地域課題と気候変動を同時に解決
各地で始まる課題解決型ビジネスの波

 報道でもよく名前を聞く「パリ協定」。継続協議されている課題もあるが、脱炭素社会へ向けて大きな一歩を踏み出す画期的な内容となった。 その原動力は、先進国、途上国という立場の違いを超えた「気候変動」への強烈な危機感だ。
 国連に属し、気象に関する情報を発信する世界気象機関(WMO)も近ごろ、世界各地を襲う猛暑や豪雨のような極端な気象現象の発生頻度の増加が、長期的な地球温暖化の傾向と関係があると発表。日々発生する温室効果ガスが生活を脅かす事態を招いていることを、個々人がこれまで以上に意識せざるを得ないことを感じさせた。

 ただ、気候変動対策は難題だ。テーマが地球規模ゆえに個々の努力が目に見える効果として意識しにくいからだ。ここに一計を案じたのが環境省だ。同省は温室効果ガス削減のリーダーシップを発揮すべき存在だが、効果ある対策を増やし継続していくことの難しさも熟知している。そのため気候変動を引き起こす温室効果ガス抑制、ひいては脱炭素社会実現を、だれもが意識しやすい身近な課題と合わせて解決することを提案。課題を抱える当事者や解決策を持つ企業、地方行政と一体となった 新しい取り組みが始まっている。ここから、今後大きなトレンドとなるべき社会課題解決型ビジネスのヒントが読み取れる。

「地域課題」と「気候変動」を同時解決①
【三重県鈴鹿市】
太陽光発電とマイクログリッドで
市内小中学校にエアコン設置を完備

 毎年記録を更新する勢いの猛暑。2018年は教育現場のエアコン設置が大きな社会問題となり、気候変動が学習の場にも影を落としていることが明らかになった。そんな課題に、行政と一般企業がいち早く対応したのが三重県鈴鹿市だ。
 鈴鹿市は、市内の小中学校40校全てにエアコンの設置を計画したが、設置や運転に伴う財政負担は大きい。また、当たり前に設置したのではCO2排出量増加は免れない。二つの課題を同時に解決するために、太陽光発電を活用したマイクログリッド(地産地消型のエネルギーシステム)を構築した。
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●ポイント

・鈴鹿市内の小中学校全てにエアコンを設置。猛暑に対応しながら、太陽光発電やEMS(エネルギーマネジメントシステム)の活用などで省エネ、電力ピークカット、 環境負荷低減を実現
・リースを活用し、 エアコン、太陽光発電・蓄電設備などにかかる初期の財政負担を分散。三菱UFJリースがリースのスキームを、ダイキンがエネルギーシステムを構築。

「地域課題」と「気候変動」を同時解決②
【北海道釧路市・白糠町】
再エネで得た水素で発電。脱炭素コミュニティに挑む

 本来は治水などを目的につくられたダムを発電に利用し、CO2排出削減につながる再生可能エネルギーとして活用できないかと考えたのは、庶路ダムのある北海道白糠町と隣接する釧路市だ。だがそこには大きな障壁があった。たとえ水力発電設備を整えて電力を得ることができたとしても、それを送電するためには鉄塔や送電線が必要となり、大きな財政負担となる。そこで今回実証したのが、水素を活用した思いもよらない方法だった。
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●ポイント
・貯蔵・運搬が可能であり、CO2を排出しないエネルギー源である水素のサプライチェーンを構築。
・水素を「つくる」「つかう」を東芝エネルギーシステムズが、「ためる」「はこぶ」を岩谷産業が担当。幅広い企業と自治体が手を取り合って水素社会の実現を目指す 。

「地域課題」と「気候変動」を同時解決③
【熊本県熊本市】
九州産木材を使った建材「CLT」で、
職場環境の改善とCO2排出量削減を両立

 県のおよそ6割が森林という立地を生かしたプロジェクトが進むのは熊本県熊本市だ。駅舎など、これまでも積極的に木材を使用してきた九州旅客鉄道(JR九州)は、熊本支社の移転による新築の際、地場産の木材で製造されたCLT(直交集成板)と呼ばれる新しい建材を使用。 CLTはコンクリート並みの強度、燃えにくさという機能性を持ち、自然木ならではの風合いや木の香りで、働きやすい環境を実現。加えてCLTの高い断熱性でエアコン使用量の抑制およびそれに伴うCO2排出量削減が期待されている。
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●ポイント

・JR九州がこれからの建材ともいえるCLTを九州産の木材でつくり 、熊本支社を新築
・木の香りで職場環境のクオリティをアップするとともに、断熱性でCO2削減も両立

「地域課題」と「気候変動」を同時解決④
【東京都武蔵野市】
発想を180度逆転!
市の中心にごみ処理施設を設置して、災害対応と低炭素社会両立

 生活に欠かせないにも関わらず、迷惑施設などと敬遠され、居住地域から離れた場所にあることの多いごみ処理施設。これを、市民との話し合いによって市街地、それも市の中心ともいえる市役所の隣に建設したのが東京都武蔵野市だ。
 施設の名称は「武蔵野クリーンセンター」。外観はまるで図書館や美術館と見間違うようなデザインで景観にマッチしている。そればかりではない。この施設は、ごみ焼却時の排熱を利用した発電により周囲の公共施設に電力を供給し、CO2排出抑制を実現するとともに、災害時にも発電を継続することで市民を守る拠点としても機能する。
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●ポイント
・敬遠されがちなごみ処理施設を市民参加のもと、市役所の隣という人口密集地に設置
・ごみ処理の排熱を利用した蒸気タービン発電機によって、地域の災害対策とCO2排出量削減を両立

「企業の利益追求」と「地域レベル・地球規模の課題解決」の両立を

 ここまで見てきたように、行政と事業会社が協働して社会課題や温室効果ガス排出抑制に向けて動く姿は、国連が定め世界各国に呼び掛ける「持続可能な開発目標」(SDGs)や、投資家や株主が企業の社会的貢献度を図る指標として注目されるESG(Environment Social Governance)の視点にも合致する。
 企業は利益追求が地球規模、地域レベルの課題解決にもつながる仕組みを、関係機関や政府・自治体と共創していくことで、次の世代を担う企業としての存在価値を見いだしていくことになるだろう。

 

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