世界的なケミカルポンプメーカーとして、あらゆる業界向けに流体制御機器を製造販売している株式会社イワキ。歴史ある製造業であるが故に、ビジネスのIT化、IoT化は必要不可欠の課題だった。

 老舗ポンプメーカーであるイワキが産業用IoTベンチャーのアムニモとの協業により、新たな顧客価値の創出に成功した。

老舗のケミカルポンプメーカーがIoT化に取り組んだ理由

 株式会社イワキ(以下、イワキ)は、ケミカルポンプを中心とした流体制御機器メーカーである。創業は1956年。最古参の世界的ケミカルポンプメーカーとして、あらゆる業界に流体制御機器を提供している。

「私たちが手掛けているのは、水以外の薬品を移送するポンプの製造販売がメインです。食品や化学、半導体分野の生産設備で使われたり、医療機器の中に入っていたりといった形で、“縁の下の力持ち”として製品をつくり続けて販売しています」。こう話すのは、同社の製品企画本部 海外戦略部 主管の横山正彦氏だ。

株式会社イワキ
製品企画本部 海外戦略部 主管
横山正彦氏

 単一製品を製造販売するメーカーが多い中で、イワキは「ポンプのデパート戦略」を打ち出し、創業当初から幅広い業界・分野に向けて、さまざまな駆動方式を持ったポンプを開発・製造してきた。多品種少量生産を強みとして、製品バリエーションは数万種類にものぼるという。また、国内だけでなくグローバルにもビジネスを展開しており、欧米、アジア太平洋地域の15カ国に21のグループ会社を有する。

 2年ほど前から、計測制御機器メーカー出身のベンチャー企業であるアムニモと協業し、自社製品の「ポンププロテクタDRN」(ポンプと周辺設備の異常運転による空運転、キャビテーション発生、オーバーフローなどを監視する装置)をIoT化すべく、渦巻きポンプを遠隔監視するビジネスの企画検討に着手。渦巻きポンプの遠隔監視サービス「pump guard(ポンプガード)」の名称でこのほど本格的にアムニモからサービス提供を開始した。

 伝統的なものづくり企業であるイワキだが、なぜ、外部のパートナーと組んで、自社製品のIoT化に取り組んだのか――。その経緯について、横山氏は次のように語る。

「30年前ほどから、システム製品といわれるポンプの周辺機器や制御/計測機器の製造販売も手掛けるようになり、お客様の声に応える形で、遠隔監視の仕組みなども提案し、実績をつくってきました。その後、携帯電話の通信網を使った遠隔監視にも果敢にチャレンジしてきましたが、通信環境の変化の速さについていくことができず断念した歴史があります」

 常に最新の通信環境で、ハードやソフトが安定的に稼働するようなシステムを開発・運用することは、いち機械メーカーにとっては困難だった、と横山氏は振り返るが、インターネットの普及によるIoTインフラの登場により、状況は一変する。

「インターネットを活用するIoTインフラ(プラットフォーム)を使えば、ポンプなどの遠隔監視の仕組みが容易に構築できるのではないか。IoT先進地域でありIndustry 4.0を推進する欧州で、そうした気運が高まり、本社にも要求が届く中で、アムニモと出会い、うまく両社の思いがマッチングして事業化に持って行くことができました」(横山氏)

 一方、アムニモのマーケティング担当で、「pump guard」の企画責任者の池上大介氏も次のように話している。

アムニモ株式会社
マーケティング担当
池上 大介氏

「当時、われわれもIoTを使った新しいビジネスモデルの開発を検討中でした。IoT導入が難しくコストがかかるデータ収集、通信、アプリケーション部分をパッケージ化し、アプリケーションを月額課金のサブスクリプションモデルで提供し、導入においてハードルとなりがちな初期コストを小さくし導入までの時間・手間を抑えることで、中堅・中小企業でも導入しやすいようなビジネスモデルを推進したいと考えており、その加速化には現場を知る企業とのパートナリングが必須と考えていました。そうした中、設備の心臓部にもあたるポンプはIoT搭載による生産性向上への投資対効果が高い機器のひとつと見ていたところ、自社製品のIoT化を模索されていたイワキと目指すところの思いが合致し、スピーディーに事業化をすることを念頭に協業を始めました。1カ月程度でプロトタイプを用意しPoC(概念実証)を進めながら、お客様が導入しやすくするメニューや機能、運用仕様などの事業開発を両社で意見を出し合いながら進めてきました」

異常を検知し、重大な故障を防ぐ「遠隔監視システム」

 アムニモが提供する「pump guard」とは、工場やプラントなどの生産設備などで幅広く使われている「渦巻きポンプ」の異常動作をローカルと遠隔で監視するシステムである。ポンプのメーカーは問わない。緊急時にはポンプを停止させることで重大な故障を未然に防ぐとともに、ダウンタイム(稼働停止時間)を削減することができる。DCS(分散制御システム)などで中央監視されていない工場などでの利用を想定している。集めたデータを活用することよりも、今現場で発生する最も悩ましい生産性に直結する業務課題を少しでも解決することに焦点を置いたソリューションである。

ポンプ構成図
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 もともとイワキは、渦巻きポンプの空運転を防止する端末「ポンププロテクタDRN」を販売しており、そこで電流や温度、流量・圧力などを計測し、緊急時にはポンプを停止するコントローラー機能を備えていた。しかし、その情報は敷地内のローカルエリアでしか知ることができず、稼働ログを取得し原因分析に利用したり、遠隔地のユーザーが異常を早く知り迅速にアクションを取るというユーザーの業務効率にどう対応できるかが課題となっていた。これを解決すべく、アムニモと事業検討してきたソリューションが「pump guard」である。

「生産設備が遠隔にあり、さらに国や地域をまたがっている場合、ポンプの異常が見つかっても、現地に足を運ばないと原因がわからないというのでは、一度の異常・故障で生産停止や製品の品質に影響が出て、数千万~数億円単位の損害が生じてしまうケースもあります。離れた場所からでも異常を検知し、必要なアクションを即座にとれるようにすることで、ダウンタイムを極力短くすることができます。このソリューションは、生産現場だけでなく、河川の水門や排水施設、温泉などのインフラで利用されるポンプ設備のメンテナンス効率化や災害対策にも応用できると期待しています」(池上氏)

 また「pump guard」は、稼働データを常時記録しており、万が一ポンプが故障した際にも、データを活用して故障の原因を分析することが可能だ。「ポンプの故障は、生産する製品の切り替えやオペレーションのパターンを変更する際に生じることが多いが、ログをとり続けることで、ポンプ自身に原因があるのか、それ以外に原因があるのかが明確になり再発防止にもつながります」と横山氏は説明する。

pump guard」は、イワキのビジネスを今後、大きく変革することになりそうだと横山氏は期待を寄せる。「従来は、有線を用いてやっていた現場監視の方法が、クラウドやインターネットを通じて、PCやタブレット端末上で担当者が把握できるような環境が整いました。今後は、ポンプの稼働データを長くとり続けることで、老朽化の判定やメンテナンス周期の推定などにもデータを活用することが可能になり、お客様に対してメンテナンスの提案や更新時のセールスにもつなげられると考えています」(横山氏)

 また、アムニモとの協業に対しては、「お客様のこだわりや生産現場における細かいニーズを具現化したポンププロテクタDRNの特長を打ち消すことなく、稼働データをクラウドに上げて、インターネットを経由して遠隔地から監視するという仕組みを、きめ細かいところまで対応いただき、設計・開発に反映していただいたところが、アムニモと一緒に組んでよかったところでした」と話している。

4つのパートナー形態で新たな顧客価値を創出

 アムニモは産業向けIoTの基本サービス「amnimo sense」の本格スタートに伴い、パートナープログラムの提供も今年6月から開始した。パートナーには、「セールスパートナー」「事業開発パートナー」「共創パートナー」「独立パートナー」の4タイプがあり、イワキは「事業開発パートナー」に相当。既存製品にIoTを組み合わせて、新たな顧客価値を提供するような事業を企画開発しただけでなく、今後、販売促進活動をアムニモと一緒に行っていくという2つの点で協働した。


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 中堅・中小企業向けのIT推進という目的で、コンサルティング会社、SIer(システム・インテグレーター)などからも「amnimo sense」への関心と協業の引き合いは増えていると池上氏は言う。

「IoTを『どういう用途でも、簡単に使えます』というのではIoTが目的となってしまい、新しい概念や仕組みに対してどのように検討しアクションを進めていけばよいのかピンと来ていないのが現状です。今回の「pump guard」のように、多機能の追求ではなく、特定の業種の対象ユーザーと用途を絞り込んだソリューションを、とことん現場に寄り添った形で仕様を検討し運用構築していくことがポイントになると考えています。そういった意味でも現場を知るパートナーは非常に重要な存在であり、イワキとは今後も違った形態での協業も検討していきたいと考えています。また、今回のイワキ・ポンププロテクタDRNと組み合わせた「pump guard」をきっかけに、例えば同業の企業各々がIoTツールを自社製品の囲い込みなどのいわば「競合」意識をもって提供するよりも、お客様の課題解決という目的を同じとする「仲間」としてアライアンスを組み、アムニモのアカウントを利用し各社IoTシステムの連携による複数種類のポンプと周辺設備の管理、そして人によるマニュアル運用されている現状の設備管理ワークフローの効率化も視野に入れたソリューション・シリーズ化の足掛かりにしていきたいと考えています」

 ビジネスのIT化(IoTを通じたデジタルトランスフォーメーション)を模索する企業にとって、アムニモは力強いパートナーとなり得るに違いない。経営課題や現場課題をITで何とか解決したいと模索しながら、特にITに対する投資余力や専門人材不足で課題を持つ企業は、一度アムニモに相談してみてはどうだろうか。

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