経営者や経営幹部を対象とする研修プログラムは数多くある。その中、2019年1月にサービスを開始したばかりにもかかわらず、受講した企業から「経営者や経営幹部の意識やビジョンが共有できるようになった」と高く評価されている研修がある。グループウエア大手のサイボウズが提供する「チームワーク経営塾」だ。その秘密はどこにあるのか。

前向きな議論を生み出すための
「事実」と「解釈」の確認

「経営幹部と、こんなに腹を割って話したのは初めてです」と、サイボウズの「チームワーク経営塾」を受講した感想を語るのは、株式会社オリンピア 代表取締役の加藤通浩氏だ。

 株式会社オリンピア(本社 名古屋市中区)は、キャラクターや雑貨、文房具、バッグなどバラエティに富んだラインナップで、お子様とそのお母様をメインターゲットに、東海、関東、関西地区を中心に店舗展開している。店舗数は現在70店舗、アルバイトを含む総社員数は現在460名、そのうち9割が女性だ。(2019.12月時点)

 同社は、1969年11月4日に前身である銭屋万年筆から改編し、2019年11月4日をもって創立50周年を迎えたところである。先代より経営を受け継いだ加藤氏は、「商品の品揃えや仕入などのすべての権限を店長に任せ『店長=経営者』という小売業ではきわめて稀な仕組みを取り入れ、現場中心主義などを積極的に進めています」と話す。

「チームワーク経営塾」には、加藤氏とともに経営幹部であるエリアマネジャー4人が参加した。北川敏之氏もその一人で、次のように課題を語る。

「加藤が紹介したように、当社は現場中心主義で、若いマネジャーや店長にも権限を委譲し、意見を言える風土はあります。一方で、その視点が各店舗やエリアに限定されており、情報が縦割りになっていたのも事実です」

「チームワーク経営塾」に参加した、株式会社オリンピアの皆さん
写真の左から2番目が代表取締役の加藤氏、一番右がエリアマネジャーの1人の北川氏

 たとえば、エリアが異なる店舗では、売れ筋商品の情報が共有されていなかったという。

 加藤氏は次のように話す。「経営幹部についても、それぞれが自分の評価基準に基づいて会話をするため、意見がかみ合わないということもよくありました。今から思えば、当社は議論が活発な会社だと思っていたけれど、口にするのはサイボウズの『チームワーク経営塾』で指摘された、『解釈』ばかりで『事実』ではなかったと思います」

 サイボウズの「問題解決メソッド」では、問題を「事実」、「解釈」などのマトリックスで表すことを勧めている。「事実」は、誰が見たり、聞いたりしても確認でき、共通の認識が持てる「確かなこと」だが、「解釈」とはそれを見て、「思った」ことにすぎない。いくら「自分はこう思った」と解釈したところで、前向きな議論にはならないわけだ。

 問題解決メソッドで、行動によって現実が引きおこされ、行動によって理想を引き起こす。事実の理解と、行動に着目することで原因が見つかり、その議論を進める中で、冒頭にある「経営幹部と、こんなに腹を割って話したのは初めてです」と言わしめる議論が加藤社長と経営幹部の間で沸き起こったのだ。

サイボウズの「問題解決メソッド」を活用した議論の様子

「公明正大」な情報共有の
仕組み作りに着手する

 2日間の研修について、加藤氏は次のように語る。「『それは解釈なのか事実なのか』と確認することで、経営幹部と私とが同じ方向を向いて共通言語で議論ができるようになりました。さらに意外だったのは、『チームワーク経営塾』では、サイボウズの山田理副社長が2日間付きっきりでサポートしてくれ、私たちの本当の思いを引き出してくれること。『情報格差の無い公明正大なチームを作るべき』とは言われましたが、サイボウズの真似をしろとは一言も言われませんでした」

 また、北川氏は「私たちは情報の伝達はできていたが、共有はできていなかったと理解しました。『情報共有=公明正大』だと考え、さっそく、エリアをまたいだ情報共有の仕組みを構築することにしました」と話す。

さらに、サイボウズ山田副社長の講義「制度を増やし風土を創る」で紹介された「制度の内容や、ツールの選び方によって風土が作られる」について感銘を受け、オリンピアではすぐにこの内容を実践した。ツールの導入を検討し、情報の共有範囲を広げることで、「公明正大」な組織づくりを進めていく予定である。

 オリンピアでは今後も引き続き「チームワーク経営塾」に、経営幹部と加藤氏が参加する予定だという。「今後、準エリアマネジャーも含め10数人の次期幹部候補生にも参加してもらうつもりです。そうなると、会社のビジョン、人材育成の方針などが共通言語として語れるようになると思います」と加藤氏は期待を込める。

歯科医院が目指す
チームワークあふれる組織とは

 京都市にある歯科医院、たけち歯科クリニックのパートを含む職員数は50人。単体のクリニックとしてはかなりの陣容と言えるだろう。武知幸久院長も含め13人の歯科医師、10人の歯科衛生士、さらに、栄養士や管理栄養士の資格を持つドクターマネジャーが5人、受付、事務などにより構成されている。

「チームワーク経営塾」に参加した、たけち歯科クリニックの皆さん
写真の右から2番目(テーブル奥右側)が院長の武知氏

 優れたスタッフを擁していることに加え、専用個室での丁寧なカウンセリング、最大限痛みに配慮した治療、ひとり一人のニーズに合わせた治療方針の立案なども好評だ。

 患者視点で質の高い医療サービスを追求しているたけち歯科クリニックだが、それでも、院長とスタッフが同じ研修に参加するといった取り組みは、歯科業界でも例が少ないのではないだろうか。

 武知氏は「確かに、周りを見ても、当医院だけですね。しかし50人と人数も多いことからチームワークが重要だとずっと考えてきました」

 歯科業界は他の医療機関に比べ、離職率が高いとも言われる。特に歯科衛生士の不足に悩むクリニックも多い。ただし、転職する人は、待遇よりも人間関係を理由に挙げる人が多いようだ。

「小さなクリニックでは組織の中で意志決定をする際に、トップダウンで行うことがほとんどです。実は当院もそうでした。しかしそれではスタッフの納得感も得られず不満も蓄積しがちです」(武知氏)。

 と言っても、40人以上もいるスタッフの合意形成を取ることは容易ではない。実際に課題も生じていたようだ。ドクターマネジャーの栗木千明氏は次のように話す。「武知院長から突然、『今度からこうすることにしたから』と指示があるのですが、なぜそうするのか、意図がわからないこともよくありました。逆に、私たちが『こうすれば』と提案しても採用されず、さらにその理由も説明されないので、がっかりすることもありました」

ワークショップで徹底的に議論
院長とスタッフの価値観をすり合わせる

「当院は今後さらに拡大を目指しています。今の規模のうちに、チームワークのある組織を仕組みとしてしっかりと作っておきたいと思い、サイボウズの『チームワーク経営塾』に参加しようと考えました」と武知氏は話す。もちろん、患者さんに信頼されるクリニック、スタッフに「ずっと働きたい」と思ってもらえるクリニックにしたいという思いもあった。

「ただし」と、人事の青山絵梨氏は語る。「社歴も職種も異なるスタッフ全員が、武知院長と同じ方向を向いて仕事ができていたかと言えば疑問もあります」

 サイボウズの「チームワーク経営塾」では、ワークショップ形式で経営者とスタッフが徹底的に議論をする。その中には「シャッフルタイム」と呼ばれ、“同期生”である経営者同士が議論したり、経営者がいない場でスタッフだけで議論したり、さらには経営者が別の企業のスタッフの議論に参加したりする場もあるという。

「シャッフルタイム」の様子
たけち歯科クリニックのワークショップに、前述のオリンピア代表取締役の加藤氏が参加

 青山氏は「ワークショップでは、『これは言ってはまずいかな』と遠慮することもなく、言いたいことが言い合えました。武知院長の価値観と私たちの価値観のすりあわせができたと感じています」と話す。

 栗木氏も「私たちスタッフも、武知院長の考えがわからなければ聞けばいいんだと、道が開けたという手応えがあります」と語る。

「シャッフルタイム」では武知氏も新たな発見があったようだ。「チームワークに関する課題は、業種業態が違っても共通するものがあると思いましたし、歯科業界でも参考になる点が多いと感じました」

「チームワーク経営塾」を受講し、新たな取り組みも始まったようだ。「サイボウズのグループウエアを使い、異なる職種のスタッフが情報を共有するようにしました。さらにそれぞれの掲示には武知院長が常にコメントしてくれ、それに対してスタッフが質問するとまた武知院長が答えてくれるようになりました」(栗木氏)。そのやりとりを見るだけで背景や目的も把握できるわけだ。

「『経営塾』ではTO DOとして『たけちのつぶやき』を作ることも決めましたので戻ってさっそく始めました。情報のフラット化をさらに進めていきます。これらの取り組みを通じて、業界一チームワークあふれる組織となり、歯科業界の活性化にも貢献したいと考えています」と武知氏は力を込める。

 今後は歯科衛生士などの専門スタッフとともに「経営塾」に参加することも検討しているという。まさに、業界の先例となる取り組みとして、その進捗に注目したいところだ。


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