後もしも対象地域の拡大により使用言語が増えた場合にもアジャイルに対応できる仕組みを追求しました。さらに「つなげる機能」として「Marketo Engage」を通じ、キャンペーンのお知らせなど、コミュニケーションの活性化につなげていける仕組みも盛り込んでいくことにしたのです。
開発は2019年の9月から2020年の4月まで実質8ヵ月間。日本と欧州の間には言葉の壁、時差の壁、ITリテラシーの壁、働き方文化の壁(クリスマス休暇や正月休み等)がありました。しかも欧州にはGDPRという強固な個人情報保護を実現しなければいけないという壁もあったのですが、これらを超えていくことが我々の挑戦となりました。なんとか乗り越えられた背景には、冒頭申し上げた日本の製造業界が持つ生真面目さとチャレンジスピリットがあったからだと自負していますし、MarketoおよびMagentoという高いグローバル実績を持ち、相互連携に優れた技術があってのことだったと実感しています。
ただし、リリースしてからも苦難は続いています。なんといってもコロナショックの影響は甚大でした。新ECサイトは2020年4月から本格稼働していますが、本来ならば今ごろ私は欧州で説明会を開いており、さらに間髪を入れずにアジアでのECサイト開発へと動く予定でしたが、それらすべてが白紙になりました。日本においてもSFAのレポート数が半減したり、新規の名刺登録がほとんどなくなったり、というように営業活動に大きな影響が出ているのです。
コロナショック下の営業部隊に一筋の光明を示した
デジタルの力
ところがこの苦境突破に向けた可能性を、新ECサイトが示してくれているのです。コロナショックを皮切りに既存の活動ができなくなった営業現場では、ECを起点にしたお客様への価値提供に力を入れるようになりました。具体的には、ウェビナーや動画発信という活用の仕方が増えています。おそらくコロナショックというきっかけがなければ、ウェビナーなどはあまり使われなかったかもしれません。なぜなら、やはり営業現場には「対面でなければ伝えきれない。オンラインではお客様と十分につながることができない」という気持ちが根強くありました。「どこまで効力を発揮できるかわからない」という疑問視をなかなか払拭できなかったのです。
ところがコロナショックによって他の選択肢を奪われ、ある意味、半信半疑で実際に手がけてみると、オンラインコミュニケーションを通じた質疑応答などで大きな反響を得ました。1人の担当者が一方的に話しかけるスタイルから、2人の担当者による掛け合いでウェビナーや動画を提供し始めると、想像を超える数のお問い合わせや質疑応答の機会を手に入れることができました。
Magentoの導入はこうして欧州でスタートしましたが、開発当初から計画していた通り、今後アジアから世界へ向けて拡大します。世界的に営業人材の活動には制限が加わっている中ですから、より一層ECサイトの役割は重要となります。単にオンラインでモノを売るためだけの場にするのではなく、Marketoとの連携を通じて、営業活動やマーケティング活動そのものを活性化する場としても活用していきます。
さらに日本で手応えを得たウェビナーの形、2人の担当者による掛け合いのスタイルを全世界に伝達していきたいとも考えています。タイの拠点などでは、すでに日本流の掛け合いスタイルで動画を制作し、発信しています。実はアジアは以前から独自にFacebookを活用した情報発信、コンテンツ提供をして有効な手応えを得ていたのです。このように、世界各地の拠点が活用実績を積み重ね、それを積極的に世界で共有していくことができれば、私たちが目指す営業変革は必ず達成できると信じています。“Marketo to Magento”によるDX時代に相応しい顧客接点作りを推進しながら、日本の強みを活かしたグローバル戦略を実現していきたいと考えています。
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